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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第63話 想いの交錯

 

 先に動いたのはリアムだった。


 アロケルは幻術の使い手。それから逃れるためにはアロケルを自由にしてはいけないと考えたからだ。


「ふっ!」


 リアムは瞬時にアロケルの背後へと移動すると、後頭部に向けて回し蹴りを放った。だが、


「なっ!?」


 その足がアロケルに当たった瞬間に、そこにいたはずのアロケルが煙のように消えた。既に幻術にかかっていたのだ。


「っ!」


 リアムは気配を感じて咄嗟に顔を逸らした。と、そのすぐ隣で三叉の槍が宙を突く。

 リアムはそれを強く握ると、その槍の柄をアロケルの腹部にめり込ませた。


「ぐぷっ!」


 アロケルは口から血を吐き出すが退くことなくリアムの腕を掴み、手前に引き寄せて頭突きをくらわせた。


「がっ!」


「はぁっ!」


 アロケルはそのまま体を反転させると、馬のようなその後ろ足で強力な蹴りをリアムに放った。


「がっ、あっ!?」


 その凄まじい一撃にリアムは吹き飛び、岩壁を壊して外へと転がっていき、アロケルもその穴を通って外に出ていった。



 〜〜〜〜〜



「お前、止めなくていいのか?てめぇにとっちゃアロケルの野郎も特異点も大事なんだろォ?」


 中に残されたメフィストがリリスに尋ねる。リリスは一連の出来事を黙って見ていた。


「……止めたいッスよ。当たり前じゃないッスか」


「じゃあ止めりゃいいだろうが」


「無理ッスよ」


「力が足りねぇからか?それなら手を貸してやってもいいぜ?俺ァ食事を邪魔されて腹立ってるからなァ」


 アロケルの蹴りによる衝撃で、先ほどまでメフィストが食べていた料理はすべて地面に落ちてしまっている。そして、メフィストはそれに怒っていた。


「違うッス。確かに力も足りないッスけど、でも、もしウチに力があっても止められないッス」


「はァ?何言ってんだ?」


 メフィストは眉を顰める。ハタから見れば物凄い形相になっているが、リリスは気にすることなく続けた。


「……あの2人は、自分そのものを賭けて戦ってるんス。他人から見ればくだらないことかもッスけど、本人にとっては何よりも大切なことなんスよ」


 リリスはアロケルの部下で、リアムとも2ヶ月近く共にいる。だから、それぞれの気持ちはよく分かっていた。


 リリスも本当はアロケルと同じだ。"原初の悪魔"がどれほどの存在かは知らない。リリスにもアモンに対する恨みはあるし、自分の子孫にあたるリアムの味方をしたい。


 だが、なによりも最優先でリアムには死んでほしくない。


 リアムには常にアモンを殺す自信があったし、アロケルもそれを信じているようだった。リアムと同じくアモンに全てを奪われ、そしてアモンと同じ悪魔として生きてきたリリスからしたらそれも甘いのでは、と思っていたが、それでも信じていた。


 しかし、あのアロケルがリアムでは勝てないと断言した。

 アロケルは思慮深い悪魔だ。部下であるリリスはそれをよく理解している。彼が大きな間違いを犯すとこを見たことがない。

 そのアロケルがここまでしてリアムを止めようとしている。なら、リリスも共にリアムを止めたい。それはもちろん、リアムのために。それはきっと、アロケルも同じ想いなのだろう。


 だが、リアムの気持ちもよく分かっていた。自分の全てを奪い、人生をめちゃくちゃにした元凶。リリスは諦めてしまったそれ(復讐)を果たそうと生きてきたリアムを邪魔するのはどうなのだろうか。そう、思った。


 アロケルを最低だと言うわけではない。リアムに分からず屋と言うわけでもない。ただ、リリスはどちらの気持ちもよく分かった。


「だから、ウチは何も言わないし何もしないッス。どうなっても、ただそれに従うだけッス」


 外では剣戟が響き、爆音が轟いている。それを聞いてもどかしく感じながらも、リリスはじっとしていた。


「じゃァもし俺があいつらの邪魔をするっつったらどうする?」


「……別に何も言わないッスよ。メフィスト様には何を言っても意味がないッスから」


「よく分かってんじゃねぇか」


「でも」


「?」


 リリスは一度言葉を止めて、決意のこもった目をメフィストに向けた。


「もし、メフィスト様がアロケル様とリアム様の邪魔をするって言ってもウチは何も言わないッス。でも、それでもウチはメフィスト様と戦うッス」


「……はァ?」


「何を言っても無駄なら、この命を賭けて止めるだけッス」


「……お前程度が、この俺を止めれるとでも思ってんのかァ?」


 メフィストは目を細めると、全身から濃密なプレッシャーを放ち出した。ベレトと戦っていた時と同じ強い殺気。

 リリスはそれに体を震わせながらも、臆することなくメフィストの正面に立った。


「勝てるだなんて、これっぽっちも思ってないッス。それでも、一瞬だけでも足止めできるなら無駄じゃないッス」


「……死んでもか?」


「尊敬する人と大切な人の想いを守るためなら、覚悟はあるッス」


「……はァ」


 メフィストはため息を吐くと殺気を解く。そして冷めた目をリリスに向けた。


「メフィスト様……?」


「冷めちまった。お前の勝ちだ。俺ァ傍観決め込むから、好きにやりァいい」


 そう言うとメフィストは穴の外に出て、傍らにあった岩に座って戦闘の様子をじっと見始めた。


「……ほんと、気まぐれッスね」


 リリスはそう呟くと、血を流す2人の戦いを黙って見ることにした。



 〜〜〜〜〜



拘束バインド!」


 リアムの周囲に光の縄が現れ、アロケルに向かって飛んでいく。


「くっ!」


 アロケルは縄をなんとか槍で叩き落とすと、リアムにその槍を突き出した。リアムそれを魔剣で受け止める。


 既に2人共ボロボロになっていた。全身から血を流し息も荒い。それでもお互いに止まりはしなかった。


幻想ファンタズム世界ワールド!」


 アロケルが叫んだ途端、世界が反転した。地面が逆さまになり、下に空が見える。そしてリアムは自分の感覚が狂わされたのを自覚する。それだけでなく、いつの間にか異形の化け物に囲まれていた。


