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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第3章 別れから出会い
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第47話 泣いている心

 

 リアムはルナを背負ってアマクサ村へ向かっていた。

 ルナは気を失っているが怪我はない。それなのにリアムの表情は暗かった。


「ん〜」


 リアムが森の中を歩いていると、ルナが目を覚ました。


「あれ?お兄さん?助けてくれたの?」


「……ああ」


 リアムは短くそう答えると、ルナを木陰に降ろす。


「大丈夫か?気分は悪くないか?」


「うん!大丈夫だよ。ありがとうお兄さん!」


 ルナは嬉しそうに礼を言う。だが、リアムはそれを聞いて少し顔をしかめた。

 そんなリアムを見て、ルナは訝しげな表情を浮かべる。そしてじっとリアムの顔を見つめると、悲しそうな顔をした。


「……お兄さん」


「どうした?」


「お兄さんは、悪くないよ?」


 その唐突な言葉にリアムは面食らう。何故、急にそんな事を言われたのか。


「お兄さんは悪い人じゃないよ。一番可哀想な人だと思う」


「なにを……」


「お兄さん、本当は辛いんでしょ?誰かを殺すのが」


「っ!」


 リアムは目を見開く。ルナの突然すぎるその言葉は、しかし的確にリアムを突いた。


「お兄さんはいつも誰かのために戦おうとしてる。そしていつも辛い思いをしてる。それは可哀想」


「ルナ?」


「お兄さんは、復讐を誓った自分が嫌いだから、いつも誰かのために戦ってるんでしょ?」


「……なんで、それを……」


 リアムは復讐のことをルナに話していない。なのにルナはそれを知っている。


「ルナね、実は人の心が読めるの」


「なっ!?」


「クイナ様みたいにたくさんの心は読めないけど、それでも1人ずつなら心が読めるの。だからお兄さんの心も分かる。お兄さんは自分の事を悪いって決めつけてるけど、本当は凄く良い人」


