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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第3章 別れから出会い
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第51話 魔界へ

 

「アホか」


「アホ!?」


 頭を下げるクイナをリアムは罵倒した。クイナは呆然としている。


「お前、心が読めるんだろ?ならそんな事頼む必要ないだろうが」


「いや、そうかもしれんがの?ほら、これのおかげで強くなるかもしれんじゃろ?」


「気持ちで強くなるか馬鹿」


「馬鹿!?」


 リアムは精神論が嫌いだ。そんなもので誰かに勝てるわけがない。誰かを殺せるわけがない。それはあの日全てを奪われたリアムが出した一つの答えだ。

 リアムにはそれが努力しなかった者が言う戯言としか思えない。だからこそリアムは文字通り死ぬ気で強くなろうとした。


 そして、だからこそ、それに少し励まされている自分に苛つく。


「ず、随分と辛辣じゃな……。結構シリアスな雰囲気じゃったのに」


 だがクイナはそんなリアムの気持ちを知ってるはずなのに、それには言及しない。


「……お前、やっぱ良い奴だな」


「なっ!下げて上げるな!妾を口説いとるのか?」


「んな訳あるか。……はぁ」


 リアムはため息を吐くとクイナに背を向ける。


「行くのか?」


「ああ」


「頼むから、生きて帰ってきとくれ。妾はぬしにも死んで欲しくないんじゃ」


「頼まれなくても、勝手に帰ってくるよ。……まぁあれだ。俺が全部なんとかしてくるから、心配すんな」


 そう言ってリアムは歩き出した。



 〜〜〜〜〜



 クイナはそんなリアムの背中を見て、昔の事を思い出していた。


『よお、あんたがクイナか?』


『なんじゃおぬし。人間が何故こんなとこにおる」


 それはタクトとの思い出。独りで洞窟に篭っていた時の記憶。


『へぇ、あの村の獣人はみんなお前を怖がってるのか?』


『そうじゃ。妾は心が読めるからの』


『ふーん。それ、みんなに聞いたのか?』


『聞く訳がなかろう。やはり人間は知能が低いの』


『聞いてないのかよ。俺は、あそこの獣人がそんな奴らには見えないけどな』


『何事も例外はあるんじゃよ。あの村人達が優しいのは分かっておる。じゃが、それでも妾が怖いのは当たり前じゃろう。なにせ心を読まれるんじゃからの』


 タクトは自分を邪険にするクイナの態度を気にもせずに話を続けた。クイナもそんなタクトに心の内を話してしまった。それはきっと、タクトの心が綺麗だったから。


『なぁ、お前はそれでいいのか?このまま独りでいいのか?』


『当り前じゃ。仕方がないからの』


『仕方ないとか、そんな事聞いてねぇよ。お前はどうなんだって聞いてるんだ』


『……嫌じゃ。このままは嫌じゃ。独りは寂しい。寂しくてたまらんのじゃ」


 気付いたら本音を漏らしていた。自分でも気にしないように取り繕っていたのに、タクトに話してしまった。


『そっか。やっぱそうだよな』


 そこでタクトはクイナの頭を撫でると背を向けた。


『ど、どこに行くんじゃ?』


『なに、野暮用だよ。そこでちゃんと待ってろよ?俺が全部なんとかしてくるから、心配すんな』


 そう言ってタクトは歩き出した。その背中は見ているだけで安心できる、大きなものだった。


 そして今、リアムの背中にも同じものを感じる。タクトのあの背中と重なった。

 リアムの心は黒く濁っている。だが根本の部分はタクトと変わらない、優しさで溢れていた。


 クイナはリアムの背中を見ながら、静かに涙を流した。



 〜〜〜〜〜



 リアムはふと、魔界から帰る時の事を考えた。帰り方が分からない。


「なぁ、帰りってどうすりゃいいんだ?」


「魔界からなら門は簡単に開ける。頑張れ」


「適当だな!?」


「それより、行く前から帰る時の事考えてるなんて、随分余裕だな?」


「当り前だ。俺はあいつを殺す。それは決定事項だからな」


 リアムは明日、魔界へ行く。もちろん1人で。ミサキとルナは一緒に行きたがったが、ミサキはまだまだ力が足りないし、ルナに至っては瞬殺されてしまう。


「お兄さん、ほんとに行っちゃうの?」


 ルナが泣きそうな顔で聞く。だが、リアムはこれだけは譲れなかった。


「ああ、もちろんだ。そのために生きてきたんだ」


 復讐のために魔界へ行く。アモンがどこにいるかも分からないし、魔界の広さも分からない。そのためどれだけ時間が掛かるかも分からない。


 それでもリアムは行く。


「リアムさん、気をつけて下さいよ?」


「分かってるよ。てか、そういうのって明日言うもんじゃないのか?」


「何回でも言っておくんですよ」


