閑話 潜む影
「よう、ユウ。用事ってなにかあったのか?」
「やあルシフェル。とりあえず座ってくれ」
フュラケー王国近郊、前勇者ユウ・カイバラの家にルシフェルは訪れていた。ユウから用があると連絡があったのだ。
「まあ急ぎって訳でもない。久しぶりにどうだ?」
ユウはそう言うとルシフェルに酒を渡す。ルシフェルもそれを素直に受け取った。
「久しぶりって3ヶ月ぶりぐらいだろ?」
「充分久しぶりじゃないか」
「お前は相変わらず酒が好きだな」
ルシフェルは変わらない友の姿に笑みを浮かべると、手に持ったグラスを一気に呷る。
「……リアム君はまだ帰ってこないのかい?」
「ああ。もう少しで2ヶ月が経つが音沙汰なしだ」
「そうか……」
ユウは既に二杯目を飲み干している。だが酔った様子はない。酒豪である。
「ミサキとルナも気丈に振る舞ってはいるが、気になって仕方がないみたいだ。信じてはいても、心配にはなるんだろうな」
「……ルシフェルは魔界に行かないのか?」
「俺はあいつに任せるって決めたからな。リアムは復讐のために生きてきたんだ。色んなことを我慢して、色んなことに耐えて、ここまできた。それを俺が邪魔すんのは野暮ってもんだろ」
「ははっ、お前は変わらないな」
それから2人はしばらく歓談した。
リアムが魔界に行ってから2ヶ月が経とうとしている。アマクサ村の住人は皆リアムを心配しており、毎日そわそわしていた。
ルシフェルも本当は魔界に行って安否を確かめたいのだが、リアムを信じることにした。
「そういえば、今グラム大陸はどうなってんだ?フュラケー王国もパウルスが殺されたんだ。なにかしら動いてるんだろ?」
少し話を変えて、ルシフェルはユウに尋ねた。獣人と人間の間には交流がないため情報が回ってこないからだ。
「………」
「どうした?」
ユウは押し黙る。先程までの楽しそうな表情とは違い、その顔には少し影が差していた。ここからが、ユウがルシフェルを呼んだ本題だ。
「ユウ?」
「……グラム大陸は戦争を起こすつもりだ」
「なっ!?」
「理由は俺にも分からない。ただ、これはフュラケー王国だけじゃなくグラム大陸全ての国の総意だ」
「……何かあったのか?」
「情報源は分からないが、獣人がグラム大陸に攻め込もうとしているという噂が流れている」
「噂?」
「そうだ、噂だ。噂なんてものは常に流れてるし変わったことじゃない。問題は、各国の上層部がそれを同時期に信じたことだ」
「……なるほどな。そりゃきな臭い話だ」
噂なんてものは所詮噂であり、言ってしまえば庶民の娯楽みたいなものだ。出所は不明、信憑性も人それぞれ。そういった不確定なものだからこそ人々は気軽に、しかしどこか本気で噂を流す。
そんな噂を各国の上層部が同時期に信じ、そして戦争を起こそうとしている。それは明らかに異常な状態だった。
「裏に誰かいるのか、それとも洗脳でもされてるのか?」
「それが分からないんだ」
ユウは勇者であり、そしてこの過酷な世界を生き抜いてきた戦士だ。それが辛くても、物事に優劣をつけることができる。だから、非道なことにも手を染めてきた。そうしなければ、今ここにユウはいなかっただろう。
ユウは戦争の噂を聞いてから各国の重鎮を攫い、拷問にかけて情報を聞き出そうとした。しかしどれだけ痛めつけても、時には死ぬようなことをされても彼らは口を割らなかった。だが、洗脳されている様子でもない。何も得られなかったユウは、自分の変わりように呆れながら彼らを始末した。
「少なくとも、彼らは本気で獣人と戦争をしようとしている」
ユウは各国の重鎮達の裏に、何者かを感じていた。拷問されても口を割らなかったのは高度な洗脳魔法か、もしくは狂信的な忠誠心によるものかは分からないが、確実に何者かが潜んでいると踏んでいる。
そして、必ずその正体を暴いてみせると決意した。それが、彼らを殺めたユウなりのけじめだからだ。
「そうか……。元天使としては止めるべきかもな。特に、まだ帰ってこないが今のヴィリレタル大陸にはリアムがいる。ヘタしたら人間は滅ぶぞ」
もしも本当にグラム大陸がヴィリレタル大陸に戦争を仕掛けてしまうと、確実にリアムは獣人の味方をするだろう。
「それがな、どうやらグラム大陸は兵器を開発しているらしい」