「くそったれがぁぁぁ!!!」


 リアムは魔剣に魔力を溜めるとその場で回転して剣を振る。するとリアムを中心に斬撃が飛び、周囲の怪物を一撃で真っ二つにした。


「君はほんとにデタラメだな!」


「お前が言うな!」


 逆さまになった世界で2つの影が交差する。身体能力は既に悪魔化しているリアムが上だが、アロケルは適所に幻術を挟むことで逆にリアムを翻弄している。


 だが、本来ならば仕留めているであろう数の幻術を使っているアロケルからすれば、まだ倒せないどころかほぼ互角についてきているリアムはデタラメ以外の何物でもなかった。


「っ、くっ!」


 リアムが放った雷撃がアロケルを掠めた。それによって腕が痺れ、槍を手放してしまう。


「なら……」


 アロケルは動きを止め、リアムを見つめた。しかしそれは観念したわけではない。


「っ!?」


 リアムは体の感覚がなくなっていくのを感じた。自分の全ての動きが止まり、ただ一点、アロケルの闇のような目だけに視線が注がれる。それはかつて受けた"幻死"の前兆と同じだった。


 それに気付いたリアムは、しかし思考とは裏腹に体は言うことを聞かない。


「……!」


 だが、その中で唯一動く箇所があった。右手だ。


(そうか……そういうことか!)


 リアムの右手は破髄による反動で魔力を流す回路が切れている。破髄は膨大な魔力を急激に敵に流す技ゆえに、自分にもそれ相応の負担が掛かるからだ。回路の負傷は簡単に治るものではなく、リリスの治療でも治らなかった。リアムは心配をかけると考え黙っていたが。


 だが、そのお陰で"幻死"の能力が少し理解できた。幻術には様々なものに干渉する。恐らく、"幻死"は対象の魔力に干渉するのだろう。だから魔力がほとんど流れていないリアムの右手は動かせるのだ。


 それが分かればあとは簡単だ。幻術には幾つかの解き方がある。術者を殺す。自分の魔力を乱す。他にも方法はあるが、一番手っ取り早いのは、


「なっ!?」


 アロケルが驚きの声をあげた。それを聞いたリアムは歯を食い縛りながらも笑みを浮かべる。リアムは自分の太ももに魔剣を突き刺していた。


 幻術を解く最も簡単な方法、それは痛みを感じること。


 幻術とは一種の暗示であり、相手の意識を自分に集中させて術にかける。だから痛みによってその意識を無理やり引き剥がせば回避できる。


「はぁ、はぁ、……吸え」


 リアムの足元に血溜まりはない。傷口から吹き出した血は全てリアムの魔剣であるティルヴィングに吸われていた。


「なにを……?」


 アロケルはその異様な光景に絶句するが、ティルヴィングは変わらず血を吸い上げ、少しずつ紅く輝き出した。そして、異変はリアムにも起きていた。

 悪魔化しているリアムの目は赤さを増し、牙はより鋭く角も更に伸びる。つまり、リアムの悪魔としての力が急上昇していた。


「……ふぅぅぅぅ」


 リアムは汗を流しながらもアロケルを睨みつけた。


「……っ!?」


 気付けば、リアムはアロケルの背後に移動していた。リアムはアロケルが反応する前に後ろ回し蹴りを放ち、その踵が防御のないアロケルの脇腹を穿つ。


「がっ、はっ!!」


 アロケルはなすがままに飛ばされる。しかしそこでリアムは止まらなかった。


「アル・ブレイク!」


 リアムのティルヴィングから高密度の魔力で形成された紅い斬撃が放たれた。地を削り、空間さえも裂いてしまうような一撃がアロケルに迫る。


幻想ファンタズム写し絵(ミラージュ)!」


 その一撃が届く前にアロケルも叫ぶ。と、アロケルの目の前でリアムと同じ紅き斬撃が発生した。


「はぁっ!?」


 二つの斬撃はぶつかり合い相殺された。アロケルはリアムが放った斬撃と全く同じ斬撃を発生させたのだ。それはもちろん、幻術によってだ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 しかしその代償は少なくない。元より多くの魔力を消費する幻術。それを連続で行使した上に大技も使うアロケルにはもはや充分な魔力は残っていなかった。


「………」


 そんなアロケルの姿を見てリアムは少し動きを止めた。


「っ!?」


 そして、その一瞬の隙をついてアロケルはリアムに強烈な蹴りをぶち込んだ。無防備だったリアムはそれをもろに受けて面白いぐらいの勢いで飛ばされる。リアムは岩に叩きつけられ、砂煙が巻き上がった。


「はぁ、はぁ、君は、私を馬鹿にしているのか?私は本気でやってるんだ!情けなんて必要ない!!」


 アロケルは激昂して叫ぶ。それは想いの強さゆえの叫びだった。


「君も本気で来い!リアム!!!」


「ぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」


 雄叫びを上げながら砂煙から出てきたリアムの手には魔剣と、そして聖剣が握られていた。





そろそろまた番外編でリアムとアリサの思い出編を書きたいんですけどネタが浮かびません。

もはやアリサのキャラを忘れかけてる…

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