第70話 その声はどこか懐かしく
体の、感覚がない。自分が今、何をしているのかが分からない。記憶が混濁している。自分が何をしていたのか分からない。もう、自分が何を考えているのかも分からない。
「リアム」
もしかして俺は、死んだのか?
「リアム」
……アモンに、負けたのか?
「リアム」
結局俺は、何も成せなかった。
「リ〜ア〜ム〜?」
仇も討てず、約束も守れなかった。
「………」
俺は……僕は……。
「リアム!!!」
はっ!?なんだ、声?
「やっと気付いたわね」
ああ、悪い悪い。どこだここ、なんか薄明るいし不気味な空間だな。
……待て、お前は誰だ?
「あなたが今握ってる聖剣よ」
は?聖剣?聖剣が喋るのか?つか、俺は聖剣なんて掴んでないぞ?
「がっつり掴んでるわよ」
……今、俺はどうなってるんだ?いや、違うな。今の俺は、どういう状況なんだ?
「よく分かってるじゃない。あなたは今、完全な悪魔に成り果ててるわ。それはそれは、醜い悪魔にね」
……そうか。それで、俺はどうしたらいい?それともやっぱり、どうしようもないのか?
「まるで、どうしようもない方がいいみたいな言い方ね」
そんなことはない。
「それに、取り乱さないのね。もしかして、諦めたの?」
………。
「情けない」
……は?
「情けないって言ったのよ。あなた、今まで散々偉そうに『復讐のために生きてきた』とか言ってたくせに、ちょっと力が及ばないからってすぐに諦めて。情けないとしか言いようがないわ」
………。
「それになに?さっきの魔王の因子とのやり取り。人間が憎いとか世界が憎いとか。相手の思うツボじゃない」
……うるさいな。放っておいてくれよ。
「放っておかないわよ。あなた、ほんとに人間が憎いの?」
ああ。当たり前だろ。父さんを馬鹿にして、理不尽に獣人を捕まえようとして。嫌いに決まってる。
「じゃあ、この世界は?」
嫌いだ。こんなに理不尽ばかり押し付ける世界なんて、嫌いだ。
「じゃあ、あなた自身のことは?」
……嫌いだ。何の力もないくせに、何も成せないくせに、何も守れないくせに、のうのうと生きてきた自分が大嫌いだ。
「……そう」
………。
「だから、死を受け入れようとしてるの?」
……ああ。
「結局、最後は逃げるのね」
……逃げる?
「ええ、そうよ。逃げてるじゃない」
どこが?どこが逃げてるって言うんだ?
「何の力もないから、復讐を諦める。何も果たせないから、死を受け入れる。何も守れないから、自分を嫌う。仕方ないんだって、目を閉じて耳を塞ぐ。そうでしょうね、その方が楽だものね」
………。
「生き様も、誇りも、責任も、全部捨てて裸に、身軽になってしまえば、そりゃ楽になるでしょうね」
………。
「でもね、それは逃げでしかないわ。そうやって辛いことや苦しいことから目を逸らして、楽な道を選ぼうとしてる」
……仕方ねえだろ。もう、どうしようもないんだから。
「……じゃあ、あなたを信じている人達を見捨てるのね?」
それは……。
「自分ではどうしようもないからって、裏切るのね?」
そんなつもりじゃ……!
「結果的には同じよ。あなたがここで全てを諦めれば、それはあなたを信じた人達を裏切ることになる。そんなつもりじゃなくても、そういうことになるのよ。違うかしら?」
………。
「よく思い出しなさい、リアム。自分を信じてくれた人達を」
思い出す、か。そんなこと、もう……。
『信じてるッス』
『また来るのを待ってるよ』
……混濁した記憶の中で、どこか懐かしい声が蘇る。
『俺に出来なかった事を頼むのはかっこ悪いが、そんな事言ってらんねえ。必ず、タクトの仇を取ってくれ』
俺は。
『頼むから、生きて帰ってきとくれ。妾はぬしにも死んで欲しくないんじゃ』
俺は俺のことが大嫌いだ。
『君に会えて良かったよ、リアム君。またいつか会おう』
その気持ちに変わりはない。
『それでも自分が嫌いなら、ルナも支えるから。だから少しだけでも認めてあげて。自分の事を信じてあげて』
それでも。
『私はリアムさんのそばにいたいです!リアムさんに大切な人がいるのは知ってますけど、それでも少しでも助けになりたいんです!』
それでも俺は。
『もし、リアムが自分の事を好きになれないなら、その分私がリアムを好きになる!』
俺は……。
「ほんと、あなたは単純ね。もう顔つきが変わったじゃない」
……はは、悪かったな。いつもこんな感じなんだ。馬鹿みたいだろ?
「それは短所ではあるけど、長所でもあるわ。何事も、短所と長所は紙一重よ」
………。
「それで?どうするの?」
これからか?
「そう」
………。
俺は、俺が嫌いだ。何の力もないくせに、何も成せないくせに、何も守れないくせに、のうのうと生きてきた自分が大嫌いだ。
それでも。
そんな俺を、信じてくれた人がいる。
そんな俺に、託してくれた人がいる。
そんな俺を、愛してくれた人がいる。
そんな大切な人達が大切にしてくれた俺を、俺は大切にしたい。あいつらを、裏切りたくない。
「それでいいのよ。それがあなたでしょう?」
そう、なのかな。そうだったらいいな。
……この状況を打破したい。どうにかできるか?
「この世界が創られてから今まで、悪魔から半魔に戻った例はないわ」
じゃあ俺はもう悪魔として……。
「でも、勇者が悪魔になった例もないわ」
……結局、どうなんだ?
「私ならなんとかできるわよ。力はほとんど使い果たしてしまうけど、悪魔を殺す力ぐらいなら残せる」
そうか……。
……勝手なお願いだが、頼む。俺に力を貸してくれ。俺を、半魔に戻してくれ。あいつは俺の手で殺したい。そうしなきゃきっと、俺は本当の意味で前に進むことができないんだ。
「もちろんよ。任せなさい」
ありがとう。
「その代わり、負けたら許さないわよ。絶対に勝ちなさい。私はあなたの味方だし、いつでも見てるから」
当たり前だ。もう負けたりなんてしないから、見ててくれよ。
「ならいいわ。元気でやりなさいよ」
ああ、頼む。
……なんだ?なんか、懐かしいやり取りだったような……
『私はあなたのーー。……あなたの味方よ』
『……ありがとうございます。それでは、お願いしますね』
『任せなさい』
……これは誰との会話だ?まだどこかおかしいのか、昔のことがあまり明確に思い出せない。
『じゃあね。元気でやりなさいよ』
あれ?
「じゃあ、送るわよ」
あ、ああ。
……なあ?もしかしてさ、俺とお前ってどこかで会ったことあるか?
「………」
おーい?
「……何言ってるのよ。私は聖剣よ?そんなことあるわけないでしょう?」
……そうか。そうだよな。
意識が、何かに引っ張られるように上へと浮上していくのを感じる。俺はこの空間から去り、あの世界へと帰るのだと理解した。
覚悟は決めた。もう、負けはしない。
俺は、もう1人じゃないのだから。
これからこの章が終わるまで毎日投稿しようかな〜って思ってます。あと9話ぐらいかな。多分更新できると思います。吐血しながら頑張ります。




