第61話 最強の気まぐれ屋
後書きあります。
「……やはり、貴様は危険だ」
リアムの言葉を聞いたベレトは警戒を含めた声で答える。それはリアムの推測を裏付けるものだった。
「リアム、どういうことだ?」
アロケルはまだ分かっていないのか、リアムに尋ねる。見ればリリスも首を傾げていた。
「……あいつの能力は強力だ。もはや腐敗じゃなくて消滅と言ってもいいほどの力を持っている」
地面は一瞬で崩れ、魔法は一瞬で霧散させられる。リアムの足も相当に魔力を込めていたのに一撃、しかも一秒にも満たない接触だけで腐り始めた。
それは既に腐敗の能力と言うよりも、消滅の能力と言っても過言ではないとリアムは感じた。
そしてそれだけ強力ならば、もしかしたら形の無いものまでもその能力は干渉出来るのではないか。そう考えた。要するに纏う雰囲気や気配などだ。
リアムとアロケルの感知をすり抜けた。普通に考えたらそれはあり得ない。2人ともこの世界でトップクラスの実力を持っているのだから。
「俺でも自分の魔力や気配を完全に隠すことは出来る。ただ、それは相手が格下の場合に限られる。だがあいつは俺らよりも強いが格上って訳じゃない。だからそう思っただけだ」
「な、なるほど……。だがそんな事が可能なのかい?」
「いや、俺もあり得ないと思った。でもこれしか考えられない」
そしてリアムはベレトを見る。骸骨である顔を歪めているように見えた。が、すぐに骨をカタカタと鳴らす。恐らく笑っているのだろう。
「クク、貴様は面白いな。危険だが興味が湧く。それを見破ったのは貴様で2人目だ」
「そりゃどうも。ちなみに1人目は魔王か?」
「そんな訳なかろう。魔王様には自分で伝えた。1人目は忌々しいあの男だ」
そこでベレトは口を止める。
これ以上は話す気がないということだろうか。リアムはそう考えたが、それは違った。
「今回はなんの気まぐれだ……」
ベレトは何もない虚空を見つめていた。その表情からは何も読めない。
突如、そこに闇が現れる。そしてぬるりと1人の男が出てきた。
「あれは……」
それを見たアロケルが呟く。
「知ってるのか?」
「ああ。……彼がメフィストだ」
「あいつが……」
身長は高いが、体格はリアムに似て細めだ。オレンジ色の長髪をボサボサに伸ばして、両目の下には大きな隈が出来ており、左目には大きな傷が走り瞼が閉じている。そして、その額には二本の角が生えていた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
そのメフィストが口を開く。のんびりと、気怠そうに。
「腹減った」
そしてメフィストはそう言った。
「……メフィスト。貴様、なんの用だ?」
ベレトはいつても攻撃できるように備えて尋ねる。だが、メフィストはその警戒を気にせず無視すると、ふらふらとリアムに近付いた。
「お前が、特異点か?」
メフィストはリアムの目の前まで来ると、両手をポケットに突っ込んだまま尋ねる。だが、リアムには意味が分からない。
「特異点……?」
「あァ……いや、確認する必要もねェか」
メフィストはそれっきりリアムに興味を無くすと、ベレトに向き直る。
「メフィスト……貴様、なんのつもりだ?分かっているのか?今、その半魔のせいでこの魔界が荒れているのだぞ?」
「あァ……だから?俺は腹が減っただけだっつってんだろ?」
「………それが、貴様が今来たこととどう関係がある?」
「あァ、なんか特異点の料理が美味いらしいからな、食わせてもらおうかって」
「……いつも訳が分からんことをする貴様だが、今回に限っては見逃さんぞ?そんなことのために、魔界を危機に晒すつもりか?」
「そんなことォ?そんなことってなんだァ?」
そう言うと、突然メフィストから殺気が溢れ出した。それはメフィストの背後にいるリアムでさえ怯えさせるほど濃密な殺意。
「俺たち鬼はなァ、お前らアンデット共と違って100年もしたら腹が減るんだよォ!!!」
それを聞いたリアムは驚くぐらいどうでもいいと思ったが、しかしメフィストは本気で怒っていたので口にはしなかった。
