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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第3章 別れから出会い
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前日譚・下 師弟

 


 爆発音が森を揺るがす。それは何回も続き、まるで何かを追うかのように爆心地を変えていく。そしてその一撃一撃は、確実に何かを殺す破壊力を持ったものだった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 その森を少年は駆け抜ける。身体強化を掛け、更に風魔法で機動力を上げ、何かから必死に逃げていた。

 そんな少年のすぐ背後で爆発が起こる。


硬化ハーデン!!」


 少年は全身を硬化させてそれに耐える。少し体は飛ばされるが受け身を取り、無傷で起き上がるとすぐに動き出す。次の瞬間、少年が立っていた地が爆ぜた。


「ここだっ!」


 少年は向きを反転させる。木々を縫うように走り抜けてある一点を目指す。すると、少年の視界に女が映った。


火砲キャノン!」


 少年の突き出した掌から高密度の魔力で形成された火の玉が打ち出された。まともに受ければ死んでもおかしくないような威力。それは寸分違わず女に向かって飛んでいく。だが、女が指を鳴らすだけで霧散してしまった。


 無慈悲とも言えるそれを、しかし少年は想定していたかのように次の行動に移る。

 剣を片手に瞬時に女の背後に移動。常人ならば消えたように見えるほどの速度だ。そう、常人なら。


「がっ、あっ!!?」


 気付けば少年の腹部に女の脚がめり込んでいた。骨が悲鳴を上げる。少年はなんとか耐えて剣を振ろうとしたが、またも気付けば少年の体は吹き飛ばされていた。

 地を削り、抉る。木々をへし折り、薙ぎ倒す。それでも少年の飛ぶ勢いは殺せず、なすがままに転がり続けた。


 しばらくして少年の動きは止まる。少年と女にかなりの距離が出来たが、その間には何も無かった。


「くぷっ、がはっ!ごほっごほっ!」


 少年は大量の血を吐き出す。内臓に致命的な損傷を受けているようだ。


「っ!?」


 だが休む間も無く少年はその場を飛び退いた。刹那、その場に一筋の光が落ちる。そしてそこを中心に大規模な爆発が起きた。一瞬で周囲が焦土と化す。


「はぁ、はぁ」


 しかし少年は立っていた。咄嗟に地面を隆起させて自分を囲み、爆風から身を守ったのだ。


「がっ!」


 だが少年に休む間はない。いつの間にか目の前にいた女が少年の腹部を蹴り上げる。まともに受けた少年は体は浮かされ、意識が飛びかける。


爆熱風カリエンテ!」


 揺らぐ意識の中少年はなんとか叫んだ。途端、少年から外側へと指向性を持つ爆発が起きた。しかしそれらは不自然な動きで女だけを避けていった。少年は舌打ちをする。


 女は少年の足を掴むと地面に叩きつけた。そして反動で体を跳ねらした少年にまたも蹴りを叩き込む。


「ぐっ、はっ!」


 少年は先程と同じように飛んでいく。やがて止まった少年は明らかに瀕死と言える様子だった。だが、


「が、ああああ!」


 少年は立ち上がる。その目に強い想いを込めて。


 少年は女に肉薄すると蹴りを放った。しかし軽く避けられる。それでも少年は動きを止めない。

 蹴りを放ち、拳を突き出す。それらは全て当たらないが、やはり少年は諦めなかった。だが、気合いだけでは勝てない。決着はあっさりとついた。


 女がカウンターに少年の腹に拳を打ち込む。それを受けた少年は肺から息を吐き出し、一瞬動きが止まる。その隙に女は踵落としを放った。そしてそれが直撃した少年は、そこでブツリと意識を手放した。



