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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第55話 断罪者

 


 ベレトが手をリアムに向ける。刹那、そこから魔力の塊が放出された。


「っ!」


 それは思いがけずに速く、躱したはずのリアムのコートを掠めた。するとそこからコートがボロボロと腐っていく。


「ちっ!」


 リアムはコートを脱ぎ捨てると、ベレトに炎弾を放つ。だがそれはベレトに届かずに消えた。


「もしかして……魔法まで腐らすのか」


「ああ。ベレトの能力は全てを腐らせる。対策としては高密度の魔力を纏う事だが、そもそも彼の発現量を超えるのは困難だ」


 感知してみると、ベレトは膨大な魔力を持っているようだった。確かにあれを上回るのは難しそうだ。


「厄介な奴だな。逃げきれる気がしないし。……ちょっと戦うからリリスを預かってくれ」


「あ、もっと優しく扱ってほしいッス」


 リアムはアロケルにリリスを投げ渡すと、魔石から聖剣を取り出す。


「待てリアム!流石に無理だ!」


「適当なとこで逃げるから、お前らは先に行け」


 そう言ってリアムはベレトに突撃した。


 ベレトの眼前まで迫ると、聖剣を上から振り下ろす。だがそれは骨のような魔剣に止められてしまった。しかし聖剣は腐らない。


「半魔なのに聖剣を……?もしや貴様、アモンが言っていた……」


 ベレトは何か考え出したが、リアムには関係ない。リアムは右足に全力で魔力を込めると、ベレトの脇腹へめり込ませる。リアムは足に骨の硬さを感じたが、そのまま振り抜いた。


「ぐっ!?」


 ベレトは呻き声を上げると、勢いのままに地を転がる。


火柱フレア!!」


 ベレトの動きが止まる前に、リアムは畳み掛ける。巨大な火柱がベレトを起点に立ちのぼった。だがすぐに根元から消えていく。


「ふむ。貴様、なかなかやるではないか。しかしまだ甘い」


 ベレトは立ち上がるとそう言った。ダメージはないようだ。痛みを感じたリアムは視線を落とす。すると足の甲が少し腐敗して崩れていた。


(結構魔力込めたんだけどな)


 そして顔を上げると、目の前にベレトがいた。


「うおっ!?」


 ベレトが振った手を後ろに倒れ込むように避ける。手を地面につけ体を支え、今度は左足に魔力を込めてベレトの顎を蹴り上げた。


 足の裏から伝わる冷たい骨の感触に顔を顰める。だがリアムはそこで止まらず、そのまま追撃を仕掛けた。


 リアムは手に風を纏い地面を押す。反作用によってリアムの体は宙へ飛び出し、ベレトの上に先回りした。


硬化ハーデン


 リアムは右足に魔力を込め、更に硬化するとベレトに踵落としを打ち込んだ。ベレトはそれをまともに受け、体を「く」の字に曲げると地面へ落ち叩きつけられる。


光柱シャインピラー!!」


 地面にめり込んだベレトに向かって、大きな光の柱が落ちた。リアムはその結果を見届ける前にアロケルの元に戻る。


「リアム様かっこよかったッス!」


「おい!お前らなんで逃げてないんだよ!」


「あ、ああ、すまない。少し戦闘に見入っていた。それよりも、まさか倒したのか?」


「んな訳あるか。多分無傷だ。手応えが無かった。とにかく、今の内に逃げるぞ」


「分かった」


 リリスを抱えたアロケルとリアムは並んで走り出した。しかしその時、2人には悪寒が走った。


「リアム!」


「分かってる!」


 そのやり取りと同時に、2人はそれぞれ左右に飛び退く。刹那、その間を亀裂が走った。先程と同じく地面は消え去り、底は見えない。


「わひゃー!危ないッス!」


「くそっ!復活早すぎだろ!へこむわ!」


 リアムの視線の先にはベレトがいた。相変わらず無傷だ。


「悪いが逃すわけにはいかないのでな」


 ベレトは骸骨であるため、表情が存在しない。だが、リアムには嗤っているように見えた。


「アロケル。10秒でいいから時間を稼いでくれ」


「いや、もっと稼いでみせるさ」


 ベレトは2人に手を向けた。だが、ベレトが何かをするより先にアロケルが動いた。


幻想ファンタズム世界ワールド


 アロケルが唱えた瞬間、世界が変わった。全てが作り変えられ、混沌に包まれる。無数の化け物が現れ、ベレトを襲う。五感は全て狂わされ、変わり果てた世界を正確に認識する事が出来ない。それはベレトも、そしてリアムも同じだった。


