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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第3章 別れから出会い
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第45話 4人目

 

「渡したい物……?」


「そうじゃ。ちょっと待っておれ」


 クイナはそう言って立ち上がると、洞穴の奥にある細い道に姿を消した。


 リアムがふとミサキを見るとまだ顔を赤くしていた。リアムは少し呆れる。


「ミサキ。しっかりしろ」


「ふぇっ?なっ、なんですか!?」


「なに驚いてんだよ。ずっといただろ?」


「そ、そうですけど……あれ?クイナさんは?」


「お前ほんとしっかりしろよ」


 リアムが更にミサキに呆れていると、奥からクイナが戻って来た。その手には一本の白い剣が握られている。


「それか?」


「ああ、そうじゃ。これが何か分かるか?」


 クイナは問い掛けるがリアムは分からない。だが横でミサキが息を呑むのが分かった。


「ミサキ……?」


「あの、これって……」


「ふふ、ミサキには分かったようじゃの。言ってみよ」


「は、はい。これってもしかして聖剣ですか?」


「その通りじゃ。流石は勇者じゃの」


「……は?」


 聖剣。もしそれなら失われた3本目ということになる。そしてユウの話に照らし合わせると、


「これは聖剣じゃ。それも、タクトが使っておったものじゃ」


「父さんが……」


 父が使っていた聖剣。このタイミングで出てきたそれに、リアムはまた驚く。


「これをぬしに渡したいんじゃ。ユウと今代の2人の勇者、そのどれにも当て嵌まらない4人目の勇者である、リアムにの」


「……は?勇者?俺が?」


 リアムは唐突なその言葉を理由出来なかった。聞き間違いかと思った。だが、クイナは続ける。


「そうじゃ。ぬしは全くその可能性を考えてなかったようじゃがの。ぬしは勇者であるタクトの息子。ならばその力を持って生まれても不思議ではあるまい」


「そ、そんなに簡単なものなのか?」


「簡単ではあるまい。滅多に無いじゃろな。ぬしは極めて稀な存在じゃ。恐らくぬしの兄は勇者の力を継いでいなかったじゃろう」


「……なら俺は、その聖剣を使えるのか?」


「抜いてみたら分かる」


 そう言ってクイナは聖剣を手渡す。リアムはそれを受け取った。

 そして剣を抜いた。真っ白に輝く片手剣。抜いた瞬間に力が流れ込んでくるのが分かった。


「やはり、適応したようじゃの。それはタクトがこの地を去る時に妾に預けていったんじゃ。人間が持っていても碌な使われ方はしない、との」


 クイナが語っているが、リアムは聞いていなかった。


 ただ、心の中で歓喜していた。狂喜していた。


 ーーこれで、アモンを殺せる。


 リアムは笑みを浮かべた。


「そう考えるのは分かっておったがの。まぁ妾も仇は討って欲しいからなにも言わん」


 クイナはなんでもないように言う。


「とりあえず今のぬしは半魔であり勇者である、この世界で唯一の存在じゃ。普通ならあり得ん事じゃな」


「半魔で、勇者……」


 リアムは呆けた様子で呟く。だが、それについては何も考えていなかった。


 ただ、アモンを殺せることだけを考えていた。


「聖剣は使い手を選ぶ。ぬしがアマクサ村に来た時、その聖剣が反応しての。もしやと思ってぬしに託したが、その通りじゃったな」


 そこでクイナはゆっくりと煙を吐く。


「いいのか?これを貰っても」


「聖剣がぬしを選んだのじゃ。妾は何も言うまいよ」


「……ありがとうな」


「やっ、やめんか!ぬしに急に礼を言われると鳥肌が立つわ!」


 クイナはそう言うがどう見ても照れていた。そんな姿を見ていると嗜虐心がくすぐられる。


「へぇ……。もっかいお仕置きしとくか?」


「お、お仕置き……」


 ゴクリ、とクイナが息を呑む。嫌そうな顔はしない。つまり、


「やっぱりエロ狐か。このムッツリめ」