 ルシフェルはリアムの気持ちを汲み取って素直に引いた。それに、ルシフェルは魔王に逆らえない。一緒に行ったところであまり役には立たないのだ。


「リアムさん。今日の夜、少しだけ時間を貰ってもいいですか?」


 ミサキが少し、緊張した面持ちでリアムに尋ねる。リアムはふたつ返事で了承した。



 〜〜〜〜〜〜



 その夜、リアムとミサキは家の庭に出ていた。縁側と言われる場所に腰掛けている。


「明日出発なのにすいません」


「いいよ、別に」


 夜空には輝く星と大きな月が浮かび上がっている。


「凄い星空ですね。私のいた世界じゃこんな星空は見れませんよ」


「そうか……。今日は月が綺麗だ」


「はい……っ!ええ!?い、今なんて言いました!?」


「ん?月が綺麗だなって」


「あ、あの……夏目漱石って知ってますか?」


「……?誰だそれ?」


「あ、いえ、なんでもないです……」


 ミサキが心なしかがっかりしたような表情をする。そこで少し沈黙が流れた。


「あ、あの、リアムさん」


「どうした?」


 ミサキは顔を真っ赤にしている。


「そのですね、リアムさんにはもう大切な人がいるのは知ってますけど、それでも言いたい事がありまして」


「………」


「私、その、リアムさんの事が」


「ミサキ、そこまでだ」


「えっ?」


 ミサキは顔を赤くしながらも何かを言おうとした。だが、リアムはそれを途中で止める。


「その先は、俺が帰ってきてから聞く。それは今聞いても多分答えられないと思う。だから、今は我慢してくれ」


「……はい、分かりました」


 ミサキは残念そうな、しかしどこか安心したような微妙な顔をしている。


 リアムもミサキが何を言おうとしているのか大体分かっていた。だが、今は答えを出せない。今は目前に迫った復讐の事しか考えられない。だから、全てが終わってからにしたかった。


「悪いな」


「いえ、気にしないで下さい。私もタイミングが悪いと思ってましたし。でも、その代わり絶対に帰ってきて下さいよ?」


「昼にも言っただろ?当り前だ。帰ってくるのは決定事項だからな」


 そう言って2人は家の中へと戻っていった。



 〜〜〜〜〜



 ルシフェルが宙に手を翳す。すると、そこに真っ黒な穴が出現した。


「ほれ、これが魔界の門だ」


「全然門じゃないな。向こう側も見えないし気味悪りぃ」


「ビビってんのか?」


「んな訳ないだろ」


 リアムはその門の前に立ち、後ろを振り返る。そこにはミサキやルナだけでなく、アマクサ村の住人は並んでいた。


 魔界へ行くリアムはいつも通りの格好をしている。全身黒尽くめにスイから貰った魔石、そして父の形見である携帯を下げているだけだ。


「じゃあ行ってくる」


 リアムは見送りに来てくれた人達に手を振る。皆、リアムが何をしに行くか知っているだけに心配そうだ。


「リアム殿。どうか無事に帰ってくるんじゃぞ?皆それを祈っておる」


 村長のアオが住人を代表してリアムに声を掛ける。リアムはアオと握手を交わした。


「ええ、待っていて下さい。必ず帰ってきますから」


 アオは満足そうに頷くと、後ろへ下がった。それと入れ替わりにルナがリアムに飛びつく。


「お兄さん!出来るだけ早く帰ってきてよ?」


「ああ、さっさと終わらせて帰ってくるさ」


 リアムはルナの頭を撫でると、後ろに控えていたミサキと目を合わせる。


「ミサキも、心配はいらないからな」


「はい。してませんよ。ルナちゃんの言う通り、早く帰ってきて下さいね?」


「ああ」


 そしてリアムは皆に背を向けた。


「リアム」


 門の横に立つルシフェルが真剣な表情でリアムに呼びかける。


「向こうに俺の友達ダチがいる。もし見つけたら力になってくれるはずだ」


「初耳だな」


「言ってなかったからな。ただ、最初に会った時は死にかけると思うから、会わない方がいいかもしれない」


「怖えよ!絶対会わねえから!」


「ま、その方がいいかもな。ちなみに名前はアロケルってんだ。もし会ったら俺の名前を出せばいい」


「アロケルね。名前を聞いたら絶対に逃げよ」


「……リアム。俺に出来なかった事を頼むのはかっこ悪いが、そんな事言ってらんねえ。必ず、タクトの仇を取ってくれ」


「はぁ、どいつもこいつも。分かってるよ。帰ってきたら俺を崇めろよ?」


「ああ任せろ」


 ルシフェルはそう言うとリアムの背中を叩く。


「行ってこい!」


 その言葉に続き、背後から複数の声が聞こえた。どれもリアムを送り出す声だ。リアムはそんな頼もしい声を聞きながら、門へと足を踏み入れた。



 そして門を潜り抜けて、リアムは自分の死を視た。





これで第3章は終わりです。

ありがとうございました。

あと2話ほど特別編的なのを投稿してから第4章に入ります。

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