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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第60話 手がかりを求めて

 


 リアムがアザゼルを倒してから1ヶ月が経った。魔界に来てもう少しで2ヶ月だ。

 あれからベレトの襲撃はない。最初はすぐに仕掛けてくると思っていたのだが、驚くほど何もなかった。


「あ〜。やっぱ温泉は良いな〜」


 そしてリアム達は今、温泉に入っていた。


 温泉、と言っても最初見たときは色は真っ赤でぐつぐつと煮えていた。

 そこからリリスが有害な物質を取り除き、リアムが無理やり温度を下げた。魔力にものを言わせた力技で。


 風呂に入るのは久しぶりだ。魔法で体を洗ってはいたが、それでは満足できない。リアムはゆっくりと体の疲れを癒す。


「私は未だに驚いているよ。まさか魔界で温泉に入れるなんて。君はほんとに常識離れしてるね」


「リアム様は流石ッス!」


 アロケルは下半身が馬のため、少し深めの場所に入っている。気持ち良さそうだ。


 そして問題はリリスだった。最初は温泉の有害物質を取り除くのに疲れ果てていたのだが、温泉に一緒に入ることになってから急に元気になったのだ。今もリアムの隣でハァハァしている。


「分かったから。とりあえず離れろ」


「嫌ッス!このまま襲ってやるッス!」


「なぁアロケル。こいつ殺していいか?」


「嘘ッス!嘘ッスから聖剣なんて取り出さないで欲しいッス!」


 リアムは鬱陶しそうな顔をしながらも楽しんでいた。

 リアムは風呂が好きだ。イガラシハウスにも大きな風呂があるし、毎日ゆっくり入っていた。

 スイと生活していた時は魔法で軽く流していただけなので別に入らなくても大丈夫だが、入れる環境であったなら必ず入っていた。


 リリスがリアムの目の前で誘惑する。リアムはそれをじっと見つめた。女性の裸体を見る経験が無かったリアムも、リリスの裸には慣れてしまった。そもそもリリスは悪魔だ。

 だからリアムは反応しない。リアムの息子も反応しない。


「おかしいッス!自分で言うのもなんですけど、ウチは結構そそる身体をしてるはずッス!やっぱ不能なんスね?ウチが今からとびきり効く媚薬をつぷっ!?」


 リリスが言い終わる前にリアムは頭を掴み、お湯に沈める。リリスが苦しそうにもがき始めてから手を離した。


「お前は本当に変わらないな。ある意味尊敬するよ。あと不能ではない」


 既にお決まりとなりつつある会話を交わす。


 リアムはもう焦ってはいない。よく考えれば今までと状況は同じだ。むしろ、探しているだけ進展している。ならば気長に探し出せばいい。そう考えたのだ。


 早くアリサに会いたいのは本音だ。だが、焦って死んだりしたら本末転倒。だからリアムはとりあえず落ち着くことにした。


「気持ちいいな〜」


 湯を囲む岩に背を預け空を見上げる。そこには相変わらず真っ赤な雲が浮いていた。それはもう見慣れた光景だ。


「なんか、腹立つけど魔界にも慣れてきたな」


「てか、リアム様はほとんど最上級悪魔と変わらないッスよ。現に悪魔共は怯えて逃げ出しますし」


 リアムは魔界で片っ端から悪魔を殺す事から、『死神』と恐れられるようになった。理性のある悪魔はリアムの姿を見ればすぐに逃げようとする。もちろん逃がさないが。


「一緒にすんな」


「目の前にその最上級悪魔がいるのに、よくはっきりと言えるね」


「今更だろ。そろそろ慣れろよ」


「もう慣れてるよ」


 アロケルは肩を竦める。リアムもため息を吐いた。


「リアム、少し考えたんだが、一度探す相手を変えようと思う」


 リアムがくつろいでいると、アロケルが突然口を開いた。


「……どういう事だ?」


「このままでは時間が掛かりすぎる。アモンの居場所を知っているだろう人物に心当たりがあるんだ」


「そんな奴がいるのか?なんで今まで言わなかったんだよ」


「あまり頼りたくない相手でね。この魔界で2番目に強いと言われる悪魔が2人いる事は覚えてるかい?」


「ああ、そのうちの1人がベレトだろ?」


「そう。そして、アモンの居場所を知っていると思われる悪魔がその片割れだ」


「なるほど……。なんで頼りたくなかったんだ?」


「彼は気まぐれな男でね。全く取り合ってくれないこともあるし、いきなり殺しにくることもある。どんな気まぐれでも力があるから実行してしまうんだ」


「それは厄介だな。それで、名前はなんて言うんだ?」


「メフィスト=フェレス。魔王軍には属していない、闇を操る最上級悪魔だ」



 〜〜〜〜〜



 温泉から上がったリアム達はとりあえずメフィストを探すことにした。アロケル曰く、アモンよりもメフィストの方が目撃情報があるらしい。


 荒野を歩く。今のリアムにとってはそれが日常だ。ただ歩くだけの時間にも慣れてきた。何より、リリスがずっとうるさいので暇にはならない。


「メフィスト様に会いに行くんスか?ウチはあんまり会いたくないッス」


「じゃあ帰っていいぞ」


「そんな事言わないでほしいッス!ただ、メフィスト様は物騒な噂が多いんスよ」


「物騒な噂?」


「そうッス。例えば気まぐれで辺り一帯を消し飛ばしたりとか、魔王に喧嘩を売ったりとか、アモンとは違って自分の愉悦のためではなく、本当にただの気まぐれで動く方なんスよ」