 ルナは悲しそうな、訴えかけるような顔をする。それは8歳の子が浮かべる表情ではない。


「ルナはね、色んな人の心を視てきたの。でも、お兄さんみたいに可哀想な人は初めて視た。悲しいぐらい優しいのに、痛いぐらい自分の事を嫌ってる人を」


 リアムは何も言えなかった。何か言わないといけないとは思うのだが、口に出来なかった。


「お兄さんの心はいつも傷ついてる。いつも自分と戦ってる。ルナ、そんな心は視たくない。そんなお兄さんは見たくない」


 ルナは今にも泣きそうだった。そこでリアムは気付く。


 以前、初めてルナと会った時は何も知らない子だと思った。だが違う。ルナは本当は誰よりも人の感情を知っている。


「お兄さんは、自分の大切な人のためなら痛いことを我慢出来ると思ってる。本当はしたくない、人殺しだって」


「……俺は、人殺しなんて何とも」


「嘘だよね?ルナは心が分かるもん。それに、今のお兄さん凄く辛そうな顔してるよ?」


 ルナは色んな人の、色んな感情を視てきた。だから何が本当に辛いかも知っている。何が本当に不幸かも知っている。


「お兄さんが初めて人を殺した時、泣いたんでしょ?」


 その通りだった。


 リアムが初めて人を殺したのは、スイに拾われて2年が経とうとする頃。

 その時はまだ、ブリル村の近くにあった村にリアムはお世話になっており、そこで修行をしていた。


 そこに山賊が現れた。リアムは村人への恩返しのために山賊を殺した。それだけだ。


 いや、それだけだと思い込もうとしていた。でも本当は違う。


 人を殺す。それは家族を殺した悪魔と何が違うのか。


 リアムはそれに気付き、その日は1人泣いていた。自分が恐ろしくて、でもそれ以外に何かを守る手段を持たない自分が情けなくて。


 だから心を捨てた。復讐に必要の無い感情は全て捨てる。リアムはそう決めた。


「でも、本当は捨て切れてない。それはお兄さんが優しいから。優しすぎるから。どんなに悪い人になろうとしてもなりきれないから」


 ルナは心を読める。それは事実だ。現にリアムが教えてない事を語っている。


 なら、今ルナが話しているのは何なのか。自分の本心なのか。そんなものがまだ残っているのか。リアムは混乱した。


「お兄さんも本当は気付いていたはずだよ。誰かを殺した時、お兄さんはいつも暗い気持ちになってたでしょ?」


「それ……は」


 ーーなら自分はどうしたらいいのか。何を選べばいいのか。


「今のお兄さんは、アリサっていう人とミサキお姉さんのおかげで何とか自分を保ってる。でも、自分では自分を本気で嫌ってる」


 ーーそれは当たり前だろう。最愛の家族が死ぬのを見ている事しか出来なかった自分を、嫌わないわけがない。


「そんなに優しいのに、なんで自分を認めてあげないの?」


 ーーそれは当たり前だろう。自分のためにしか生きてこれなかった自分を、認められるわけがない。


「そんなに苦しんでるのに、なんでそれでも自分を悪い人だと思ってるの?」


 ーーそれは当たり前だろう。守るために何かを奪い、殺す事しか出来ない自分が苦しむのは当然だ。


「じゃあなんでそんなに悲しそうな顔をしているの?」


 ーー……なんで?


「うるさい!!」


 リアムは気付いたら叫んでいた。


「お前に!お前に何が分かる!たった今!俺の心を視ただけのお前に!俺は今まで間違い続けてきた!これでも変わらなかった!俺は俺が嫌い!それでいいだろうが!それの何がダメなんだ!言ってみろよ!」


 リアムは無意識のうちに怒鳴っていた。自分でも意味が分からないことを、自分でも分からないことを、8歳の子供に怒鳴りつけていた。

 それは、自分の弱いとこを突かれた八つ当たりだろう。


 ルナは泣いていた。それでもリアムから目を逸らさず、怒鳴りかえした。


「間違ってるよ!だって!だって!お兄さんの心は泣いてるもん!本当は優しいのに!自分が悪いと思い込んで!そんなのやだよ!ルナはお兄さんが好きだもん!だからそんなお兄さんは見たくない!」


 それは理由になっていない。リアムはそう思った。なのに心に響いた。その目を見るのが辛くなった。


「だから!そんなに自分を嫌わないで!悪いと思わないで!お兄さんには2人の大切な人がいるんでしょ!?2人ともお兄さんを大切にしてくれてるんでしょ!?それはお兄さんが良い人だからだよ!」


 2人の大切な人。アリサとミサキだろうか。


 確かにルシフェルは言っていた。良い奴かどうかは隣にいる人を見ればいいと。

 確かにリアムは答えた。その考え方は嫌いじゃないと。


 ーー自分は今、何をしているのだろうか。隣にいる8歳の子を、それも自分を励まそうとした女の子を泣かせて、一体自分は何をしているのだろう。


 リアムは気付いたらルナを抱き締めていた。ルナは号泣している。


「それでも自分が嫌いなら、ルナも支えるから。だから少しだけでも認めてあげて。自分の事を信じてあげて」


 ルナは耳元で囁くように言う。それはリアムの心に染み渡った気がした。


「……ごめんな、ルナ。怒鳴ったりして。怖かったよな」


 リアムはルナを抱き締めながら頭を撫でる。


「なのに俺のために言ってくれてありがとう。……まだよく分からないけど、少しは自分を認める努力はするよ。だから、もう泣かないでくれ。これ以上泣かれたら、ルナを泣かせた自分を許せなさそうだ」


 リアムはそう言って力なく笑った。ルナはそんなリアムに抱きついて、涙を浮かべしゃくり上げならも笑い返した。


 ルナは強い。少なくとも自分よりは。リアムはそう確信した。



 〜〜〜〜〜



「もう大丈夫か?」


 しばらくしてリアムはルナを離した。ルナはまだ少し涙を浮かべているが頷く。


「大丈夫」


「そっか……帰るか。みんな心配してるしな」


「うん」


 そして2人は手を繋いで村に向かい歩き出した。


 リアムはまだ答えは出せない。自分に対して。

 それでも、ルナがリアムの本心を暴いてくれたおかげで何かが変わる。そんな気がした。


(まだ自分の半分しか生きていない子に変えられる。俺もまだまだ子供ってことか)


 リアムはそんな事を考えながらも、どこか晴れやかな表情になっていた。


 まだ時間はある。子供の自分が焦る必要はない。少しずつ考えていけばいい。自分の価値を。

 もしその時がきて、それでも自分を認められなくても、自分にはもう大切な人がいる。


 自分では認められなくても、自分を認めてくれる人はいる。


 それが正しい考え方かどうかは分からないが、正しさなんて今更どうでもいい。


 リアムがそう思いながら隣をみると、ルナがリアムに笑顔を向けた。リアムもまた、笑顔を返す。

 見上げた空は、いつもより青い気がした。





また報告しますが、そろそろ投稿ペースが落ちだします。


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