第48話 呪い
リアムがルナを助けて帰ると、リアムは村の英雄扱いをされた。これで完全にリアムと村人の垣根は取り払われたようだ。
「んふふ〜」
それから数日が経って騒ぎも収まってきたのだが、ルナは以前よりリアムにくっつくようになった。
「……ルナ。膝から降りてくれないか?」
「なんで?」
「見てみろ。ミサキのあの目は犯罪者を見る目だぞ」
今、リアム達はイガラシハウスにいる。リアムは居間のソファーに座り、ルナはそんなリアムの膝に座り、そしてそれをミサキがなんとも言えない表情で見ていた。
「リアムさん。一応、ルナちゃんは8歳ですよ?」
「いや、知ってるけど」
「お姉さんはね、ルナが羨ましいんだよ。ね?」
「なっ!ち、違いますよ!」
「ルナは心を読めるもん」
「うぅ〜〜」
ルナが心を読める事はリアムとミサキだけ知っている。村人には秘密にして欲しいらしい。
「アリサさんがいながら、そんな事を……」
「なんでそこでアリサさんが出てくんだよ」
「リアムさんってそういうの鈍感そうですもんね……」
ミサキは諦めたように息を吐く。
「ん?やっと帰ってきたか」
そこでリアムはルナは持ち上げ隣に座らせて立ち上がった。
「どうしたんです?」
「いや、ルシフェルが帰ってきたっぽい」
リアムはルシフェルの魔力を感知すると家を出る。するとちょうどルシフェルが地に降り立つところだった。
「よおリアム。元気にしてたか?」
「ああ、おかげ様でな。それより遅かったな」
「ちょっと色々あってな。もう片付いたけど」
「そうか。……ルシフェル、ちょっと頼みがある。とりあえず中に入ってくれ」
リアムはそう言うと家の中に入る。ルシフェルもついて来ようとして、
「うおっ!おいリアム!お前また結界を強化したのか?俺弾かれるんだけど」
「ん?ああ悪い。ほれ」
リアムは結界を一時的に緩める。
「なんで強化したんだ?」
「いや、暇だったから修行ついでに」
「お前ほんと修行大好きだな」
「うるせえ」
ちなみに今の結界は、リアムが認めた人以外は入れないようになっている。超高難易度だが、時間を掛けたら作れた。
「あ、ルシフェルさんお久しぶりです」
「ルシフェルさんこんにちは!」
「おう、久しぶりだな。ルナは元気か?攫われたらしいけど」
「うん!お兄さんに助けてもらったから」
「へえ、そいつは良かったな。それで、頼みってなんだ?」
ルシフェルはそこでリアムを見る。そのリアムは真剣な表情をしていた。
「……これはあんまり頼りたくなかったんだけどな、この際そんな事言ってられない。ルシフェル、俺に悪魔因子の制御の仕方を教えてくれ」
「……理由を聞いてもいいか?」
「俺は、お前より弱い。そしてアモンはお前と同レベル。なら今の俺では勝てない。そして俺が更に強くなる手段があるとすれば、それは悪魔の力しかない」
「なるほどな。確かに今のお前じゃ、あいつには勝てねぇ。でもいいのか?お前は誰よりも悪魔が嫌いなんだろ?」
「そうだけどな、でもどんなに嫌いでも俺は半魔だ。この力と生きていくしかないんだ。どのみち制御出来ないといつか完全な悪魔になってしまうしな」
「それもそうか………。分かった。いいぜ、教えてやる」
「ありがとう」
リアムは頭を下げた。
悪魔の力の制御は前から考えていた。使いこなせたら数段強くなれるのは分かっていたから。ただ頼りたくないというのと、方法が分からなくて手を出さなかった。
「リアムさん、大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だ。制御してみせる」
「お兄さん頑張って!」
「おう、ありがとうな」
