閑話 信じる心
「ちょっとアリサ!落ち着いてって!」
「こんなの落ち着けるわけないでしょ!?そこをどいてマリー!」
帝国軍の寮は男女に建物自体が分かれており、それぞれがかなりの距離に位置する。
その女子寮の庭では叫び声が響いていた。
つい先程、リアムが悪魔化して逃走、そして指名手配されたという情報がアリサに伝えられた。
それを聞いたアリサが、すぐに探しに行こうとしたのを、同僚の友人が数人がかりで抑えている。女子とはいえ、数人がかりではアリサも動けない。
「なんでみんな分かってあげないの!?一番辛いのは、一番苦しんでるのはリアムなのに!なんで誰も分かってあげようとしないの!?」
アリサは必死にもがく。だが拘束は解けない。
「なんでリアムを悪者にしようとするの!?リアムが誰かを傷付けたの!?なんで誰も自分が悪いと思わないの!?なんでリアムに自分が悪いと思わせるの!?」
それでもアリサはもがき続ける。リアムの事を考えるとじっとしていられなかった。
「アリサ!落ち着きなさい!」
「うるさい!さっきからそればっかりじゃない!」
「分かってるから!あなたが彼を愛してるのは!でも!だったらあなたは彼を信じてあげなさいよ!」
「っ!?」
マリーのその言葉に、アリサはハッとする。
「お前達、何をしている?」
そこに寮監長が来た。彼女は女性にも関わらず軍の中で最も恐れられ、血の寮監長とまで呼ばれている豪傑だ。
「ひっ!りょ、寮監長……」
マリーは怯えたように声を出す。だが、アリサはその寮監長を真っ直ぐに見つめる。
「寮監長。私に外出の許可をください」
「外出?何故だ?」
「私の大切な人を助けるためです」
「………」
寮監長は少し黙り込む。
「……ダメだ」
「なんで!」
「いかなる理由があろうと、新兵に外出は認められない」
「なら、今ここであなたを倒して行きます」
「ほう?この私を?少し天才と言われているぐらいで図に乗るなよ?」
刹那、2人を中心に濃密な魔力が吹き荒れる。アリサはすぐに悟った。寮監長には勝てない、と。
でも、とアリサは思う。それでも、引く訳にはいかない。例え勝てなくても、ここで諦める訳にはいかない。リアムのためにも、自分のためにも。
そしてこの日、女子寮の庭は吹き飛び、アリサと寮監長は揃って怒られる事になった。
その後、アリサは頭が冷えるまでの自室謹慎を命じられた。
〜〜〜〜〜
「はぁ」
私は自室でため息を吐く。少し整理しなければならない。
与えられた情報によると、まず最初に悪魔が学園に出現した。上級悪魔も多く状況は絶望的だった。
だがそこにリアムが現れ、そして悪魔化した。悪魔の姿になったリアムは悪魔を全滅させる。
そのリアムを学園側は悪魔として攻撃した。それを剣神と勇者の1人が庇い、リアムは逃走。その際勇者も一緒に連れて行った。
「………」
私は学園に憎しみを感じたが、今は置いておく。
まず、リアムが悪魔化する前に何かがあったのだろう。恐らく、仲間がやられたりしたのだと思う。
そして悪魔化して敵の悪魔を倒した。味方は誰も傷付けずに。
結果を見たらリアムはほとんど英雄だ。学園の危機を救ったのだから。
それなのに学園はリアムを攻撃し、帝国は指名手配を出した。最低だ。いや、もうどちらもどうでもいい。
気になるのは、リアムが連れて行った勇者だ。少しだけ嫉妬が無いわけでもないが、それでもリアムの味方になってくれたのはありがたいし、もし会えたら礼を言おう。
リアムは恐らく復讐のために動き出すだろう。なら私に出来ることは何か。
マリーは言った。リアムを信じろ、と。
その通りだ。リアムは約束してくれたではないか。いつか迎えに来る、と。
なら私はそれを信じて待てばいい。それに、リアムも私を信じてくれているはずだ。
私は決意した。
この先何が起ころうとリアムを信じて待っていると。不安はある。心配もある。でも、リアムなら大丈夫だ。そう信じる。
私は一度そう決めると気持ちが軽くなった。
とりあえず、帝国が嫌いなのは変わらないし、しばらくは謹慎され続けよう。
せめてもの抵抗にそう考えて、私は眠りについた。




