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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第65話 復讐を果たすために

お待たせしました。



 


「……はい?」


「だから、アモンのとこまで連れてってやるっつってんだよ」


「いや、でも認めさせろって……」


「認めてやったってことだろうが。なんだァ?不満なのかァ?」


「い、いや、そんなことはねえけど」


 リアムは急な展開についていけない。それはアロケルとリリスも同じだった。


「お前はどうやら、戦いの中で強くなっていくタイプだからなァ。むしろ今のまま戦わせた方が面白くなりそうだ」


「……ほんっとに気まぐれだな」


 リアムは呆れて息を吐き出すと、剣をしまいその場に座り込んだ。もう、力が入らない。

 そこにリリスが駆け付け、何も言わずにリアムの傷を治し始める。


「おい特異点。いつ出たい?別にいつでもいいが、あんまり遅いと飽きちまうぞ?」


「どれぐらいで着くんだ?」


「5秒ぐらいだなァ」


 とても信じられる話ではないが、メフィストならば可能かもしれない。リアムはツッコミたかったが堪えた。

 それによく考えればリアムがベレトと戦っている対峙している時、メフィストは突然現れた。その能力のことを考えれば不可能ではないのかもしれない。


「じゃあ、治療が終わったらすぐだ」


「ちょっ、リアム様!?流石に無茶ッス!ダメージが残りすぎッスよ!」


 リアムの回復に努めているリリスだからこそ分かるが、リアムの体はボロボロだった。

 アザゼルと戦った時の後遺症が残っているのももちろん、なによりアロケルとの戦いの疲労が濃かった。

 リリスが治すことができるのはあくまで外傷だけ。疲労が癒したり、魔力回路を治したりできるわけではない。


 幻術は精神にダメージを与える。リアムは今の戦いで多くの幻術を受け、無意識のところで精神がズタボロにされていた。

 それは少なくとも、因縁の敵と戦う者に相応しい状態ではない。


「無茶でもなんでもやらなきゃいけないんだよ」


「リアム様……」


 静かに、だが強く言い返したリアムにリリスは寂しそうな表情を向けた。

 遂にアモンと戦える。復讐を果たせる。全てを終わらせれる。それらによる複雑な感情が入り乱れ、精神を消耗していることもあってより、リアムを焦らせていた。


「……悪い」


 それからリアムは黙り込んだ。目を瞑り、今までのことを思い出す。


 全てを奪われ、復讐を誓い、ひたすらに鍛え、大切なものを見つけ、仲間に拒絶され、そしてついに自分の居場所を見つけた。


 既にリアムの復讐はリアムだけのものではない。リアムの無事を祈り、帰りを待っている人がいる。

 自分のためにも、自分を信じてくれている人達のためにも、絶対に負けられない。そんな戦いが目前に迫っていた。


 ふと、身を包んでいた温かい感覚が消えた。リリスによる治療が終わったのだ。


「……よし、行くか」


 リアムはゆっくりと立ち上がると、メフィストの元へ歩み寄る。


「……頼む、連れて行ってくれ」


「お前みたいな無鉄砲な奴ァ嫌いじゃねぇぜ」


 メフィストはニヤリと笑みを浮かべると、周囲を覆い尽くす程の闇を発生させた。


 リアムはアロケルとリリスの方へ振り返る。


「じゃ、行ってくるわ。今まで世話になった」


 リアムが軽い調子で言うと、2人は仕方がないとでも言いたげな表情を浮かべた。


「また来るのを待ってるよ」


「ウチも信じてるッス」


 アロケルもリリスも、本当は止めたいのだろう。だが、もう止めない。リアムの覚悟を受け入れたのだ。ならばあとは信じるしかない。


「行くぞ、特異点」


「特異点じゃない。リアムだ」


 そしてリアムは最後に笑みを浮かべると、メフィストに続いて闇の中へと足を踏み入れた。



 〜〜〜〜〜



 闇の中に入ったと思った瞬間、リアムの周りの景色が変わっていた。


「ここは……?」


 周りには相変わらずの荒野が広がっていた。先程までと違うのはただ一つ、目の前の巨大なドーム状の建物だ。アザゼルと戦った時にもあったドームによく似ている。


「この中にアモンがいるはずだ」


「………」


 辺りは静まり返り、不気味な雰囲気が漂っていた。全身で感じたそれに、リアムは寒気を感じる。


「ここにアモンが……」


 リアムはごくりと喉を鳴らした。体が震える。それは武者震いか、それとも怯えか。リアムには分からなかった。


「行くか。ここまで運んできてくれてありがとう」


「勘違いすんな。俺ァ楽しみたいだけだ」


「……そうだったな」


「ああ、でも一つだけ覚えておけ」


 メフィストがリアムを制止する。リアムも素直にメフィストの言葉を待った。


「俺ァお前が気に入った。だから、死ぬな。俺ァお前と殺り合いてぇ」


 凶悪な笑みを浮かべてそう言い放つメフィストは、どうやら本気のようだ。それを察したリアムは呆れた笑みを浮かべ返した。


「それはできたら勘弁してほしいな」


 意味がないと、知りながらも。



 〜〜〜〜〜



 ドームの中は少し冷えていた。建物の中なのにも関わらずゴツゴツとした岩がそこらに転がっており、風景は外と大して変わらない。


「………」


 リアムは気配を探る。奥の方に一つ、大きな存在がいることが分かった。その正体は考えるまでもない。


(やっと、やっとだ)


 リアムは熱くなる自分を力づくで押さえ込む。感情を冷やし、神経を研ぎ澄ました。

 アモンを殺すのに必要なものは感情ではなく、力だ。無駄な感情は足枷になり、力を出しきれなくなる。これはリアムが自分で考えた持論だ。


「………」


 リアムの前には一際大きな岩が転がっていた。その向こう側には、きっとアモンがいる。リアムはそう直感した。


「……はは」


 あれだけ探し続けてきた相手が、すぐそこにいる。それも最後は呆気なく辿り着いた。メフィストという、規格外な存在によって。


 リアムは小さく、乾いた笑い声をあげた。


「……ふぅ」


 この先は何が起こるか分からない。リアムは復讐を果たすために生き、強くなってきたが、スイと別れた時にはまだ力が足りないと言われた。

 それからもリアムは成長した。それは確かだ。悪魔の力も制御できるようになった。帰るべき場所も見つけた。


 だが、リアムは敵を知らない。本当の力も、その思想も、何を思ってあの惨劇を起こしたのかも、重要なことは何も知らない。


 それでも、リアムは前へ進む。


「……行くか」


 リアムは呼吸を整えて岩の向こう側へ出た。そこの景色も周りと変わりない。ゴツゴツとした岩が転がる、殺風景な景色だ。


 だが、唯一違うのはそこにいる圧倒的な存在。


 丸太程の太さのある腕と脚、そして3つの首を持つ異形の姿。3つの顔にはそれぞれ2本ずつ角を持ち、胴体にはびっしりと歯が生えた大きな口がついている。


 それは、かつてリアムから全てを奪った存在。リアムの家族を殺し、リアムに絶望を教えた悪魔。リアムが憎み、リアムが探し続けていた仇敵。


 紛れもなく、アモンだった。


 そして、そのアモンをついに見つけたリアムはーー





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