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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第3章 別れから出会い
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第50話 準備

 

「ぬがぁぁぁぁ!!」


 リアムは荒地で魔剣の力を引き出すべく、奮闘していた。荒地と言っても2人の戦いで更地になっただけで、つい先程までは山が存在していた場所だ。


「できねぇ!」


 リアムは何度も挑戦しているのだが、空間操作が使えない。

 因子に呑まれた時は、何となく使い方が分かった。だが、体の支配権を奪い返し、力を自分のものにしたはずなのに魔剣だけは使いこなせない。


「お〜い、リアム〜。そろそろ帰ろうぜ〜」


 そんなリアムに遠くから声が掛かる。ルシフェルだ。彼はやる事がなく、暇を持て余していた。


「はぁはぁ。なぁルシフェル。アモンのことを教えてくれよ」


「ん?別にいいぞ。次期魔王候補だってのは言ったよな?」


「言ってたな」


「あとは、魔剣の能力は火炎系魔法の強化だ」


 ルシフェルが自分の話をしている時、自分とアモンは相性が悪いと言っていた。リアムはそれを思い出す。


 ちなみに、リアムが一番得意な魔法も火だ。その中でもトップクラスの火力を持つ魔法を凍らされて少し自信を無くしたが。


「リアムはあいつを見たんだよな?あの3つの顔からそれぞれ違った炎を吐く。身体能力は高いし、ごつい図体だがかなり速い」


「違った炎って、どんな感じなんだ?」


「右からは操れる青い炎。左からは破壊力のある赤い炎。真ん中は見たことない」


「あと一歩ってとこまで追い込んだんじゃないのか?」


「多分、あいつは本気じゃなかった。魔王が止めるのを分かってたんだろうな」


「そうか……。なぁ、ルシフェルは魔界の門を開けるんだよな。俺にも出来るのか?」


「出来ると思うぜ。習得まで時間は掛かるだろうけどな」


「あと俺が魔界に行っても、魔王の命令には逆らえないのか?」


「いや、それは多分大丈夫だと思う。まずお前は半魔だから効力は薄いはずだし、第一お前の中にあるのは魔王の悪魔因子だからな」


「それは関係あるのか?」


「ああ。魔界はな、生きてるんだ。魔界の中心部分には魔界の核がある。そこに自分の因子を融合させて支配するんだ」


「なら、誰でも魔王になれるって事か?」


「そこまで辿り着けたらな。まぁ今はそこはどうでもいい。とりあえず、現魔王ヤルダバオトの因子が魔界を支配してるから、同じ因子を持つお前なら自由に動けるって事だ」


「なるほどな……。じゃあ最後に、お前が開けた門から俺が魔界に行くのは可能か?」


「……お前、もう魔界に行くつもりか?」


 2人の雰囲気が少し変わった。ルシフェルは恐らく無謀だと思っているのだろう。


「行けるんだな?」


「……はぁ。お前はほんとにタクトにそっくりだな」


「褒め言葉として受け取っとくよ。それで?」


「ああ行けるよ。どんな手段であろうと、門さえ開けたら誰でも行ける」


「……なぁ」


「分かってるよ。俺は止めねぇ。好きにすりゃいい」


「ありがとな。って言っても今すぐではないけどな。出来るだけ無茶しないつもりだから」


「1人で行こうって時点で充分無茶だけどな」


「……なんで分かった?」


「分かりやすいんだよ。どうせ、復讐は1人で果たしたいんだろ?」


「お前、やっぱ天才だな」


「自覚してるよ」


 そしてまた2人は笑い合うと、その場をあとにしてアマクサ村へ飛んで帰った。



 〜〜〜〜〜



「うわぁ!お兄さんかっこいいね!」


 途中からまたルシフェルと競争し、悪魔の姿で帰ってきたリアムを見てルナが感嘆する。


「その角触ってもいい?」


「いいけど……怖くないのか?」


「うん!お兄さんなら怖くない!」


 ルナはそう言ってリアムの角を触る。何がいいのか分からないが、耳がパタパタし出した。可愛い。


「リ、リアムさん!私も触っていいですか?」


「ミサキも?別にいいけどご利益とか無いぞ?」


 ミサキもルナと並んで角を触り出す。角に感覚はない。


「なぁルシフェル。俺の角が一本なのって半魔だからか?」


「そうだろうな。それか、まだ完璧には力を使いこなせてないのか」


「やっぱそうだよな。普通角が一本なら真ん中に生えるもんだろ。なんで側頭部なんだよ。バランス悪すぎだろ」


 リアムは悪魔化しても見た目は半端だ。それでも一般的な悪魔より力を持っている。


 リアムは角を引っ込めた。そして2人の頭を撫でる。


