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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第62話 特異点

 

 リアム一向はメフィストの棲家へ来ていた。ほとんど強制的にメフィストが連れて来たのだが、当のメフィストはというと素知らぬそぶりでくつろいでいる。その姿に呆れてため息を吐くと、リアムは料理を再開した。


 メフィストの棲家とは言っても、岩山の中身をくり抜いただけの家とは言えない見た目だ。もちろん、中にはほとんどなにもない。

 故にリアムは魔石から自前の食材と調理器具を取り出し、隅の方で料理をしていた。その隣ではリリスが小さくなっている。メフィストが怖いようだ。


「メフィスト」


「あァ?なんだ?」


 リアムの背後でアロケルがメフィストに話しかけた。メフィストは顔だけをそちらは向ける。


「魔王はなぜ、私達に干渉してこないか分かるかい?」


「はァ?んなもん知るか。なんで俺に聞くんだよ」


「いや……君は何度か魔王と戦っているだろう?だからもしかしたら考え方が分かったりするかもしれない、と思ったんだ」


「あァ、確かにおかしいとは思うぜ?あいつは強い悪魔を失いたくないからなァ。なのにアザゼルとグシオンがやられても動かねぇ。この奇妙さに心当たりがあるとしたら……」


 そこでメフィストはちらりとリアムを見た。


「特異点だろうなァ」


「なあ、その特異点ってなんなんだ?」


 メフィストと会った時にも言われたその言葉を、リアムは聞いたことがない。

 メフィストはそんなリアムを見ると、めんどくさそうな表情を浮かべた。


「お前、半魔で勇者なんだろ?っつうことはこの世界に殺せない存在がいないわけだ。んな奴ァ、お前以外にいねぇよ。だから特異点だ。この世界唯一の存在、それがお前なんだよ。んで、多分魔王はお前になにかしらの興味を持ってんだろォな」


「………」


 言われてみるまで、リアムは気付かなかった。自分が特別な存在であることに。


 思い返してみれば、クイナから聖剣を受け取り、自分が勇者でもあると知った時に気付くべきだった。だが、あの時のリアムはアモンを殺せるということしか考えていなかった。


「世界で、唯一……か。全く嬉しくないな」


「なァ、特異点。お前はなんのために魔界まで来たんだ?」


「……知らなかったのか」


 魔界では既にリアムは広く知られている。『死神』と呼ばれているし、ベレトの手回しによって目的も知られている。


「アモンを殺しにきたんだよ」


「……へぇ?」


 そこで初めて、メフィストは楽しそうな笑みを浮かべた。


「アモンは強いぞ?あいつが本気で戦ってるとこは見たことねぇが、アレは俺と同じタイプだ」


「同じタイプ?」


「あァ、俺は思いつきで動くし、気分でやる気を出したり出さなかったりする。アモンは自分の娯楽ために動く。楽しむためなら本気を出すし、楽しくなさそうならやる気を出さない。俺もアイツも、自分で決めたことしかやらねぇ」


 メフィストは口の両端を吊り上げる。もはや裂けていると言った方が正しいかもしれない。


「まァ面白ぇことになりそうだけどな。次期魔王と特異点かァ」


「なあ。あんたアモンの居場所を知ってるか?」


 答えは分かっていた。気まぐれでしか動かないメフィストが知っているはずがない。

 リアムはそう思ったのだが、


「あァ?知ってるけど?」


「……は?」


「だァから知ってるっつってんだろ。お前が聞いたのに聞き返すんじゃねぇよ」


「な、なら」


「あァ〜先に言っとくけど、教えるつもりはねぇぞ?」


「……理由を聞いてもいいか?」


 リアムは怒鳴りたい気持ちをぐっと堪える。相手は気まぐれ屋。機嫌を損ねるわけにはいかない。


「今の特異点じゃァ勝てねぇからだ。確実にな」


「そんなのやってみないと分からないだろうが」


 リアムはメフィストに苛立って声を荒げるが、


「分かんだよ。お前、アザゼルに勝ったからって調子乗ってんだろ?」


「………」


「なァ、お前はアモンがなんて呼ばれてるか知ってるか?」


「……次期魔王じゃないのか?」


「そうだ。でもそれだけじゃァない」


 予想外の返しに、リアムはアロケルに視線を移す。アロケルからは何も聞いていないからだ。だがアロケルは顔を横に振る。


「これを知ってんのは俺と魔王とベレトぐらいだ」


「……なんて呼んでるんだ?」


「原初の悪魔、だ」


「原初……?」


「いいか?この俺が知るなかで、複数の頭を持つ悪魔は昔も今もアモンだけだ。悪魔ってのはその年月によって姿を異形に変えていく。だがな、俺も相当昔から生きてるが、頭が増えた悪魔は見たことがねぇ。アモン以外にな」