「それは……本当に物騒だな」


 アザゼルと戦って分かったが、自分はまだベレトには勝てない。リアムはそう感じた。そして恐らくそのベレトと同格というメフィストにも勝てないだろう。そんな強大な力を持つ存在が、ただの気まぐれだけで動くと考えるとゾッとする。


 リアムは周りを確認すると、そこは大きな谷底のような場所だった。両脇には崖が高くそびえている。

 幅の広いその道を、3人は横に並んで歩く。足音がよく響いていた。


 ふと、リアムは何かを察知した。


「へぇ……久しぶりだな」


「なんでリアム様は嬉しそうなんスか」


 少し遅れてリリスも気付く。そして呆れたようにため息を吐く。アロケルは既に周りを確認していた。


「ふむ、君への下克上ってとこかな?」


 両脇の崖の上、そして通路の前後に大量の上級悪魔がいた。

 最近リアムが名を挙げていることに対する逆恨みだろう。もちろん、リアムは意図していない。そんな彼からしたら良い迷惑だ。


「リアムどうする?」


 アロケルはリアムに聞く。リリスも戦闘態勢に入っていた。


 リアムはニヤつく口を手で隠す。


「はは、まさか奴らから来てくれるとはな。お前ら、手を出すなよ。こいつらは俺の客なんだろ?」


 本当に楽しそうに笑った。リアムはここ最近、悪魔に怯えられてストレスが溜まっていたのだ。結局は皆殺しにしていたのだが。

 だから、その悪魔がわざわざ集まってきたのはストレス発散に良かった。


 悪魔という種族に向けられるリアムの憎しみ。それは簡単に消えるものでは無かった。


「はぁ、分かってるよ」


「やっぱりリアム様かっこいいッス」


 アロケルとリリスもあっさりと了承する。


「じゃあ、哀れな獲物共を狩るとするか」


 リアムは足を一歩踏み出す。刹那、その姿がブレた。そして数分後、凄惨な場を背にリアム達3人はまた歩き始めた。



 〜〜〜〜〜



「おい、そのメフィストの目撃情報が無いんだけど」


 次の日、リアム達は相変わらず歩き回っていた。既に谷底は抜け、また何もない荒野が広がっている。


「まだ一日しか経っていないだろう?」


 谷での襲撃の時もそうだが、リアムは悪魔を殺す時にメフィストの事を聞いている。だが情報は得られない。


「一度可能性を知ったら短気になるもんだろ」


 焦るのはやめたとは言え、アモンを探していることには変わりない。だから手掛かりがあると聞いて期待してしまっている。


「また君に怯えるようになってしまったしね」


 悪魔はまたもリアムに気付くと逃げ出すようになってしまった。その分、情報源となる悪魔(スケープゴート)が少ないのだ。


「正直、自業自得だと自覚しているけどな」


「分かっているなら、そろそろ死んでおくがいい」


「っ!?」


 リアムは咄嗟に隣にいたリリスを掴んで後ろへ飛び退く。アロケルは自分で反応して回避していた。

 刹那、リアム達が立っていた場所が崩れる。ぽっかりと空いた穴はそこが見えない。いつか見た光景と同じだ。


「まじかよ……全く気付かなかった」


「……私もだ」


「ひぃぃ!!」


 3人の視線の先にはベレトが立っていた。だが、リアムは接近されている事に気付けなかった。


 以前戦った時にも似たような事はあった。最初に蹴りを入れてから自分の足の怪我を確認していると、気付いたら目の前まで接近されていた時だ。あの時はたまたま顔を上げたタイミングだったから避けれただけで、気配を察知した訳では無かった。


 リアムには一つだけ思い当たる可能性があった。しかしそんな事が出来るはずがないと、その可能性を振り払う。


「我が同胞達が世話になったようだな、『死神』。やはり貴様は危険だ。今ここで始末させてもらう」


 そう言うとベレトの気配が消えた。そして姿も消える。


「っ!?」


 リアムは反射的に前に転がり込んだ。次の瞬間、背後にベレトが現れる。


「……ほう?本能で躱したのか?」


「っ!衝撃インパクト!」


 リアムはベレトを無視して掌をアロケルに向けると、威力を弱めた魔法を放つ。

 その衝撃を受けたアロケルが体を仰け反らすと、つい先程までアロケルの頭があった位置をベレトの手が通る。


 リアムは足に魔力を込めて高速移動し、アロケルも掴むと即座にベレトと距離をとった。


「リアム様助かったッス!」


「す、すまないリアム」


「はぁ、はぁ、気にすんな」


 リアムの額に汗が流れる。疲れた訳ではない。ただ、あり得ないと捨てた可能性が当たったかもしれないと、嫌な予感がしていた。


「お前……もしかして、形の無いものも腐敗させれるのか?」


 そして最悪の可能性を口にした。




つなぎの話書くのめっちゃ難しいです。

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