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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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閑話 天使は謳う

 


 広い部屋に1人の女がいた。8枚の翼を生やし、神秘的なまでに完成された美貌を持つ女。


「はぁ」


 そんな女がため息を吐く。疲れを含んだそのため息は、光り輝くその部屋に溶けていった。


 熾天使ミトロン。

 彼女は太古より天界を収め、天軍6隊を指揮してきた天使だ。もはや天界にも地上界にも、そして魔界にすら知らない事はないと言われている。のだが、


「はぁ」


 その彼女が頭を悩ませていた。ここ数年で謎の現象が度々起きている。


 10年ほど前に起きた事件が切っ掛けだった。地上界を視るための機能が一時的に使用不可能になったのだ。それは一週間もの間続いた。

 それなのに、智天軍は地上界に現れた悪魔に気付き討伐へ向かった。しかもその際、出撃した智天軍は壊滅。唯一生き残ったケルビムは、智天使であるルシフェルの堕天を報告した。


 それを聞いたミトロンは混乱した。かつて力天使だったアザゼルを追放したのは自分だ。他にも追放した天使はいる。それらには理由があった。

 だが、ルシフェルは何もしていない。堕天の予兆も無かった。ならば悪魔因子を埋め込まれた事になる。


 あり得ない。そう思った。ケルビムは気絶していたらしく、詳しくは分からないらしい。だがルシフェルが簡単に負ける訳がない。何かがあったに違いない。


 ミトロンはそう考えていたのだが、その後もルシフェルとは音信不通。当たり前だ。堕天した天使は天界に入る資格を失うのだから。


 そもそも地上界を視れなくなったのも初めてだったのだ。

 天界において知らない事は無い。自分でもそう思っていたミトロンはその時点で混乱に陥った。だが、不測の事態はそこで終わらなかった。


 それからしばらくした頃、神が世界に干渉したのだ。この世界が創られてから初めての事だ。訳が分からない。しかも大きく干渉した訳ではない。些細なことに干渉したのだ。


 それとほぼ同時期に、少しずつ悪魔の出現頻度が増えていった。魔界がまた大戦を仕掛けようとしてるのかと考えたが、ほんの30年前に敗北したばかりだ。勝ち目があるとは思えない。


 一応地上界には警告をしておいた。手遅れになる前にと思ったからだ。そして最近半魔の少年と勇者の少女がヴィリレタル大陸に逃げたりなど、珍しい事が次々と起きた。


 だが、その中でも一番の謎は今回の事だ。


「ミトロン様!」


 ミトロンの部屋に男が入ってくる。酷く慌てた様子だ。


「どうしました?ケルビム」


「それが……」


「決まってしまいましたか?」


「はい。人間達は、グラム大陸で同盟を組み獣人に戦争を仕掛けるようです」


 つい先日、現智天使であるケルビムから人間が戦争を始めようとしている、と報告があった。

 確かに地上界を視ると戦争の準備をしているようだった。最初は悪魔の進行に備えてだと思っていたのだが違った。彼らの標的は獣人だったのだ。


 獣人は何もしていない。だが、人間の上層部は獣人達に滅ぼされると言ってその意思を曲げない。どこか錯乱したその様子に、ミトロンは自ら地上界へ出て確認した。それでも第三者の介入は感じられなかった。


 獣人は人間のその動きを知らない。そもそも争いを好まない種族であることは人間も知っているはずだ。


 更に人間はなにやら新しい兵器を作っているようだ。それがなんなのかはミトロンですら分からない。どこで得た知識か分からないが、ミトロンが知らない技術を駆使しているのだ。


 おかしい。明らかにおかしい。しかしミトロンに気付かれずに介入出来る存在がいるとは思えない。もしもそんな存在がいるのなら、恐らく世界は滅ぶだろう。


 ミトロンならば、例え相手が神だろうと干渉していれば気付ける。それでも相手が神では勝つことはできないのだ。

 しかし、その干渉さえ感知させない敵がいるかもしれない。つまりそれは神以上の存在を示唆していた。


「はぁ」


 ミトロンは今日何回目かのため息を漏らす。頭が痛くなってきた。


「それと、他にも伝えたい事が」


「なんです?」


「実は特異点が魔界へ侵入し、それが原因で魔界が荒れていると」


「……そうですか」


 特異点。それは半魔にして勇者の資格を持つ少年。


 この世界には様々な制限がある。


 天使は上位の同族を殺せない。


 悪魔も上位の同族を殺せない。


 そして人間と獣人は上位の天使と悪魔を殺せない。勇者だけは悪魔を殺せる。


 しかし半魔であり勇者でもあるその少年にとって、この世界に殺せない存在はいない。それは魔王にも、そして熾天使であるミトロンにすら無い資格。


 故に、特異点イレギュラー


 その存在を知ったのも最近だ。"ブリルの惨劇"の生き残りなど、当初はその可能性も考えていなかった。


「特異点が悪魔を憎んでいる事は分かっていましたから、いつか魔界へ行く事は予想出来ました。問題は特異点ではなく、その荒れた魔界が本当に大戦を起こそうとしているのか、ということです」