「確かに……」


 それを聞いたアロケルが呟く。アロケルもかなり長く生きているが、頭が増えた悪魔はアモン以外に見たことがなかった。


「アイツは恐らく、魔王よりも前から生き残ってきた悪魔だ。ヘタしたら俺よりも強いかもなァ」


「……それでもだ」


「あァ?」


 リアムは思わず呟いていた。


「それでも、俺はあいつの元に行く。そのために、そのためだけに生きてきたんだ。今更諦めるわけにはいかない」


「……はァ、まァ俺にとっちゃ特異点が死のうが生きようが、アモンが死のうが生きようがどうでもいいんだけどな」


「だったら」


「でもまだダメだ。どうせなら俺も楽しみてぇ。だから、どうしてもってんなら、俺に認めさせてみろ。それぐらいなら、アモンと戦っても面白ぇ戦いになるだろ」


 メフィストは笑みを浮かべながら指を鳴らす。リアムは少し呆けたが、すぐにメフィストと同じ笑みを浮かべた。


「望むところだ」


 リアムへそう言って周囲に魔力を集めるとーー


「おいおい、飯が先だろうが」


 先に料理を促された。



 〜〜〜〜〜



 数分後、岩でてきた台の上にはいくつかの皿が置かれていた。それらには豪勢な料理が盛り付けられている。


「おォ〜まじでうめぇな!」


 メフィストはリアムの料理をもしゃもしゃと食べながら感心の声を上げた。。しかし手は止まらない。


「当たり前ッスよ!リアム様の料理は世界一ッス!」


 その隣ではリリスが同じく、メフィストに負けじと必死に口を動かしている。


「……お前ら落ち着いて食えよ」


 そんな様子を、リアムは気の抜けた表情で見ていた。そこにアロケルが近づく。


「どうしたんだい?」


「いや……こいつ、ほんとに気まぐれだな」


 リアムは力なく答えるとため息を吐いた。ついにアモンへの手がかりを見つけ、自分の中の意思を再確認して緊張感を高めたというのに、メフィストは相変わらずのマイペースでそれらを壊してしまった。


「………」


「どうした?」


「……君は本当にアモンと戦うつもりかい?本当に、そこまでする必要があるのかい?」


「は?……どういうことだ?」


 リアムは無意識のうちに怒気を放っていた。しかし、アロケルは続ける。


「君がしようとしていることは、君の家族が望むようなことなのかい?」


「………」


「君はアモンが憎い。それは事実だろう。でも、それ以上に自分自身を許せない。そうだろう?」


「………」


「君は、罰を受けたがっているように見える」


「………」


「だが君は本当に罰を受けるべきなのかい?」


「………」


「……私は、君には死んで欲しくない。私にこんなことを言う資格はないが、もう一度考え直してはくれないかい?」


「……はぁぁぁ」


 アロケルのその願いを黙って聞いたリアムは、長いため息を吐いた。


「リアム……?」


「なにを言おうがもう遅いぞ?全部、俺の中で答えは出した。その結果が今の俺だ」


「………」


「それに俺が死ぬこと前提で話してんじゃねえよ。俺はなにがあっても絶対に勝つ。絶対に、だ」


「……そうか、そうだったね。自分を曲げないのが君だった。なら……」


「っ!?」


 アロケルが呟いた瞬間にリアムは大きな衝撃を受け、メフィストの棲家である岩の壁に激突した。


「がっ、はっ!?」


「ちょっ、なにしてんスかアロケル様!?」


「……なんだァ?」


「……私にも、意地がある」


 倒れたリアムに駆けつけるリリスと、眉を顰めながらも料理を食べ続けるメフィストをよそに、アロケルは話し続ける。


「原初の悪魔……噂だけは知っていたが、それがアモンだとは思わなかった」


「はぁ、はぁ、アロケル……?」


「私はね、タクトと交流があった。仲も良かった方だと思う。そして、彼はあの惨劇の前に私を訪ねて来て、君のことを頼むと言っていた」


「……は?父さんが?」


「……タクトが死んだ時の、あの虚無感は忘れられないよ。あれは初めて感じたものだった」


「………」


「君がアモンを殺すと言ったとき、君の力になりたいと思った。私もアモンを殺したかったし、君なら勝てるかもしれないと思ったからだ。でも、奴が原初の悪魔なら話は別だ」


「……お前、何を知ってる?」


「君ではアモンに勝てないことは知っている」


 少しだけ悲しそうに、だがきっぱりと言い切ったアロケルにリアムは驚いた。


「私は君を死なせるわけにはいかない。もしそれでもアモンと戦うと言うのなら、私は私の意地にかけて君を止めてみせる」


「アロケル様……」


 リリスはどこか共感したような、複雑な表情を浮かべている。メフィストは相変わらずだ。


「……そうか」


 リアムはゆっくりと立ち上がると、アロケルと正面から対峙した。


「お前がどんな想いを持ってるのか、父さんから何を託されたのか。そんなの俺には分からないけど、俺だってこれだけは譲れない」


「………」


「これは俺が生きてきた理由だ。俺が持ってる唯一のものだ。これを乗り越えなきゃ、俺は先には進めない。何も始まらない」


「………」


「俺の邪魔をする奴は許さない。それはお前でもだ、アロケル。例え立ち塞がるのが家族でも、愛する人でも、……友と思っているお前でも、これだけは邪魔させない」


 もしも、もしもこれをリアムが捨ててしまったら、彼の軌跡は全て無駄になってしまう。今までの人生に意味がなくなってしまう。


 リアムとアロケルはゆっくりと構えをとった。言わば意地と意地のぶつかり合い。だが、そこには強い想いがこもっていた。


 リアムは自分の生き様を賭けて。


 アロケルは友と交わした約束を賭けて。


 突然に、だが必然的な戦いが始まった。





この戦いの描写はあまりないと思います。

アロケルとリリスの心情中心でいこうかな〜と。

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