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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第4章 復讐の先へ
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第54話 急転

 


「嫌だ!お前が先祖なんて絶対に嫌だ!」


「なっ、なんスかいきなり失礼ッスね!先祖って何の話ッスか!?」


「なぁ、お前兄弟とかいたか?」


「弟がいたッス」


「……俺の母さんの名前はアナ・セヴェールだ」


「……?……え!?ええ!!?」


 リリスもやっと気付いたらしい。遅れながらも今起こっている事に驚いた。


「お前と血が繋がってるなんて最悪だ!」


「そんな事言わないでほしいッス!」


「うるせえ!自分の先祖が淫乱悪魔とか恥ずかしすぎるだろ!」


「ウチが人間の時は違うッスよ?処女のまま悪魔になったッスから」


「変わらねえよ!」


 リリスが住んでいた国が、リアムが住んでいた村で、生き残ったリリスの弟の子孫がリアム。

 滅ぼされた国で生き残るだけでも奇跡なのに、その子孫であるリアムが悪魔になった先祖と出会うなんて何と言えばいいのか。


「ってもう訳分かんねぇ!!」


 リアムは盛大に混乱した。


「どうしたんだい?」


 リアムとリリスの騒ぎを聞いたアロケルが尋ねる。


「……リリスは俺の先祖だ。血が繋がってる」


「へぇ!それはめでたいじゃないか!」


「なに?喧嘩売ってる?ほんとにめでたいと思う?よく考えて言ってみ?」


 リアムが詰め寄ると、アロケルはしばらく考えた後、少しだけ顔を顰めた。


「……リアム、すまなかった」


「アロケル様まで酷いッス!」


 だが結局、リアムとリリスの血の繋がりが発覚しても何も変わらなかった。


 リリスも千年も悪魔として過ごす内に人間としての感情などは無くなっていて、弟が生き延びていた事に関しても何も言わなかった。恐らく本当に何とも思ってないのだろうとリアムは推測する。