「悪いな。ちょっと用事あるからまた出掛けてくるわ。ルシフェルもここにいてくれ」


 3人が頷くのを見て、リアムは北へ向かった。



 〜〜〜〜〜



「久しぶりじゃな」


「だな。また来てやったぞ」


 リアムは1人でクイナの元へ来ていた。


「随分顔つきが変わったの。ふむ……ルナか」


「ああ。8歳の子に色々と気付かされたよ」


 リアムは頰を掻く。流石に少し恥ずかしかったのだが、よく考えればクイナに隠し事は出来ない。


「ふっ、恥ずかしがることはない。きっかけが何であろうと、変わろうと思えるのは立派なことじゃ。人は皆、変化を恐れるからの。それにあの子は特別じゃ」


「特別?」


「妾は周りにいる人全ての心が読める。常にな。それに対して、ルナは1人ずつじゃが自在に心が読める。つまり心を読まずに生活も出来るのじゃ」


「お前より凄いのか?」


「心を読めるのはそれほど良いものではない。前も言ったが精神的に疲れるし、人の本音を聞くのも怖い。じゃからこそ妾はここに住んでおる。そんな妾からしたらルナは羨ましいもんじゃ」


「……大変なんだな」


「まあの。ルナと仲良くしてやってくれ」


「言われなくても分かってるよ」


 クイナは九つの尻尾をゴソゴソと動かしている。リアムは無性にモフモフしたくなった。


「ダメじゃぞ?」


「……ケチな奴め」


「それで、決意したのか?」


「ああ。復讐を果たしに行く。それでな、聖剣の使い方を教えてくれたらありがたいんだが」


 ルシフェルにも聞いてみたのだが、よく分からないらしい。そこでリアムは、聖剣を預かっていたクイナに聞いてみることにした。


「それは知らん。タクト曰く、聖剣を持っていれば使い方が分かるらしい。気にせんでも今のままでもアモンは殺せる。心配しなくていい」


「ならいいや」


「知らんと言った妾が言うのもなんじゃが、聖剣の力はいらんのか?」


「俺は勇者になるつもりはない。奴さえ殺せるなら、別にこのままでいい」


「………」


「どうした?」


 突然クイナが考え込むような顔をする。


「いや、ぬしのそれは危ういと思っての」


「それ?」


「復讐に対する感情じゃ。仕方ないと言えばそこまでじゃがの。ぬしにはもう大切なものがあるんじゃろう?それを忘れないことじゃな」


「……それも分かってるよ」


「ふむ、そうか。それならいい」


 クイナは満足そうに頷いた。そして急に悲しげな顔をして俯く。


「……妾もな、本当は一緒に行きたいんじゃ」


「俺とか?」


「そうじゃ。タクトは妾の恩人でな、妾も最初は村人達とは交流がなかった。ここに来たのは自分の意志じゃが、本当は怖かったんじゃよ。嫌われるのが」


「……確かに人に心を読まれるのは、余り良い気分ではないかもな」


 リアムにも拒絶される恐怖は痛いほど理解できた。


「妾もそう思った。皆優しく接してくれるがの、それでもどこか怖がってると思ってたんじゃよ。心を読めるくせに、妾はそんな勘違いをしていたんじゃ。妾は村人達に嫌われてると思い、村人達は妾が拒絶したと思い、お互いに接することが無くなった」


「お互いに勘違い、か」


「所詮、心を読めても全ては分からんということじゃ。人は難しい生き物じゃからの。それから妾はここで独りで生きてた。あれは寂しかったの。そんな時にタクトが来たんじゃ。そして颯爽と解決した。妾が何年も悩んでいた事を、ここに来て半日で解決じゃ」


「それから村人とも交流するようになったのか」


「そうじゃ。彼らは妾が拒絶したわけではないと知ってから、よくここに来るようになった。単純に嬉しかったの。それからはタクトともよく話した。奴の話は面白くて、いつも夢中になったもんじゃ」


 また、リアムは自分の知らない父の事を知った。知れば知るほど偉大な父だと感じる。その背中を大きく感じる。


「タクトは人と人を繋ぐのが得意な奴じゃった。それだけでなく皆奴に惹かれる。そんな魅力があった。妾も別に恋をしておったわけではない。じゃが、憧れのようなものはあった。あんな風になりたいとな」


 本当に自分の父か疑いたくなるほどの存在だ。だが、何故か自分の父だと確信できる。リアムはそんな不思議な感覚を抱いた。


「そんな妾の恩人であり憧れであったタクトを殺したんじゃ。妾も一緒に行ってそのアモンとやらを殺してやりたい。じゃが……妾にはそんな力はない」


 そこでクイナは顔を上げる。その目には涙が浮いていた。


「こんな事はぬしのような子供に言うことではない。でも頼む。どうか、必ずタクトの仇を討っとくれ」


 クイナはそう言って頭を下げた。




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