「兵器……?武器のことか?」
ルシフェルは聞き慣れない単語に反応するが、ユウは答えずにただ難しい顔をしていた。
「いや……これに関してはまだ確証がない分、これ以上は何も言えない。ただ、彼らも無策なわけではないことは忘れないでくれ」
「分かった。一応アオのじいさんに知らせておく。多分、聖域で会議が開かれるだろうな」
「頼む。ああ、あとな、今グラム大陸には天使が派遣されてる。彼らと接触すれば天界と連絡がとれるんじゃないか?」
そう、今グラム大陸には天使が派遣されている。それは人間が引き起こそうとひている戦争についての情報を集めるためであり、そしてあらゆる陰謀や思惑によるものだ。
「どこの軍か分かるか?」
「力天軍だ。聞いた話によると七大天使のウリエルまで来ているらしい。近いうちにヴィリレタル大陸にも行くみたいだ」
「ウリエルだと?また厄介な奴を……」
七大天使とは熾天使ミトロンの七本の劍。その身を護り、歯向かう者に裁きを下す存在。過去の魔天大戦で英雄として世界を救った天使達で、その実力は各天軍の天使長に匹敵、もしくはそれを凌ぐと言われている。その分個性が強く、ミトロン以外には従わせることができない。
一応、普段は組織として天軍6隊に1人ずつ所属しており、ミトロンと共に行動するのも1人だけという形をとっている。だが七大天使は自分の役割に誇りを持っているため天軍の天使長にはならず、なのに天使長の命令もあまり聞かないから厄介だ。
そんな七大天使が周りに与える影響は大きい。その中でもウリエルはまだマシな方だが、しかしなによりも問題なのは、
「リアムとの相性が悪過ぎる……」
ただでさえリアムは天使が嫌いだ。それなのに相性まで悪いとなると、最悪殺し合いになるかもしれない。そしてリアムとウリエルが戦った場合、その被害は計り知れない。
「いや、今はそれはいいか。とりあえず力天軍が来てるなら幸いだ。とりあえず、ケルビムの件をミトロンに伝えてもらう」
恐らく、ミトロンはまだルシフェルに起きた事件の真実を知らない。そう推測したルシフェルはなんとかミトロンに身に起きたことを伝えたかった。
「でもルシフェル、当てはあるのか?恐らく既に天軍にはケルビム側の天使がいるはずだ」
「ああ、大丈夫だ。力天軍になら信用できる奴がいる」
力天軍にはルシフェルが昔から仲良くしている天使がいた。タクトがそうだったように、ルシフェルの親友だ。
「へえ、そうだったのか。ちなみにそれは誰なんだ?」
「力天使デュナミスだ」
〜〜〜〜〜
「さて、と。そろそろ帰ろうかな」
ルシフェルは酒を飲み切ると席を立った。
「俺は一度、アマクサ村に帰る。そこでしばらく長期間空けることを伝えてからデュナミスに会いに行く」
ルシフェルは堕天使だ。力天軍の天使を見つけても敵と認定されるのがオチだろう。もしウリエルを見つけることができたらなんとかなるかもしれないが、どのみち長期間になることには変わりない。
「そうだ、ルシフェル。実は一つ頼みたいことがあるんだ」
「なんだ?」
ルシフェルが尋ねると、ユウは後ろを向いた。
「おーい、出てきなよ」
ユウの呼び声に、家の奥から9人の人影が現れた。
「……こいつらは?」
「実はこの子達にあるお願いをされててね。ほら、自分達で言いなよ」
ユウが促すと、1人の女性が前に出た。
「初めまして、ルシフェルさん。私はクレア・マクドネル。以後、よろしくお願いします」
そう言って、強い意思の込もった目でルシフェルを見つめた。
どうも、剣玉です。
久しぶりにサッカーしたら膝が逝きました。
これからはなんとかして週2ぐらいのペースで投稿したいと思います。もしかしたら一回も投稿できない週もあるかもですけど。
と言うのもですね、この作品を書き始めた時の予定ではそろそろ完結してるはずだったんですよ。
でも実際に書いてみたら想像以上に時間がかかるし話数も増えていってビックリです。話の内容は変えてないし追加もしてないのに、これまだ半分ぐらいですよ。ほんと、連載小説を舐めてました笑
でも、色々忙しくて時間がとれないながらも小説を書くのは楽しいので結果オーライです。
では、よろしければこれからもよろしくお願いします!




