第36話 『役立たずの勇者』
「父が……勇者?」
リアムは思わず聞き返す。
そんな事は初めて聞いた。確かに、ミサキとコウキのように変わった名前だとは思っていた。確かに、それなら携帯を持っていた事に説明がつく。
だがまさか自分の父が勇者だなんて信じられない。
「そうだ。このフュラケー王国で召喚した3人の勇者、その内の1人だ」
パウルスは肯定する。
「そうか、知らなかったのか。ところでタクト・イガラシは今は何をしている?」
「……"ブリルの惨劇"をご存知でしょうか?」
「ああ、知っているとも。悪魔に襲われた凄惨な事件だろう?」
「はい。私はその唯一の生き残りでございます。つまり……」
「そうか、タクト・イガラシはあの事件で死んだのか……」
そう言うとパウルスは少し俯いた。リアムの周りにいる手練れ達も同じようにしている。
リアムは父とどのような関係だったのかが気になった。だが、
「そうか、そうか。死んだのか、あいつは。クク、ククク、クハハハハハハハ!!」
「パウルス様?」
「いや、悪い悪い。少し可笑しくてな」
「可笑しい?」
「ああ。だってそうだろう。あの『役立たずの勇者』がひっそりと生きていて、そして死んだと言うのだからな!!」
そう言うとパウルスは笑い出す。気付けば周りの人間も笑っていた。
「役立たず……?」
「ああ、あの男は、いや、あの男達はろくに戦えない勇者だった。そして何の役に立たずに死んだと聞いていたが、生きていたのか!いや、この場合死んでいた、と言う方が正しいのか?」
リアムはやっと理解する。こいつらは父を馬鹿にしているのだと。
「……おい、お前ら。死にたくなければ今すぐに黙れ」
リアムは出来る限り怒りを抑えて静かに言った。だが、それを聞いて更に笑う。
「ハハハ、あの役立たずの息子がいきがるな!それより、あいつがどうやって死んだのか聞かせてくれ!どうせ最期まで腰を抜かしていたのっ」
そこでパウルスの声は途切れた。その事に気付いた男達がパウルスを見る。
「……とりあえず、皆殺しだ。悪いな、ミサキ。しばらくじっとしといてくれ」
だが、そこにいたのはファルシオンを握るリアムだった。その目の前をパウルスの首が飛んでいる。そして、それが地面についたのと同時に踏み潰した。
「さて、次は誰が死ぬ?」
刃に付いた血を払い、リアムは酷く冷たい声でそう言った。
〜〜〜〜〜
2分も待たずして、その場で生きているのはリアムとミサキだけになった。
リアムは屍の山を虚ろな目で見ている。ミサキはその光景を見て吐きそうになっていた。
「………」
後悔がないと言えば嘘になる。さすがにやりすぎたかもしれない。先程から何か不快なものが胸の中で渦巻いている。
一国の王を殺害し、国の実力者まで皆殺しにしてしまった。これでは完全にテロリストだ。だが、抑えられなかった。
リアムは許せなかった。父の事を役立たずだと言うだけならまだ我慢できた。勇者としての父を知らないリアムには何も言えないから。
だが、パウルス達は父の死を笑った。そしてリアムを庇って死んだ父の事を腰抜けと言った。それは許せなかった。
「……悪いな、ミサキ」
リアムはそう言うとミサキの背中をさすって王の間から出る。
「大丈夫か?」
「は、はい……。ごめんなさい」
「なんでミサキが謝るんだよ。それは俺のセリフだろ?」
「ううん。リアムさんのお父さんが馬鹿にされたのに、私は何も言えませんでした」
「ミサキは俺の父さんを知らないだろ?それはミサキの役目じゃない。だから謝るな」
「……じゃあ、リアムさんも謝らないでください。リアムさんは、悪くありませんから」
「……分かった」
お互いに、それ以上何も言わなかった。
廊下を歩いているとメイドが倒れていた。気絶しているだけのようだ。
「ミサキ、止まれ」
リアムが言うとミサキが止まる。そして、
「そこかっ!」
リアムは柱に向けてナイフを投げた。魔力を纏ったそれは柱を貫通する。だが、そこにいた者はナイフを避けて、リアム達の前に現れた。
不思議な男だった。男だとは分かる。だが、それ以外分からない。
「お前のそれは、認識阻害のローブか?」
「へぇ、やるな。これをすぐに見破るか」
男はヘラヘラとそんな事を言った。リアムがそれに対し何かを返す前に、
「父親の事が知りたかったら、俺について来い」
と言った。
「どういうことだ?」
「そのままの意味だよ。知りたいんだろ?」
男は飄々と答える。
「どうする?」
「……分かった。ついて行く。ミサキもいいか?」
「は、はい」
その瞬間、リアムとミサキと男の足元に大きな魔法陣が広がった。
「っ!これは転移魔法!?」
「ご明察。じゃ、レッツゴー」
男がそう言うと同時に、視界が真っ白になった。
〜〜〜〜〜
目を開けると、そこは家の中だった。少し埃っぽい。
そして目の前にはさっきとは別の男がいた。その男はこっちを見ると、驚いたような顔をする。
「ルシフェルのやつか?急だな……」
そう呟くと男はフードを脱いだ。そこにあったのは真っ黒な髪。
「お前は……誰だ?」
リアムが聞く。その目は髪を見ていた。もはや偶然とは思えない。
「やっぱりあいつは何の説明もせずに連れてきたのか。ほんっと変わらないな〜」
そして男は答えた。
「やあ、初めまして。俺の名前はユウ・カイバラ。30年前に召喚された勇者の1人だ」
「ゆ……勇者?」
「ああ、それでどっちが今代の勇者だい?2人とも?」
「おいっ!」
しかしリアムは答えずにユウに摑みかかる。
「お前30年前の勇者なのか!?なら、父さんを、タクト・イガラシを知ってるのか!?」
「なっ!……君は、タクトの息子なのか?」
「ああ、そうなんだよ!教えてくれ!父さんは本当に勇者だったのか!?本当に役立たずだったのか!?」
リアムは我を忘れて聞いた。聞かずにはいられなかった。
「もしかして、パウルスに言われたのかい?」
「ああ」
「そうか……。とりあえず、その質問に答えるよ。彼は、タクトは本当に勇者だった。そして役立たずなんかじゃない。彼は、この世界を救った英雄だ」
ぶっちゃけ話進めるの早すぎた感あります。