「貴様の気まぐれにももう付き合いきれん。魔王様にも従わん貴様は今ここで朽ち果てるがいい!」
リアム達は本能的に距離をとった。刹那、大きな衝撃が辺りを揺るがした。
周囲のあらゆる物が腐り果て、あらゆる物が闇に飲み込まれた。一瞬で地形が変わり、遠くで隠れて様子を見ていた悪魔達は跡形もなく消え去る。リアムはなんとか余波を避けながら、その光景を呆然と見ていることしかできなかった。
ベレトもメフィストもその場から動いていない。お互いの魔力だけが吹き荒れていた。
「ちょっ、ちょっとこれやばいッスよ!」
「アロケル!お前メフィストと知り合いなんじゃねえのか!?このままじゃ俺達まで巻き添えだ!」
「彼とは顔見知り程度だし、そもそも誰かの話を聞くそうな悪魔じゃない!」
「じゃあどうすんだよ!」
リアムは先ほどから2人に魔法を放っているが、届く前に消されたり飲み込まれたりして効果がない。
「正直、どうしようもない!特にメフィストは魔王と並ぶほどの強さとも言われている!彼は本気で戦ったことがないから本当の力は知られてないんだ!」
よく見ればメフィストの方が少し押している。
「あれで本気じゃないとか嘘だろ……?」
だが、よく考えればメフィストは鬼型だ。鬼の長所はその高い身体能力にある。つまり接近戦だ。
しかしメフィストは魔法だけで戦い、そしてそれだけであのベレトを押している。
「幻術は?」
「恐らく効かない。今は2人とも高密度の魔力を纏っているからね」
「毒は?」
「魔力量が全然足りないッス!」
「……ふぅ」
リアムは2人の答えを聞くと動きを止めて深く息を吐いた。そして魔力を練り始める。
「リアム!今止まるのは危険だ!」
そんなリアムを見たアロケルは叫ぶが、リアムは自分の中にある力を意識して集中したまま黙っていた。
そして突然、リアムは目を開けると戦っているベレトに向けて片手を突き出した。
「……あァ?」
リアムが手を出した瞬間、ベレトの姿が消えた。
「野郎、逃げやがったのかァ?」
メフィストは眉を顰める。メフィストはベレトの鬱陶しさと面倒くささを理解している。だからこれがベレトの意思とは違う事態だと瞬時に理解した。
「……お前か?」
メフィストが振り返った先には、息を乱し汗を流すリアムの姿があった。
「はぁ、はぁ。そうだけど?」
「……へぇ?なにをしたんだァ?」
リアムは魔剣の力を習得しつつある。空間操作の力だ。魔力を余分に使ってしまい、まだまだ効率も発現速度も遅いが、それでもある程度なら使えるようにはなっていた。
今のはリアムの魔力が届く最も遠い場所に空間を指定し、それと同時にベレトの周囲の空間を纏めて指定して場所を入れ替えた、いわゆる転移に近い現象を起こした。
「秘密だ。それで?あんたはどうすんだ?」
「言ったろ?俺ァお前の料理を食いに来たんだ」
メフィストはリアムが黙っておくことに何も言わなかった。その様子にリアムは少し警戒するが、メフィストは本当に興味がないように見えた。
「……本当にそれが目的だったのか」
「んで?食わせてくれんだよなァ?」
「……分かったよ」
殺気を出し、断ったら許さないと暗に語るメフィストに、リアムは観念したように答えた。
また、リアムに悪魔の同行者が増えた。
そしてリアムはその同行者が、普段なら見せないような興味を含めた視線で自分を見ていることに気付かなかった。
〜〜〜〜〜
ベレトは荒地に一人佇んでいた。もしもベレトが骸骨ではなく肉と皮膚があれば、その顔は驚愕に彩られていただろう。
「あれは……」
ベレトはリアムが自分を転移させた力に心当たりがあった。
「まさか……なぜ……」
それは自分が敬愛し、従っている主君の力と同じものだ。
「なぜあの半魔が魔王様と同じ力を……。いや、今それはいい。恐らくメフィストも気付いているだろう。奴がどう動くかは全く分からないが、とにかく報告するべきか……」
ベレトはまだ微かに気配を感じる方角へ視線を向けると、無言のまま身を翻し立ち去っていった。
事態は水面下で、ゆっくり、ゆっくりと、だが着実に進んでいた。
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