 〜〜〜〜〜



「つっ!」


 少年が痛みで目を覚ますと、目の前には木々が並んでいた。戦闘していた場所からは離れたようだ。


「あら、起きたのね」


 その隣には女が座っていた。暇そうな表情をしている。


「……はい。また、ボロ負けでしたね」


「ま、私には勝てないから仕方ないわよ」


 女は当たり前のように言う。不遜なセリフだが、しかし少年は反論しない。それは身に染みて分かっていたからだ。


「それにあんたはまだ甘いわ。一つ一つの動きの間が長いし、うまく繋がってない。それじゃ効率が悪いわよ」


「簡単に言いますね」


「簡単だもの。あと、そもそも動きが遅い。魔法も発現する前に魔力を乱しすぎよ。あんなに感知しやすいと、避けてくれって言ってるようなものだわ」


 少年の戦闘における全てを否定される。だが悔しさを押し殺し、少年は女の言葉を頭に叩き込んだ。次に活かすために。

 女はそんな少年をじっと見ていた。その目には憧れのようなものが込められている。


「さて、じゃあ続けるわよ」


 女は少年に最低限の治療しか施していない。故に少年はまだ重症なのだが、女は平然とそう言うと立ち上がる。そして少年も何も言わずに立ち上がった。よく見れば、少年の体には明らかに先程つけられたものではない傷が無数にあった。


 そしてその後、日が沈むまで森には轟音が鳴り響き、少し静かになるとまた騒がしくなるというのを繰り返した。



 〜〜〜〜〜



 夜、少年と女は拠点としている場所で食事を摂っていた。焚き火を中心に座っており、2人の顔は火で赤く染められていた。


「料理はうまくなってきたわね」


「ありがとうございます。まだ師匠には敵わないですけどね」


 最初は違ったが、今では少年が料理の準備をしている。その腕は着実に上がっていた。


 少年が女に師事するようになって3年が過ぎた。少し前まではある村に滞在していたのだが、今では森で暮らしている。

 朝からは女と模擬戦、夜は森に住む魔物との戦闘。毎日毎日死にかけ、それでも少年が弱音を吐いたことはなかった。


「あんたもよくやるわよね」


「急ですね。なにがですか?」


「この毎日のことよ。あんたはまだ8歳でしょ?こんな生活よくやってられるわね」


「やらせてる本人がよく言いますね。それに、今更でしょう?」


「……まぁ、そうだけどね」


 女の表情に陰がさす。それは少年にも分かったが何も言わなかった。


「あんた、明日は少し街にでも行きなさい」


「……はい?」


「だから、明日は休みなさいって。私が街を案内してあげるわ」


 少年はそれを聞いて怪訝な顔をする。何かを疑っているような表情だ。


「……何を企んでるんですか?」


「あんた張り倒すわよ」


「だっておかしいじゃないですか!師匠が俺に休みを与えるだけじゃなくて街を案内するとか!絶対裏があるに決まっぶふっ!?」


 少年が言い終わる前にその顔には拳がめり込んでいた。少年は後ろに倒れ込む。

 女はそんな少年の隣に移動する。そして倒れている少年の頭を優しく撫でた。その表情は慈愛に満ち、元の美貌と相まって誰もが見惚れるような顔をしている。


「師匠……?」


 女はちょうど焚き火に背を向けるようにしているために、少年からその顔は見えない。だが女の撫でる手がひどく優しいことは分かった。


「何回も言うけど、私はあなたに復讐なんてして欲しくない。それでもあなたがそれを求めるなら邪魔はしないわ。でも、たまには休みなさい。それも強くなるためよ」


「………」


 少年は黙って聞いていた。その優しい声音に心地良さを感じる。


「私はあなたの師匠。……あなたの味方よ」


「……ありがとうございます。それでは、お願いしますね」


「任せなさい」


 少年と女はただの師弟関係ではない、少し変わった絆のようなもので繋がっていた。第三者には分からない、だが確かにある強い絆。


 この2人の関係は、いずれ世界の命運を分ける選択へと繋がっていくのだが、それはまだ先の話。




 そして、4年が経って少年は12歳になった。





次からは第4章です。

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