 そしてリアムは、そんなリリスを見て少し複雑な気持ちになった。

 永い時を悪魔として過ごすうちに、人間だった時の心を忘れてしまう。それは不幸と言うべきか、あるいは幸いと言うべきか。


「そういえばリリスって夢魔なんだろ?俺は何になるんだ?」


 リアムはひとまず思考を切り替え、話題を変えることにした。


「おや?ルシフェルから聞いてないのかい?君は鬼だよ」


「鬼?」


「ああ。鬼型は悪魔の中でも特に身体能力が高い。あまり数はいないけどね。ちなみに私はキメラ型。悪魔に一番多いタイプだ」


 悪魔にも様々な種類がある。獣人は大抵キメラ型になるが、人間の場合は悪魔因子と個人の意思によって変わるらしい。


 死にかけ、生きる事を望んだリリスは、高い再生能力を持つ夢魔に。


 家族を失い、自分の無力を憎んだリアムは、悪魔の中でも一番戦闘能力の高い鬼に。


 悪魔になってから年月が経つにつれ、少しずつ異形化していく。アモンが3つ首なのも、奴が悪魔になってから数万年が経っているかららしい。


 ふと、リアムは魔界では魔王に逆らえないという話を詳しく聞いたのだが、誰かを殺させたり、自殺させたりは出来ないらしい。

 あくまで悪魔が減るのを防ぐためのシステムで、もし魔王が殺したい相手がいたら自ら殺しにいく。


 なので、もし今のアロケルとリリスが魔王に命令されても、せいぜいリアムへの協力を止めさせられるぐらいだろう。



 〜〜〜〜〜



「あれ?魔界の雲って赤色じゃなかったっけ?」


 リアムが魔界に来て3日が経った。既に幾つかの拠点を周ったのだが、アモンの痕跡は見つからない。


 基本休むことなく、たまにリアムが魔石から食料を取り出して料理をするぐらいだ。

 悪魔はほとんど食事を摂らなくても大丈夫なのだが、アロケルもリリスも一緒に食べ、その味に舌鼓を打っていた。


 そして今、ふとリアムが空を見上げると、いつの間にか雲が黄色になっていた。


「ああ、これは酸性雨を降らす雲だよ」


「酸性雨?」


「あれッスよ!皮膚をドロッドロに溶かす雨ッス!」


「怖っ!」


「でも大丈夫ッス!」


「そうなのか?」


「だってリアム様が守ってくれるッス!」


「俺頼りかよ!アロケルに頼め!」


「私は幻術には長けているが、それ以外の魔法はあまり得意じゃなくてね」


「……はぁ。分かったよ。嵐龍テンペスト


 途端、リアム達の目の前で大きな竜巻が起こった。それは少しずつ形を変え、龍の形を成した。そして猛スピードで天へ飛び、酸の雲を吹き飛ばした。


「「………」」


 それをアロケルとリリスは目を点にして見ていた。口も半開きになっている。


「ほら、終わったぞ」


「……障壁を張るのかと思っていたが、まさか雲自体を消すとは」


「さ、流石リアム様ッス!抱いてほしいッス!」


「いや、この方が楽だろ。あと抱かねえから。それより……」


 リアムは晴れた空を見上げる。魔界はずっと雲に覆われていたので、晴れた空を見るのはこれが初めてだ。


「気味が悪いな」


 空はぎっしりと骨で埋め尽くされていた。その光景は不気味としか言いようがなく、見ているだけで嫌悪感が掻き立てられる。


「私もそう思うよ。魔界にも太陽はあるらしいのだが一度も見た事がない」


「へぇ。……それよりさ、これって俺のせいかな?」


 リアムは雲を吹き飛ばした時から、少しずつ迫る気配に気付いていた。そしてそれは、尋常じゃなく強い気配。


「なにがッスか?」


「いや、なんか来てるんだけど」


「これは……まずいね」


 リリスは気付いていないようだが、アロケルは額に汗を流す。


 アモンではない。リアムは直感的にそう思った。無意識にアモンの魔力を覚えたいなのか、それとも本当にただの勘かは分からないが、そう思った。


 問題は、アモンかもしれないと思うほどの強さだと言うことだ。


「アロケルは相手が誰だか分かってるのか?」


「ああ、今すぐ逃げた方がいい」


「俺とお前がいても勝てないってことか?」


「君の実力を全て知ってる訳ではないけど、恐らく無理だろう」


「……そうか」


 リアムはこの数日でアロケルを信用している。悪魔を信用するなんて考えられない事だったが、アロケルは本気でリアムに協力していた。

 そのアロケルが勝てないと言うのだ。本意では無くても従うべきだろう。

 リアムは即座に判断した。


「分かった。じゃあ逃げるか」


「君がその決断をするなんて意外だね」


「……お前は信頼できるからな」


「嬉しいね。じゃあとりあえず早くここから……」


「その必要はない」


 アロケルが言い終わる前にそれは現れた。リアムの感知を潜り抜けて、いつの間にか目の前にいた。


「やっぱり君か……ベレト」


「貴様は魔王様を裏切るつもりか?」


「そんな事はないさ。魔王様には何もしない」


「そこの半魔はアモンを殺しに来たのだろう?次期魔王を殺させる訳にはいかない」


 その悪魔は大きなローブを着ていた。サイズが合っていない。その中に肉体と呼べるものが無いからだ。骸骨の姿をしているベレトは、明らかに強者のオーラを纏っていた。


「ひぃっ!ベレト様!?」


「お前も知ってるのか?」


「だ、誰でも知ってるッスよ!あの方は魔王様の右腕!この魔界で2番目に強い悪魔ッス!」


「ん?アモンじゃなくてか?」


「リアム!今はそんな事言ってる場合じゃない!今すぐ逃げるぞ!」


 見ればベレトは何か苦しんでいた。恐らくアロケルが幻術を掛けたのだろう。


「すぐに解かれる!早く!」


 リアムはすぐにリリスを抱きかかえると走り去ろうとした。だが、突然地面がボロボロと崩れる。


「っ!?」


 リアムは咄嗟に空歩で宙に立つ。下を見れば大きな穴が出来ていた。底は見えない。


「ひゃぁぁぁ!」


「なにが起きたんだ?」


「ふぅ。やはり、貴様の幻死は厄介だな。アロケル」


 振り返るとベレトが立ち上がるところだった。アロケルがリアムの隣に寄る。


「リアム、気をつけろ。ベレトの能力は腐敗。あらゆる物を腐らせる力だ」




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