リアムはルナの頭を撫でる。気持ちいいのか耳がパタパタし出した。可愛い。
「お前の中にあるのはアモンの因子か?」
「分からないけど、その可能性が高いと思う」
「まぁ当たり前か。一回呑まれた時はどんな感じだった?」
「そうだな……。意識はハッキリしてたけど、行動と見た目は悪魔だったな。あと、頭の中で声が聞こえた」
「……声?」
「ああ、声が語りかけてきた。幻聴とは思えなかったしな」
「……そうか。とりあえず場所を変えるぞ。ミサキ、ルナ。しばらくは帰らないかもしれないが、心配せずに待ってろ」
「分かりました」
「はーい」
「よし、リアムついて来い」
ルシフェルはそう言うと、また家を出て空に飛び上がった。リアムもそれに続く。
〜〜〜〜〜
しばらく飛んでいると、ルシフェルは山の上に降りた。周りも山で囲まれている。
「さて、リアム。重大発表があります」
「なんだ?畏まって」
「落ち着いて聞いて下さい。リアムの中にある因子はアモンのものじゃありません。魔王の因子です」
「……は?」
「魔王ヤルダバオトの悪魔因子です」
「はぁぁぁぁ!!?」
「落ち着けって!声が聞こえたんだろ?」
「あ、ああ」
「普通の悪魔因子ならそんな事は起きない。ただ本能に揺さぶりを掛けるだけだ」
「なっ、なんでアモンが魔王のを?」
「実はな、アモンは次期魔王候補なんだ。魔王候補は魔王からいくつか望む物をもらえる」
「………」
「魔王は悪魔の中でも特別な存在。そして奴の因子はもはや呪いの類だ」
「呪い……」
「その心の弱いとこを突いてくる。より強い力を望むようにな」
確かにリアムはあの時、復讐と言われれ呑まれかけた。そして仲間を殺そうとした。いや、元仲間を。
「ま、前向きに考えとけ。確かに厄介だが、それを使いこなせたら格段に強くなれる」
「……はぁ。まぁどうしようもないしな。それで、なんでこんなとこに?」
「戦うからだ」
「戦う?」
「ああ、覚えてるか?俺がどうやって悪魔因子を使いこなしたか」
「……魔界で暴れた?」
「そう。だからお前も限界まで戦えばいい。ここらは誰も住んでないから、思う存分暴れていいぞ」
そう言うとルシフェルは悪戯っぽく笑った。どこか楽しそうだ。
「俺が相手になってやる。本気でこい」
「本気でって、だいっ!?」
言い終わる前に、気付けばリアムの頰は軽く裂けていた。血が垂れる。全く反応出来なかった。
「なーに遠慮してんだ?自分で言ってたろ?俺はお前より強いんだ」
「くそっ!炎熱地獄!!」
ルシフェルの殺気を感じたリアムは咄嗟に唱えた。十八番であるその魔法を。
黒い炎がルシフェルに襲い掛かる。だがルシフェルは余裕そうな顔をしていた。
「へえ、やっぱやるなぁ。でも、まだまだだ」
そう言うと片手を前に出す。そこには尋常ではない魔力が込められていた。
「極寒地獄」
刹那、全てが凍りついた。リアムを除く全てが。
その場はもちろん、周りの山まで凍っている。そしてリアムの放った炎も。
「……は?」
「知らなかったのか?火は凍るんだぜ?」
「んな訳あるか!」
だが、実際に氷の中には黒い炎が閉じ込められている。
リアムはすぐに魔剣を顕現させ、聖剣を魔石から取り出す。本気でやらなきゃ死ぬ。それは分かった。
「おっ!クイナから聖剣を渡されてたのか。やっぱタクトを思い出すな」
呑気にそう言ってルシフェルも魔剣を出した。青い魔剣だ。
「いくぜ、リアム。自分の持ってるもん全部捻り出さなきゃ死ぬからな」
「分かってるよ!」
リアムは強化魔法を限界まで掛かる。その濃度に体が悲鳴を上げそうなぐらいに。だが、まだ足りない。
そして悪魔因子を制御するために命懸けの戦いが始まった。




