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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第3章 別れから出会い
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第49話 VS堕天使ルシフェル

 

 リアムが最初にとったのは回避行動だった。ルシフェルが魔剣を縦に振る。その直線上から逃げた。それだけだ。


 だがその斬撃はもはや衝撃波に等しく、躱したはずのリアムは吹き飛ばされる。すぐに姿勢を直して振り返ると、向かいの山が真っ二つに割れていた。


 リアムは寒気を感じる。と、すぐにルシフェルが肉薄し踵落としを放った。リアムはその場から大きく離れる。対象を失ったその足は地面を破壊し、小さなクレーターを作り出した。


 リアムが着地すると同時に氷の槍が飛んできた。リアムは指を鳴らして魔法に干渉し、それを消す。刹那、後ろに現れたルシフェルの回し蹴りを受けた。


「ぐ、うっ!」


 硬化した腕でなんとか受け止めるが、勢いは殺せずに吹き飛ばされた。そのまま地面を削って転がされる。


 リアムは転がりながらも、瞬時に20を超える炎弾を作り出して放つ。だがそれはすぐに切り払われた。


 ルシフェルが迫る。リアムはそこに蹴りを合わせた。ルシフェルはそれを掌で受け止めて、カウンターを放つ。


 リアムはそれをなんとか躱し、態勢を整えた。まだ数秒しか経っていないのに、息が荒い。


 気付けばルシフェルが目の前にいた。剣を振り上げている。リアムは両手の魔剣と聖剣でその一撃を受け止めた。


「ぐ、ああああ!!」


 その勢いにリアムの足が地に沈む。それでもなんとか受け切った。


 ルシフェルはすぐに膝蹴りを放つ。それを腹に受けたリアムは呻きながら両足を浮かした。そのリアムの頰に拳がめり込む。


「ごっ、あ!?」


 リアムはまたも地を転がった。地を削り、木を折って勢いを殺す。立ち上がったリアムは口から血を吐き出した。


雷轟トルトニス!!」


 リアムが叫ぶと空から幾つかの稲妻が落ちた。それは光の速度で寸分違わずルシフェルを狙う。着弾と同時に大きな土煙が立ち込めた。


 土煙が晴れると、そこには大きな氷が佇んでいた。それはすぐに溶けると、中から無傷のルシフェルが現れる。


 今度はリアムが仕掛ける。瞬時に眼前まで迫ると、その二振りの剣で数え切れないほどの、しかし正確な斬撃を放つ。

 だがルシフェルはそれを躱し、流し、受け止める。そしてそれらを捌ききるとリアムの腹部に脚をめり込ませ、そのまま振り切った。


「ぐっ!」


 リアムは蹴りの向きに合わせて飛び、何とか衝撃を流す。それでも全ては殺し切れず岩に叩きつけられた。


「かはっ!」


 肺から息が抜ける。だがリアムが息を吸う前にルシフェルは山をも割った斬撃を放つ。


 リアムは全力でそれを迎え撃った。魔剣にも聖剣にも出来る限りの魔力を流し、それらを一気に放出する。


 一つの斬撃と二つの斬撃が交わり、生じた光が辺りを支配し、一帯を揺るがすほどの大爆発が発生した。


 リアムはその爆風から逃れるために、空歩で宙へ飛び出す。そこには既にルシフェルがいた。


「やっぱやるなぁ。既にタクトより強えや」


「はぁはぁ。あんたに言われると嫌味にしか聞こえないな」


「いやいや、とっくに人間の限界を超えてるよ、お前は。俺も結構マジな攻撃してたんだぜ?」


「……まだ本気じゃないってことか」


「まぁな。ほら、見てみろよ」


 ルシフェルはそう言って下を指差す。リアムも下を見ると、さっきまで戦っていた山が消し飛ばされていた。


「こんな事しといて俺もお前も全力じゃないって、異常だと思わないか?」


「俺は全力だっての」


「嘘つけ」


「は?」


「因子を使いこなせたら、こんなもんじゃねえだろ」


「……まだ使えねぇよ」


「そのための手合わせだろ?」


「これほんとに意味あんのか?」


「もちろんだ。ギリギリまで追い込んでやるから、覚悟しとけよ」


「うへぇ」


 ルシフェルの魔力が高まり始めた。


 姿がブレた。瞬時にリアムの背後に現れるとその剣を横薙ぎに振る。リアムはそれに反応して受け止めた。


 そのまま体を回転させて剣を弾き、勢いのまま斬撃を放つ。だがそれは手を掴まれて防がれた。そして顎に一撃を受ける。


 ルシフェルは一瞬意識が飛びかけたリアムの足を掴み投げ落とす。体に力が入らないリアムはなすがままに地に叩きつけられた。


「がっ!」


 なんとか全身を硬化させたがそのダメージはでかい。それでもすぐに上を向いて、リアムは背筋が凍った。


「おいおい……まじかよ」


 上空にはルシフェルが浮いており、その背後には空を埋め尽くすほどの氷槍が並んでいた。そしてそれらが一斉にリアムに向かって落とされる。


大噴火デフェール!!」


 リアムが咄嗟に叫ぶと、周りの地面が割れマグマが噴き出した。それらが空中で氷槍とぶつかり次々と水蒸気爆発を起こす。


「くっ、はぁ、はぁ」


 リアムはその爆風に煽られながらも、すぐに距離を取った。だがその動きもすぐに止まる。


「なっ!」


 いつの間にか足が凍らされ、地に縛り付けられていたのだ。すぐに眼前にルシフェルが現れる。


