第38話 戦い続けた者達
「世界を救ったのに、歴史に残らない……?」
「ああ。確かに世界を救ったら歴史に残りそうなもんだが、あの時は違った」
そう言うとユウは少し目を細めた。
「まぁ掻い摘んで話すよ。聞いてくれ、俺達の話を」
〜〜〜〜〜
俺がこの世界に召喚されたのは暑い日の事だった。
気が付いたらこの世界にいたんだ。そして急にあなたは勇者だと言われた。創作物によくある異世界召喚ってやつだと知った時はテンションが上がったね。
俺以外にも召喚された奴はいた。タクト・イガラシとソウマ・タニムラ。俺達はすぐに仲良くなった。同じ境遇だったから意気投合したんだ。
俺達は3人共勇者だと言われて聖剣も与えられた。それで悪魔から世界を守って欲しいと言われたんだ。僕とソウマはすぐに頷いた。ただ、タクトはどこか迷っているようだった。
しばらく俺達は修行をしていた。その内起こる戦争に備えて。
でも、しばらくしてからタクトが俺達に言ったんだ。「この国はどこかおかしい」って。
なんでも、俺達は勇者なのにこの国に縛り付けられている。本当に勇者ならそれぞれを派遣したりするんじゃないか。悪魔の出現報告も増えているのに俺達には何も言わない。って。
確かにそうだった。当時のフュラケー王国の王もパウルスだったんだけど、奴は世界を守って欲しいと言ったんだ。なのに、結局俺達が守っているのはこの国だけ。
タクトは俺達のリーダー格だった。頭が良く、何よりも仲間の事を考えていた。そしてそんな彼には恋人もいたんだ。それがアナさ。
俺達の会話が誰かに聞かれていたんだろうね。そのタクトが暗殺されかけたんだ。そこで俺達はこの国は危ないと思った。
パウルスが保身の事しか考えてないのならまだいい。でも勇者を手元に置いておく為に、他の勇者を殺そうとする。異常だ。
そこで俺達はこの国を出た。アナを含めた数人の協力者と一緒にね。それからはしばらく各地を旅したよ。力をつけながら。
当てもない旅だったけど、それなりに楽しかったよ。正体がバレないようにしないといけなかったけど、仲間がいたからね。
そして戦争が始まった。魔天大戦。
そんな時だ、ルシフェルと出会ったのは。本当にたまたまだったんだ。ルシフェルは俺達を見てすぐに勇者と見抜くと、こう言ったんだ。
「悪魔を倒すのに力を貸してくれ」
それを聞いたタクトはすぐに了承したよ。彼はアナや俺達のために戦争を終わらしたかったんだ。天使であるルシフェルと手を組めば可能性も上がる。そう思ったんだ。
まず、俺達はヴィリレタル大陸に向かった。これ以上グラム大陸にいるのはキツかったから。
獣人が人間嫌いなのは知ってたけど、何とか受け入れてもらえた。俺達が差別しなかった事と、タクトの人柄のおかげだろうね。
そこで戦争の準備を整えた。でも、俺達は勇者とは言っても争いを知らなかった。前の世界ではろくに喧嘩もしなかったしね。
だから正直怖かった。殺すことが。死ぬことが。
そんな時にもタクトが支えてくれたんだ。彼は守るもののためなら何でもするって言ってた。だからもし戦えないのなら俺がその分も戦うって。
俺達はタクトだけに負担を掛けたくない。そう思ってなんとか踏ん張った。もしかしたらそれがタクトの狙いだったかもしれないけど。
そこで情報が入ってきた。攻め込んできている悪魔を率いているのは魔王ではなく、アモンという最上級悪魔だって。
そこで俺達は倒すべき敵をアモンに定めた。頭を殺したらなんとかなると思ってね。
まずはグラム大陸に戻って悪魔共と戦った。酷い戦いだったよ。そこら中が死で満たされて、悪臭が立ちこめる戦場。この世界に来る前だったら想像も出来ない光景だった。
俺達も毎回大怪我をした。その度に魔法で治してもらってたんだけど、それが原因か少しずつ感覚が鈍ってきてね。殺すことに対抗が無くなってきた。悪魔だから良いかって。
そんな時、ヴィリレタル大陸にも悪魔が現れたと聞いて俺達はすぐに向かった。
正直、人間よりも獣人にお世話になったから、優先順位もあった。今考えるとそれも感覚が鈍っていたからかもしれない。
ヴィリレタル大陸に着いた俺達はまた戦った。ひたすら悪魔と戦い続けた。
悪魔と戦ってる内に少しずつ戦争について分かってきたんだけど、ろくな事じゃなかった。
まず、戦争の原因はアモンが地上界を征服しようとしていること。そしてそれは、ただ楽しそうだからってこと。つまり、あの魔天大戦はアモンの気まぐれで起きたんだ。
俺達は怒ったね。そんな理不尽なことがあるかって。
そしてあの戦争には違う最上級悪魔が参戦していた。アモンが造った悪魔、バアルだ。
アモンは戦争に関与はしているが参戦はしていない。戦いに介入したのはバアルだけだった。
凄まじい悪魔だった。最初に見たときは勝てないって思った。実際そうだったけどね。