「なん、だ?」


 リアムが足をフラつかせていると、アロケルが駆け寄り体を背に乗せる。そしてそのまま振り返る事なくその場を離脱した。



 〜〜〜〜〜



「リアム、リリス、大丈夫かい?」


 アロケルは2時間ほど走り続け、そこで見つけた岩陰に身を隠す。リリスは呑気に寝ていた。


「最高に気分が悪い事を除いたら大丈夫だ」


「そうか、それは良かった」


「良くねえよ。なんだ?さっきの幻術、現実に干渉してたぞ?」


「よく分かったね。幻想世界は私が思い描いた通りに世界を塗り替える。と言っても数分だけだけどね」


 リアムは改めてアロケルの恐ろしさを実感した。初対面の幻術もそうだったが、アロケルのそれはもはや幻術の領域を超えている。創造の力に等しい。


「……お前が敵じゃなくて良かったよ。それで、感覚を狂わせたのは別の幻術か?」


「ああ。2つの魔法を使った」


「なるほどな。あれじゃ奴もすぐには来れないか。でも、なんですぐに使わなかったんだよ」


「消費魔力が多いんだよ。正直、今もキツい」


 アロケルはそう言うとその場に座り込んだ。言葉通り疲労しているようだ。


「時間稼ぎを頼んだのに悪いな。それに俺を運んでくれたし、助かったよ」


「いや、気にしないでくれ。それにしてもリアムは本当に強いな。ベレトをあそこまで追い込むなんて」


「追い込んでねえよ。無傷だったろ?」


 そこでリアムは自分の足を見る。左足の裏は少し崩れ、右足は甲と踵が腐っていた。リアムはすぐに治療を始めるが、回復魔法はあまり得意ではないため時間がかかる。


「自分の体が腐敗してるとこ見るのはキツいな。相当魔力込めたのに防げなかった」


「それでも凄い方だよ。普通なら触れた瞬間に全身まで腐ってもおかしくない」


「おっかないな。他にもあいつについて教えてくれ」


「先程リリスが言っていたように、彼はこの魔界で2番目に強いと言われている。魔界のNo.2はもう1人いるんだけどね。私は調停者と呼ばれているが、それに対しベレトは断罪者と呼ばれている。魔王に仇なす存在を問答無用で殺し回るんだ。彼の能力も脅威だけど、それ以上に恐ろしいのはその忠誠心さ」


「忠誠心?」


「ああ、彼は魔王に仕える事を喜びとしている。仕えたいから自分は魔王になりたくないんだ。だから次期魔王をアモンに譲った」


「で、今度はアモンに仕えるのか」


「そうなるね。まぁアモンが次期魔王になって数百年は経ったけどね。次期魔王というのは魔王が死んだ時に代わる存在。だから魔王が死なない限り次期魔王はずっとそのままなんだ」


「要するにスペアか」


「そう言えるね。それで、少し話を戻すけど、彼は魔王に敵対する者を許さない。最上級悪魔である私は殺されないけど、それでも塵にされたら復活まで時間が掛かる」


 リアムは塵になっても復活すると聞いて、聖剣を手に入れられた事に感謝した。


「そのベレトに、君が聖剣を持っている事を知られた。恐らく、彼は君を抹殺対象に定めたはずだ。そして、君と一緒にいる私達もね」


 そこでリアムは気付く。アロケルとリリスが自分に協力している意味を。


「……いいのか?」


「気にしないでいい。私としてもアモンは倒して貰いたいし、リリスもそう思っているだろうからね」


 リリスを見るとまだ寝ていた。だらしなく口元を緩めて何やら呟いている。


「……感謝する。それにしても、厄介な事になってきたな。ベレトに追われながらアモンを探し出して殺さないといけない。しかもアロケルが魔王に止められたら終わりだ」


「それは心配ないよ。理由は分からないけど、今回の事に魔王は介入してこないと考えていい」


「根拠はあるのか?」


「ベレトに知られた時点で魔王も知っているはず。なのに干渉してこなかった。何か狙いがあるのかもしれないけど、しばらくは大丈夫だろう。ただ、恐らくベレトは追ってくる。次は部下も使うだろう。最上級悪魔も含めて、ね」


「あいつほんと厄介だな。殺せたら良いんだが、ベレトと本気でやり合う訳にはいかないし」


 リアムが魔界に来たのはアモンを殺すためだ。他の場面で力を出しきる訳にはいかない。そもそも、リアムが本気で戦ってもベレトを倒せるか怪しい。


「今日は少し休まないかい?お互い疲れてるだろう?」


「そうだな。正直、疲れたしかなり痛い」


 リアムは既に足の治療を済ませ、見た目は元通りになっている。だが痛みは残っていた。


「リリスも寝てるみたいだしね。リアムの料理が食べたい」


「……別に食べなくても良いんだろ?」


「あまり争いを好まない私にとって、魔界は娯楽がほとんど無いんだよ。だから君の料理を食べるのは些細な楽しみなんだ」


「また断りづらいことを」


 リアムはため息を吐きながらも立ち上がり、料理の支度を始める。アロケルには本当にお世話になっているから、断るつもりは無かった。


 相手は悪魔なのだが、場合によっては仲良くできる。リアムは少し、ほんの少し、自分の成長を感じた。





お知らせがあるので、良ければ活動報告を見てください。

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