 リアムは苦し紛れに剣を振るが当たらない。そして頰に拳を叩き込まれた。


「ぐっ、ぷっ!?」


 氷は割れ、リアムは地面と平行に飛ばされる。ルシフェルはそれに追いつくと、リアムに蹴りを打ち込んだ。


「がはっ!!」


 リアムを中心に大きなクレーターが出来る。そしてリアムはそのまま動かなくなった。



 〜〜〜〜〜



 ルシフェルが動かなくなったリアムから少し距離を取った時、急に大きな魔力を感じた。発生源は、クレーターの中だ。


 そしてリアムがクレーターから出てきた。片方だけ角を生やし、片目は赤く染め、牙が伸び耳も尖っている。


「お前は鬼型か」


 ルシフェルはそう呟くと構えをとる。リアムが走り出した。先程とは桁違いのスピードだ。


 剣を受け止める。だがその威力は殺せない。今度はルシフェルが飛ばされる。すぐに空へ逃げた。


 直後、ルシフェルがいた場所にリアムが蹴りを落とした。そこを中心に地割れが起こる。


「ひゃー、やっぱ魔王の因子は違うな」


 呑気な口調で言うが、その額には汗が流れている。リアムは予備動作も無く、いつの間にかルシフェルの足を掴んでいた。


「なっ、あっ!?」


 ルシフェルの認識を完全に掻い潜って。リアムはそのまま腕を振り、ルシフェルを凍りついた山へと投げつける。


「ぐぅぅぅ!」


 急な事態に驚きそして風圧によって身動きが出来ず、ルシフェルは岩山に頭から突っ込んだ。

 またもリアムは一瞬でルシフェルの元へ移動すると、その体に魔剣を突き刺した。


「がっ、ああああ!!」


 ルシフェルはその痛みに堪らず声を上げる。刹那、一帯を氷が支配した。リアムを除いて。


「な……にっ!?」


 ルシフェルは全てを凍らせるつもりだったのだが、何故かリアムは無事なままだ。


 リアムはその口に笑みを浮かべ、聖剣を掲げる。そして振り下ろそうとして、その動きを止めた。


「あ、ああああああああ!!!」


 リアムは頭を抱えて苦しみ出した。ルシフェルはそのうちに腹部から剣を抜き、距離を取って傷を癒す。


 リアムはまだ呻いている。ルシフェルはそれをただ見ていた。


 少しずつ、少しずつ呻き声が小さくなる。そして完全に呻き声が消え、リアムの動きが完全に止まると、辺りを静寂が支配した。


「……リアム?」


 ルシフェルは呼び掛ける。リアムは反応しない。


「……おい、リアム?」


 もしや失敗したのか。呑まれたのか。ルシフェルが本気でそう思っていると、


「ぶは〜〜!死ぬかと思った!!」


 突然リアムが顔を上げ、そう叫んだ。正気を取り戻したようだ。


「おまっ、お前生きてんのかよ!心配したじゃねえか!」


 リアムが無事だった事に安心したルシフェルは叫び返す。


「うるっせぇ!お前後半まじで殺すつもりだったろ!なんだよあの氷槍の数!馬鹿なの?お前馬鹿なの!?」


「あれはお前のためにやったんだろうが!つーか、どうなったんだ?制御出来たのか?」


「ああ」


 リアムは短くそう答えると、悪魔化したり、人間に戻ったりを繰り返す。亀が顔を出したり引っ込めたりするようにニョキニョキ角を動かす。


「この通りだ。しかも、人間の姿でもさっきまでより断然力が漲ってる感じがする」


「だろうな。半魔ってのは基本、常に人と悪魔の半々の存在だからな。姿が違えど、ある程度悪魔の力は行使できる。なぁ、それより悪魔化した時の事覚えてるか?」


「ああ、覚えてるぞ」


「じゃああの移動術はなんだ?転移とは違う気がしたんだが、ただ速いって訳でも無いみたいだし」


 ルシフェルは疑問を抱いていた。リアムの動きが明らかにおかしかったから。姿を見失うのではなく、それとは少し違った感覚がしたのだ。


「なんか魔剣の能力っぽいな。空間を操る能力。空間魔法では再現出来ない事も出来るんだ。超便利だ」


「はぁ?なんだその能力。俺の魔剣なんか氷雪系魔法の強化だぞ?」


「いや、それも充分強いだろ。炎を凍らしたり、一度に山を複数凍りつかせるとか聞いたことねぇよ」


「そうかもしんねえけど、お前の魔法ほどじゃねぇよ。それでどうやって使ったんだ?」


「移動したい場所までの空間を消した。それだけだ」


「……?どういう事だ?」


「俺もよく分からん。悪魔化した時は何となく使い方が分かったんだよ。それに今は使えない」


「なるほど……。でも、その能力を使いこなせたらアモンを倒すのも可能だろうな。」


 ルシフェルはそこで少し考え込む。そしてふと思い出したように顔を上げた。


「そういえばお前、最後のあの攻撃どうやって止めたんだ?完全に因子に呑まれてると思ったし、正直俺は死ぬ覚悟をしたんだが」


 リアムが聖剣を振り上げた時の話だ。あの時リアムは因子に支配されていた。それは確かだ。

 だが、リアムには理由が分かっていた。自分を取り戻せた理由が。


 リアムは握っている聖剣をチラリと見てから答えた。


「……父さんが俺を助けてくれた。って言ったら、お前は馬鹿にするか?」


「……ははっ!する訳ねぇだろ。タクトはそういう奴だったよ」


 ルシフェルは一瞬呆けたような顔をしてから笑った。リアムもつられて笑う。

 こうしてリアムは悪魔の力を制御し、復讐に大きく近づいたのだった。






この章はあと2話ぐらいで終わりです。


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