初めて戦った時に、ソウマが殺された。ショックだったよ。ずっと一緒に旅をしてきた仲間が死んだんだ。それだけじゃない。生まれた世界とは別の世界で死んだんだ。
その時はルシフェルが駆けつけてくれたおかげで何とか撤退できた。しばらくはみんな元気が無かったけど、タクトがそれを取り戻そうとして頑張っていた。
彼は人一倍仲間を大切にしていた。だから多分、一番辛いはずなのに元気に振舞っていたんだ。そして俺達はそれが分かったからこそ、なんとか立ち直れた。
そして俺達は標的をアモンからバアルに変えた。アモンが本当に気まぐれで大戦を起こしたならいつか飽きるはずだ。だったら先に脅威であるバアルを倒せばいい。そう考えたんだ。
それからは何度もバアルと衝突した。本当はルシフェルもいて欲しかったんだけど、当時の彼は智天使として軍を率いらなければならなかったからそれは無理だった。それでもたまに助けにきてくれたけどね。
俺達はひたすら戦った。戦い続けた。大切なものを守るために。そしてある日、戦争は終わった。
バアルは強かった。単純な戦闘力が馬鹿みたいに高かった。でも、そんなバアルをタクトは倒した。しかも1人で。
聖剣っていうのは勇者に呼応する。あの時のタクトは凄かった。聖剣の力を全て引き出していたからね。
タクトは限界を超えた戦いを繰り広げたせいで勇者の力を全て失った。それでもタクトの勝利には変わらない。今でも戦いの跡がヴィリレタル大陸に残ってるはずだよ。
こうしてタクトは戦争を終わらした。世界を救ったんだ。獣人達も凄く感謝していた。自分達の大陸が悪魔に征服されそうだったんだ。当たり前かもしれない。
だが、そこで話は終わらない。グラム大陸には戦争が終わった経緯がまだ知らされていない。だから俺達の活躍も知らないパウルスは俺達を探していたんだ。
それも、殺すためにね。パウルスは自分の思い通りにならないとすぐに殺す。愚王そのものだった。
俺達も最初は事情を説明しようとした。でもそこでタクトが待ったを掛けたんだ。今の自分には勇者の力が無いから証明出来ないって。
俺達もすぐに反論したよ。そんなのは何とかなるって。あの戦争を止めたのは他でも無いタクトなんだからって。
でもタクトは「もし嘘だと思われたら、お前達は汚名が着せられた後、殺される」って言って聞く耳を持たなかった。「俺は栄誉なんてどうでもいい」って。
ならせめて俺達は何か出来ないか聞いた。少しでもタクトには報われて欲しかったんだ。
そしたらタクトは「平和な日常が欲しい」って言った。俺達はそれを聞いてヴィリレタル大陸に住ませてもらえばいいと言った。獣人も歓迎してたしね。
でも彼はそれを断った。実はその時には既にアナのお腹には赤ちゃんがいたんだ。リアム君のお兄さんだね。
タクトはアナの親と面識がある。旅の途中に寄ったアナの故郷、ブリル村で交流したんだ。その時には俺達の事情を全部説明してあった。
だから彼はブリル村に住みたいと言ったんだ。アナと一緒に。アナは両親を大切にしていたから側にいたいだろうと言ってね。
ブリル村はグラム大陸でも北端に位置する。だから目立つ事をしなかったらバレる事もない。
そしてタクトとアナはブリル村に住む事にしたんだ。2人の正体は秘密にしてね。
グラム大陸には、俺達は戦争の役に立たずに戦死したってルシフェルに報告してもらった。そうすればパウルスも諦めて探しはしないだろうと思ってね。実際、奴はそれをあっさりと信じた。
聖剣もルシフェルに返してもらった。俺達はもう、勇者として戦うつもりはなかったからね。タクトの聖剣だけは違うとこに預けたけど。
そこで俺達の旅は終わった。タクトとアナはブリル村に、仲間達も各地に散らばった。
そんな中、俺はここに戻ってきてこの国の動向を監視していた。もしなにかあればすぐに仲間達に知らせられるようにね。
そして数十年の月日が経った頃、"ブリルの惨劇"が起きた。それを知った時は絶望したよ。なんであの2人がそんな目に遭わなくちゃいけないのかって。
それから数年して、ルシフェルと再会した。その時はびっくりしたよ。なんせ堕天してたからね。まぁ何も変わってなかったけど。
そのルシフェルからブリル村で起きた事件がアモンの仕業だと聞いた。俺はそれを聞いた時には奴を殺してやろうと思った。でも、そんな力が俺にはない。
そうして失意の中で時間を過ごしていると、君がここにやってきたって訳だ。
タクトとアナが、アベルとクレアの婚約のために帝国行く時にリアムを預けていったのは、正体がバレた時のためです。幼いリアムを危険に晒したくないからみたいな感じで。アベルもクレアも2人の正体は知りません。
そのうち30年前の話もちゃんと書こうか考えてますが、今考えてるだけでもかなり長くなりそうなので不確定です。
もしかしたら今日中にあと1話投稿出来るかもしれません。




