第69話 狂気乱舞
ーーーニクメ。
………憎んでる。
ーーーモットニクメ。
………もっと?
ーーーニクシミが、オマエのチカラにナル。
………アモンが、にくい。
ーーーソレダケか?
………ニンゲンが、にくい。
ーーーそれデ?
………このセカイが、にクイ。
ーーーそうダ。それでいい。その憎しみが、お前を更に強くする。
………。
………。
………オレハ……オレハ、オレガダイキライダ。
……………ソレデモ……。
〜〜〜〜〜
リアムを中心に、大爆発が起きた。巨大な火球が発生し、魔界全体を揺るがす程の衝撃に堪らずアモンもたたらを踏む。だが、その表情は恍惚としていた。
「ああ、ああ!!いい!!いいぞリアム・イガラシ!!!そうだ、もっと我を愉しませてみせろ!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
咆哮が木霊する。まるで、この世の全てを憎むかのような咆哮が。それは新たな悪魔の産声だった。
地面は燃え盛り、大きなきのこ状の煙が立ち込める。ドームは少し壁が残っただけで、それ以外は吹き飛んでしまった。その中から、一体の怪物が姿を現す。
背丈はリアムと変わらない。だがその皮膚は真っ黒に変色し、牙も角も左右に生え、爪は異常に伸びている。太い尻尾も生え、目は真っ赤に染まり、その感情のない目からは、血の涙が流れ続けていた。そこにはもはや、リアムの面影はない。
「ふふ、ふははははははは!素晴らしい!素晴らしい!!そこらの悪魔とは格が違う!」
悪魔と化したリアムは左脚と左腕が再生していた。四つん這いで周りをキョロキョロと見渡す。そして、その視界にアモンが入った。
「……ギヒッ」
リアムは不気味な声を洩らすと、アモンへ向けて足を一歩踏み出した。
「っ!?」
正面から足を踏み出したはずのリアムが、その一歩でアモンの背後へと回っていた。リアムは躊躇いなくアモンの腕に噛み付き、そのまま顔を振ってアモンの体を吹き飛ばす。その口には、魔剣を握ったままのアモンの左腕だけが残っていた。リアムはそれを吐き出すと、足で踏み潰した。
「がっ!!」
壁に叩きつけられたアモンが苦鳴を上げる。そして顔を上げると同時に、その顔面にリアムの足の裏がめり込む。見た目通り化け物級の脚力で蹴られたアモンは、ドームの壁ごと外へ吹っ飛ばされた。
すぐに体勢を戻したアモンに、リアムは一瞬で眼前まで迫って手刀を突き出す。それをアモンは辛うじて躱した。空振ったリアムの手刀はアモンの背後にあった岩を真っ二つに切り裂く。
「クククッ!」
アモンの左腕は既に再生が始まっている。アモンは超至近距離でリアムに息を吹きかけた。シュワリ、と軽い音と共にリアムの右腕と右脚が同時に消滅する。が、
「アアアアアアアアアア!!!」
リアムが叫ぶと、まるで生きているかのようにうねうねと骨が、肉が、皮膚が瞬時に再生した。アモンの再生はまだ終わっていない。
「我よりも高い再生能力か!あの方の因子に適応しただけはあるな!!」
アモンはリアムの頰に拳を打ち込みながら嗤う。リアムは体ごと衝撃のままに回転させ、回し蹴りでアモンの横腹を穿った。
「ぐぷっ!?」
だがアモンはその場で踏ん張り反撃した。アモンの手刀がリアムの腹を抉る。しかしそれも、即座に再生された。
そこからはまさに、地獄絵図だった。お互いに血を撒き散らしながら、狂ったように攻撃を繰り返される。高い嗤い声と醜い叫び声が響いた。
理性なき怪物と理性ある怪物。
「従え、蒼炎」
アモンの前に、青く燃え盛る炎の壁が現れる。だが、リアムは怯んだ様子もなく灼熱の中へと飛び込んだ。
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
聞くに耐えない、醜い悲鳴を上げながらリアムはアモンに飛びついた。全身が酷く焼け爛れたまま、それでも気にせずにリアムはアモンの脇腹を喰い千切る。内臓と血が飛び散り、リアムを汚した。
「がっ、ああああ!!」
アモンが堪らず叫ぶと、リアムはアモンの両端の顔を掴み、顔面を地面に叩きつけた。その一撃で終わらず、今度は真ん中の頭を足で踏みつける。既に、リアムの火傷は完治していた。
「ギッ!?」
アモンは俯せに踏みつけられたまま、肩を不気味なほど動かして裏拳を背中に乗るリアムに放つ。その手の甲はリアムの頰を捉え、その体格差もあってか軽々とリアムを吹っ飛ばした。
「イ……ガ」
