第44話 九尾
「あんのクソジジイ。もし俺が死んだら呪い殺してやる」
次の日、リアムとミサキは村から北にある洞穴に来ていた。そしてリアムは怒っていた。アオに。
リアムは妖怪や幽霊といった存在が嫌いだ。なんか攻撃が効かなさそうだから。
だからミサキから九尾とは妖怪の事だと聞いて怒っているのだ。同時に怯えてもいるが。
「あんまりそんな事を言ってはいけませんよ。それに、妖怪は実体があると思います」
「……え?そうなの?」
「まぁイメージですが」
「ふむ」
リアムは徐ろにファルシオンを引き抜く。
「よし!行くか!」
「ちょっと待って下さい!殺る気満々じゃないですか!」
「え?村長は妖怪退治を頼んだんだろ?」
「会って欲しいって言われたんでしょ!?」
「多分それは遠回しに討伐を依頼したんだよ」
「絶対違います!だからその剣をしまって下さい!」
ミサキが必死に騒ぐものだから、リアムは渋々ファルシオンを納めた。
「はぁ。じゃあ行くか」
そしてリアムは洞穴に入る。ミサキもそれに続いた。
洞穴の中は適度な気温だった。道も平らで歩きやすい。そして至る所に狐の絵が描いてある。
そして長い長い通路を抜けると、開けた場所にでた。
横にも縦にも広い空間。そこには畳(イガラシハウスにもあった)が敷き詰められている。奥には細い道が一本見えている。
その中央には肘掛けに肘を乗せ、煙管から紫煙を燻らす人影があった。
狐の耳を生やし、立派な金髪を伸ばし、そして九つの尻尾を持っている。
「よう来たの。タクトの息子よ」
そして偉そうにそう言った。
〜〜〜〜〜
「あんたがクイナか?」
「そうじゃ。ぬしはタクトの息子じゃろ?……リアムか。そっちはミサキか。どちらも良い名じゃな」
「なんで知ってんだ?」
「不思議がるな。今視ただけじゃ」
そしてなんでもないように煙を吹く。
「視た?」
「うむ。妾は生まれつき人の心を読めるんじゃ。獣人には時折そういった者が生まれる。考えてる事も、そして過去も分かる」
「……なるほど。じゃあ父さんを知ってるみたいだけど……」
「ああ。ぬしを視て何が起きたかは理解した。真に残念じゃ」
クイナは本当に悲しそうな顔をする。リアムはそれをじっと見ていた。
「それで、なんで俺を呼んだ?」
「なに、ちょっと話したいだけじゃ」
「ふーん。ちなみにその服ってなんだ?見た事ないけど」
「ミサキは知っておるぞ?」
クイナは煙管でミサキを指す。リアムもミサキを見た。
「は、はい。私の世界にあった着物って言う服です」
「へぇ〜。それも父さんが?」
「そうじゃよ。獣人ではそこまで珍しくもあるまい」
クイナは少し、その着物をはだけさせている。胸は大きく、今にもポロリしそうだ。よく見れば顔も整っており非常に艶めかしい。
「リアムよ。そんないやらしい目で見るでない」
「黙れ痴女」
「ちっ!?ごほん!ふむ。妾は痴女などではないぞ?これはあれじゃ。おしゃれじゃ」
クイナは少し慌てたように言い訳をする。だが、リアムはおしゃれでその格好をするのが痴女じゃないかと思った。
「だ、だから痴女じゃないと言っておろうに!」
そこでリアムは気付く。これ、喋らなくても会話できんじゃね?と。
「出来るけども喋らんか!なんか妾が1人で喋ってるみたいじゃろ!」
リアムは思った。実際喋ってるのはクイナ1人で間違ってないと。
「だから声を出せと言っておろう!頼むから!」
こいつ意外と面白いな。リアムはニヤける。
「く〜!こやつめ!タクトよりタチが悪いわ!」
(そう言えば九尾って名前つけたのも父さんか?)
「そうじゃ!良い名じゃろ!」
(そのまんまだけどな)
「その斬新さがいいんじゃよ。それよりも、そろそろ喋ってくれんかの?ミサキの視線が痛いんじゃが」
見ればミサキは凄く微妙な表情でクイナを見ていた。今のミサキからはクイナが1人で喋ってるようにしか見えない。
リアムはそれに気付くとまたもニヤリとする。そして妄想した。ピンクな事を。つまりエロい事を。
「なっ!な、な、何を考えておる!や、やめんか!あっ!ちょっ!ほんとやめい!何じゃこれは!」
リアムはその反応を見て確信した。この狐面白い!と。
「あっ、 そ、そんな事は……ああ!そんなとこにそんなものを……!あっそれはダメじゃ!ひゃあっ!あっ!すっ、凄いのじゃ!そんなところにまでぇっ!!」
クイナは真っ赤にした顔を尻尾で隠す。しかし顔を隠しても耳を塞いでも、心を読んでいるから意味はない。
「はっ、はっ、はっ。あん!もうダメじゃ!それ以上はっ!ああっ、ひうっ!んっ!んあっ!ふぅ、はんっ!もっ、もうやめれぇぇぇ!!」
リアムは何もしていない。断じて何もしていない。ただ妄想しただけだ。そしてそれを読んだクイナが1人で喘いでいるだけだ。
「リ、リアムさん……?一体何を……?」
そんな様子を見ていたミサキが顔を赤くしてリアムに尋ねる。確かに、艶めかしい美女が喘ぐ姿を見れば赤くなるだろう。
「ん?いや、何も?ちょっと色々考えてたら、あのエロ狐がそれを視て勝手に悶えてるだけだ」
「な、何を考えてるんですか?」
「……さぁ?」
リアムはそこで妄想を打ち止めにする。するとクイナが顔を赤くして少し涙目になりながらリアムを睨みつけた。
「こっ、この鬼畜め!」
〜〜〜〜〜
「さて、とりあえずクイナはエロ狐って分かったところで本題に入ろう」
「エロくないわい!このぉ!妾を愚弄しおってからに!」
「いやいや、落ち着けよ。別にエロいのは悪いことじゃないだろ?」
「そ、それはそうかもしれんが……」
「まぁほんとに嫌だったんなら俺の心を読まなかったら良かっただけだけどな」
「違うんじゃよ。妾は近くの者の心を勝手に読んでしまうんじゃ。だからここに住んでおる」
「……要するに厄介払いか?」
「いや、妾から決めたのじゃ。常に誰かの心の声が聞こえると疲れるからの」
「なるほどな。確かにそれは疲れそうだ」
「そうじゃ。獣人は誰かを除け者になどせん。現に毎日誰かが来て、必要な物を届けたり話し相手になってくれておる」
獣人は本当に同族を大切にするようだ。それを再確認して、リアムはなんだか嬉しくなった。
「で、本題だよ本題。本当は呼び出した理由があるんだろ?」
リアムは話を戻す。
「……なぜそう思うんじゃ?」
「心が読めるんだろ?」
「……勘、か」
「まぁな。あんたが用も無く呼び出すように見えないってことだ」
そこでクイナは少し黙り込んだ。リアムは自分の勘が正しかった事を確信する。
「実はな、リアムに渡したい物があるんじゃよ」
しばらくして、クイナはそう言った。