「その変な名前で呼ぶんじゃない!」


 クイナは抗議するが否定はしない。


「はぁ。でもこちらも礼を言うぞ。村の者らとも仲良くやってるようじゃしの」


「まぁ獣人は良い奴ばっかだからな。出来るもんならここで暮らしたいぐらいだ」


「ほぉ。それはいいの。そしたら妾ともっと話せる」


「許可をくれるかどうかは別だけどな」


「ふふ、くれるに決まっておろう。アオに言ってみればいいわ」


「そのうちな」


 そこでクイナはミサキを見る。


「ミサキよ。……ぬしの想いも、もう少しというところじゃぞ?」


「へ?」


「つまりじゃな、ぬしがリアムを」


「ま、待って下さい!分かりました!分かりましたから!」


 クイナが何か言おうとしたがミサキが全力で遮った。リアムは訳が分からず首を傾げる。


「リアムよ。またここに来てくれるか?」


「ああ。あんたにも父さんの話は聞きたいしな。弄りがいあるし」


「それはやめろと言っておろうが!」


 クイナはまた思い出したのか顔を赤くし出す。リアムは最後に笑うとその場をあとにした。



 〜〜〜〜〜



「リアムさんも勇者だったんですね」


 洞穴を出るとミサキが少し嬉しそうに言った。


「俺も知らなかったけどな。それに、今のところ世界を救うつもりなんて無いからどうでもいい」


「そうなんですか?」


「ああ。俺は俺の大切なもんだけ守れたらそれでいいからな。それになにより、これであいつを殺せる」


 リアムはアモンを殺せないと知った時から、せめて少しでも苦しめるために色々な魔法や技術を編み出してきた。だが、どれだけ強力な技を開発しても自分の手では殺せない。それには変わりなかった。

 しかし、たった今聖剣を手に入れた。これでリアムはアモンを殺すことが出来る。

 リアムにとって聖剣はそのための道具でしかない。少しは父の所有物を託された事に対する喜びもあるが。


 リアムはこの世界が嫌いだ。憎んですらいる。だから勇者になるつもりなど全くなかった。


 そこでリアムはふと思い出す。


「……あのエロ狐。わざと話題にしなかったな……」


 リアムが半魔であること。そしてそのせいで心に消えない傷を負ったこと。


 心を読めるクイナなら知っていたはずだ。興味がなかったのか、気を遣ったのかは分からないが、どちらにせよリアムにはありがたかった。


「結局、父さんも母さんも兄さんも、ずっと俺を守ってくれてるってことか」


 クレアやルシフェル、ユウにアマクサ村。それは確かに家族が残したものだ。そしてリアムはそれらに助けられてきた。

 クレアとはもう会うことはない。クレアに関しては自分から距離をとったが、それでいいと思ってる。しかしそれとは関係無く学園では支えられた。


 リアムは少し感じた寂しさをすぐに追い出す。


「なぁ、ミサキは今でもこの世界を救おうと思ってるのか?」


 以前は必要にされているのなら助けになりたいとは言っていた。しかしそれはこの世界に来てすぐのことだ。

 ミサキは今でもリアムと鍛錬を続けている。実力も着実につけているし、既に勇者として胸を張れる程だ。しかし強くなりたい目的がはっきりしていないと限界は超えられない。リアムはそう考えている。


 そして今のミサキには明確な目標がない。そう感じていた。


「……どうでしょう。確かに前はそう思ってましたけど、あれから色々なことを見て感じて、本当に世界を救いたいのか、周りに流されるだけでいいのか、って思うようにもなりました」


 やはりミサキも自分なりに迷っているようだ。だがこれに関しては自分で決めなければならない。


「そうか。まぁ自分の行く先は自分で決めるべきだ。そのうち魔天大戦が起こるかもしれない。それまでには答えを出した方がいいぞ」


「……はい」


 そこから少し無言が続く。2人ともそれぞれに考え事をしていた。


 ミサキは聖剣を握り、自分が選ぶべきこれからの道を。


 そしてリアムも聖剣を握り、見えてきた復讐のことを。




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