 ミトロンは特異点リアムを危険視していなかった。彼が憎んでいるのは悪魔だけだと思っているからだ。


 ミトロンは自分が完成された存在であると自負しているために、不完全な存在を理解出来ないし、しようとしない。その時点で自分も不完全だとも言えるのだが、彼女はその事に気付けない。


 そんなミトロンが、悩み苦しみながら生きてきた特異点リアムの思考を理解出来ないのも当然だ。なぜなら特異点リアムも不完全な存在だから。


 ミトロンの懸念は魔天大戦が起こるかどうか。今までは悪魔が頻繁に地上界に出てくるのは戦争の前触れだったからだ。


 しかし今回は分からない。予想外の事態が多いのだ。そもそも10年ほど前に起きた惨劇でアモンが出てきた時点で、天界は後手に回りながらも魔天大戦に備えていた。なにせ最上級の悪魔が出てきたのだから。

 だが、結局何も起きなかった。アモンは本当に自分の愉悦のためだけに村を滅ぼしたのだ。


 30年前の大戦で魔王が討たれた訳ではないが、それでも魔界は負けている。30年程度では悪魔はろくに成長しない。それに、今は特異点によって魔界は荒れているという。


 流石にミトロンと言えど、魔界のシステムは知っていても天界にいる限り内情までは把握しきれない。だが様々な要因から推測しても、魔界に勝ち目のあるとは思えなかった。


「もしかしたら、私達が知らない何かがあるのかもしれません。決定的な自信となる何かが」


「その可能性は高いと思います」


「ケルビム。今一番手の空いている軍はどこですか?」


「力天軍です」


「では力天軍から数名を地上界に派遣し、情報を集めさせなさい。それと同時に一応獣人にはグラム大陸の動きを知らせて、人間には戦争の中止を呼びかけてください」


「はっ!それでは失礼します!」


 ケルビムは部屋を後にする。


「……はぁ」


 ミトロンはその背中を見ながら、またもため息を吐いた。何から手をつけたらいいか分からない。頭を抱えた。


 そうしてあらゆる事に思考を巡らせるミトロンは気付けなかった。部屋を出るケルビムの口元が、歪んだ笑みを浮かべていたことに。



 〜〜〜〜〜



「ケルビム様、お疲れ様です」


 ケルビムが暗い部屋に入ると、そこには1人の男が座っていた。そしてケルビムに気付くと立ち上がる。


「ああ、疲れた。ミトロンの前では下手な事は出来ないからな」


「それで、首尾の方は?」


「力天軍を使うよう仕向けた。指揮は頼むぞ、デュナミス」


「承知しました」


「地上界には適当に送り込んでおけ。確か、力天軍には七大天使のウリエルがいたな」


「はい。ですが、彼女は恐らく我々と敵対するでしょう」


「だろうな。だからこそ派遣して距離を作る。奴らは頑固者故に嗅ぎつけられたら厄介だ」


「ではウリエルと幾人かの不安要素を派遣させます」


「まぁ力天軍の不安要素だけしか除けないがな。あと、人間にはちゃんと戦争をさせろ」


「分かってますよ」


 デュナミスは立ち上がると部屋を出ようとする。その背にケルビムは思い出したように声を掛けた。


「ああ、そういうばな、アザゼルが死んだらしいぞ」


 その言葉にデュナミスは立ち止まる。


「奴が……?あの男は腕っ節だけは本物でした。一体誰が?」


「例の特異点だ」


「特異点……。それは楽しみですね」


 デュナミスはニヤリと笑みを作る。かつての上司(アザゼル)が死んだことなどどうでもいい。それよりも、アザゼルより更に強い者がいるということだ。


「お前も存分に楽しませてやる」


「ええ、お願いしますよ。世界を我らの物にしてみせましょう」


 デュナミスはそう言って部屋を出た。


 デュナミスが部屋を出て行った後、ケルビムは一人部屋で座っていた。


「世界を我らの物に……か」


 ケルビムはニヤリと笑みを浮かべる。


「やはり愚かなものだな。この世界の住人は。だが奴は、奴らはじき知ることになるだろう。己が罪を」


 全てが終わった世界で自分がその罪を謳い、そして断罪する瞬間を思い浮かべて。





なんかおかしいと思ってたんですけど、多分三点リーダー直せました。直せてますよね?

これから少しずつ今までの作品も訂正していこうと思ってます。


今のところなんとか時間を作れてるので今のうちにできるだけ書いて投稿します。

ハードすぎて死にそう。


あ、サークル決めました。

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