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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第72話 復讐の果て



 


 世界が真っ二つに割れた。そう表現するのが相応しく思えるほど、リアムの放った魔法は強力だった。


 リアムが指でなぞった空間の、その延長線上の全てが空間ごとずれた(・・・)のだ。地面も、空も、見えていない場所では他の悪魔も。魔界を常に覆っていた赤い雲も、その奥をぎっしりと埋めている不気味な骨も割れ、その切れ目からは光が地上に降り注いだ。


「な……あ」


 そして、『断空』の対象となったのはアモンも同じだった。なんとか体を逸らしたのか、体の中心で切られた訳ではなく被害は左腕一本で済んだようだが、それ以上にリアムの放った魔法の強大さに絶句している。


「……はっ!はっ!くそ、外したっ!」


 リアムはその場で膝をつく。今ので残っていた魔力を殆ど消費したため、立つことすら困難になっているのだ。荒い息をなんとか整えようとするが、そう簡単にはいかない。もはや、そんな体力は残されていなかった。


 それを見たアモンはすぐに頭を切り替えると、膝をつくリアムに蹴りを放った。無防備な状態でそれを受けたリアムは、為すすべもなく血飛沫を上げながら吹き飛んだ。


「ク、クククッ!」


 力無く地面に大の字で倒れるリアムを見て、アモンが哄笑を洩らす。


「我の勝ちだ!やはり、貴様は我の作品でしかない!さあ!またあの姿になってもらおうではないか!!」


「………」


 アモンがゆっくりとリアムに歩み寄る。カウントダウンのようなその足音を聞きながら、リアムは思い出していた。


 最後の気力を絞り出すため、もう一度立ち上がるため。憎悪の記憶ではない、楽しかった記憶を。僅かな、しかし確かにあった幸せな時間を。


「……帰りたい」


 そして、またみんなと会いたい。そう強く思った時、リアムは全身に力が巡るのを感じた。


「はぁ、はぁ、はぁ、……ぁぁぁぁああああああああ!!!」


 自分を叱咤するかのような咆哮を上げ、リアムは立ち上がった。まだ息は荒く、足はふらつく。視界は霞んでいるし、魔法は使えそうにない。それでも、リアムは立ち上がった。立ち上がるしかなかった。


「クク、もう強がらなくていい。貴様は終わりだ」


「はぁ、はぁ」


 リアムには答える余裕がない。ただ小刻みに震える両手で聖剣を握り、真っ直ぐにアモンを睨みつける。それを見たアモンも、黙って魔剣を構えた。

 リアムはもちろん、アモンにも殆ど余裕が残っていない。これが、最後の一撃になると両者は察していた。


「………」


「………」


 リアムとアモンは無言で対峙し、そしてお互いに向けて同時に走り出した。


「うおおおおおおおおおおおお!!!」


「はああああああああああああ!!!」


 リアムは精神論が嫌いだ。そんなもので誰かに勝てるわけがない。誰かを殺せるわけがない。それはあの日全てを奪われたリアムが出した一つの答えだ。

 リアムにはそれが努力しなかった者が言う戯言としか思えない。だからこそリアムは文字通り死ぬ気で強くなろうとした。


 そう、思っていた。


 だが、今は違う。気持ちのあり様一つで人は変われる。思い一つで人は強くなれる。

 別に、リアムには確信がある訳ではない。リアムがそう思っている訳でもない。


 ただ、そう願いたかった。そう信じたかった。


 だから、


「届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 リアムは自分の全てを込め、全力で剣を振った。


 リアムとアモン。2つの影が交差し、砂煙が舞う。そして砂煙が晴れた後、そこには残心する2人の姿があった。


「………」


「………」


 静寂が辺りを支配する中を、血が吹き出す音が静かに響いた。声もなく、アモンがゆっくりと倒れる。そこには3つの首は無く、しばらく体を痙攣させた後、動かなくなった。


「………」


 1人立つリアムは振り返らない。だが首を切った感触は手に残り、背後でアモンが倒れる気配も感じた。それらの要因から自分の勝利を確信したリアムは笑みを浮かべーーー


「……ぶっ」


 突如腹から肩にかけてできた傷口から血を吹き出し、その場に膝から崩れ落ちた。




 〜〜〜〜〜




「痛っ!」


「……起きた?」


 激痛に目を覚ますと、何者かに声をかけられた。水色の髪をボサボサに伸ばし、水着のような露出度の高い服を着た女性の悪魔だ。どこかボーっとした目が、むしろ彼女の美貌を増しているように思える。


「……ここは?」


 相手は悪魔だが、それだけでは嫌悪感を抱くことはなくなった。リアムは訳の分からない状況を、とりあえず落ち着いて一つずつ解決していくことにする。


「あなたがアモンと戦ってた場所から、そう遠くない場所。私がここに着いた時、あなたが倒れてたから治療しておいた」


 淡々と、その悪魔は答える。見れば全身の怪我が塞がっていた。まだ至る所が痛むが、それでも充分だ。


「それは……ありがとう。それで……あいつは、アモンは死んだのか?」


 やはり、少し不安になったリアムは尋ねる。するとその女性の悪魔はリアムの隣を指差した。


「そう聞かれると思って」


 リアムが隣を見ると、そこには首の無いアモンの死体が横たわっていた。リアムは少し驚いたが、動揺は出さずに死体を確認する。確かに、死んでいた。


「あなたの勝ち」


「……そうか。終わった……のか」


 思っていたよりも、達成感は無かった。全身の疲労のせいか、リアムが変わったからか、それとも別の原因か。リアムは自分でも分からなかったが、それでもいいと思えた。全て、終わったのだから。


「それで……あんたは誰なんだ?なんで俺を助けた?」


「私はフルーレティ。タクトとアナ達のことを知ってるから、あなたを助けた」


 要するにタクトとアナを知っているからリアムを助けた、と。当然のようにそう答えるフルーレティを見て、リアムは思った。


 また、タクトとアナに繋がった。だがリアムはもう驚かない。自分の両親の偉大さはもう理解していたからだ。結局、自分はいつまでも守られているのだ。家族だけでなく、今まで関わってきた人達に。


 スイが言っていた通り『大切なもの』を見つけ、復讐に臨んだ。最初は感情に呑まれてしまったものの、最後はそれらの存在のおかげで勝てたようなものだ。1人では絶対に勝てなかった。ここまで辿り着くことすらできなかっただろう。


「あと、これも」


 そう言ってフルーレティが差し出したのは、アモンが持っていたタクト、アナ、アベルの3人の首だった。それぞれケースに入っている。あの戦闘に巻き込まれたにも関わらず、ケースが無事なのは奇跡だとしか言いようがない。


「……ありがとう」


 リアムはそれを受け取ると、ゆっくりと胸元の魔石にしまった。魔石に付与されている収納魔法には生き物をしまうことはできない。つまり、そういうことだ。


 リアムはしばらくの間、目を閉じた。


「……終わったよ、父さん、母さん、兄さん」


 家族が自分を見て微笑んでいる。リアムはそんな気がした。





敢えて短めにしてみました。あくまで最後は呆気なく、淡白な感じで。

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