空中で体勢を整え、四つん這いで着地したリアムは呻く。その頰は肉が弾け飛び、鋭い歯がその姿を見せていた。だがその傷もにゅるにゅると肉が塞ぎ、瞬く間に再生される。
「爆ぜろ、紅炎」
アモンが吐いた火の玉が、雨のように降り注ぐ。だがリアムはそれに対して尻尾を一度、横薙ぎに振るだけだ。
尻尾を振ることによって、大気が歪んだかと錯覚するほどの衝撃波が生まれた。衝撃波はちょうどリアムとアモンの間で火の玉と衝突し、次々と大爆発を巻き起こす。その熱量に、リアムとアモン両者の肌がじわじわと焼かれる。
「いいぞ!まさに最高傑作だ!!!」
アモンは高く高く嗤い声を上げる。
普通に考えれば理性がない分不利なリアムが互角以上に戦えているのは、魔王の因子に完全に適応しているからだろう。その圧倒的なまでのスペックが足りないものを補っているのだ。
お互いに肉を裂き、肉を焼き、そして再生を繰り返す。まさしく化け物同士の戦い。リアムの悍ましい叫び声と、アモンの甲高い嗤い声が交差する。
完全に悪魔と成り果てたリアムは凄まじかった。その一撃はどれも破壊力が尋常ではなく、相手がアモンではなかったら既に決着が着いていただろう。
そして再生能力も異常だった。腕を千切られても、脚を焼かれても、半身を吹き飛ばされても瞬時に再生させ、即座に攻撃に転じる。
しかし当然、その代償も大きい。個人が持つ体力、魔力には限界がある。今のリアムはそれを本来ならあり得ない早さで消費しているのだ。自覚がないだけで、体は既に悲鳴を上げている。
リアムの上段蹴りがアモンの顎を捉える。ボキリ、と嫌な音を立ててアモンの体勢が揺らいだ。顎への衝撃により脳が揺れ、意識を手放しかけたのだ。そこに追撃で回し蹴りが炸裂する。
「ごっ、あっ!?」
アモンの苦鳴を、しかしリアムは聞こえていないかのように無視して次の行動に移った。
「キイイイイイイアアアアアア!!!」」
不気味な悲鳴のような声を上げながらリアムが口を開く。途端、急激にリアムの口の前へ魔力が集まり出した。そのあまりの密度に、リアムを中心に地面に亀裂が走り、軋み出す。
「ガッ!!」
その圧倒的な密度を持った魔力が、リアムの口から一直線にアモンを目指して放射された。アモンの視界が光で埋め尽くされる。
「面白いっ!!!」
アモンは腹部の口で魔力を吸収しようとするが、すぐに限界を迎えた。その口から大量の血を吐き出し、しかし気にした様子もなく3つの炎を全力で撃ち、リアムの放った魔力の塊を相殺させた。
「ふぅ、ふぅ、クク、冷や汗なぞ、初めてかいたぞ……」
アモンは自分の手を見つめて呟く。持ち得る全てを使い切って、やっとのことでリアムの一撃を相殺できた。そのデタラメさに、初めて冷や汗をかいたのだ。だが、絶望を感じている訳ではない。
と、突如悪寒が走ったアモンは、本能に従って倒れこむように前へしゃがみこんだ。その頭上を何かが風を切って通り過ぎる。
それが通り過ぎた後、アモンはいつの間にか背後まで迫っていたリアムから距離をとった。見れば、リアムは魔剣を握っている。後ろを見れば、リアムが振った魔剣の直線上にあった岩山は全て真っ二つに切断されていた。
「ふむ、我はここまでか。だがそれも面白い」
現状を鑑みて、冷静にそう言った。アモンは死ぬことを恐れていない。自分の愉悦のためならば、死ぬことさえも受け入れるからだ。最強の化け物という悪魔を作り上げた彼にとって、そのリアムに殺されることもある種の悦びでもあると考えていた。
「だが、もう少し愉しませてもらうぞ?まだ何かあるはずだ!」
アモンは炎を放つ。己が死ぬ前に最高傑作の全てを曝け出させるために。奇しくもアモンが求めたそれは、すぐに起きた。
「ぬっ!!」
アモンを放った炎は、リアムに届くことはなかった。まるで、そこに見えない壁があるかのように何かに阻まれ霧散したのだ。
「……クク、そうか、あの方と同じ能力を……。ならば、先程の斬撃もそれか」
全てを察したアモンは満足そうに笑みを浮かべる。そう、満足してしまったのだ。それをリアムは感情のない目で見ながら、手を前に突き出した。
そこで、リアムが聖剣を手元に引き寄せたのは偶然だろうか。アモンを殺すために聖剣が必要だと理解しているのだろうか。
そのどちらかか、それとも別の理由なのかは分からないが、とにかくリアムは聖剣を手元に引き寄せた。
そしてそれが、リアムの運命を変えた。
最近リリースされたシノアリスなるものを始めてみました。メンテナンスが多いけどリリースされたばっかりということで気長に待とうと思ってます。




