第34話 逃げた先で
ここから第3章です。
「ここは……フュラケー王国の近く、か」
学園から逃げて数日が経った。リアムは既に落ち着き、今は森の中でキャンプをしている。もちろん、道具などはリアムの魔石から取り出してだ。
ちなみにリアムは人の姿に戻っている。気付けば戻っていた。
あの後、なにやら顔を赤くしたミサキがリアムを慰め、リアムも失ったものは戻らないと割り切った。いや、完全に割り切れてはいないのだが、ひとまずそう思い込むことにした。
落ち着いたリアムがとりあえず現在地を探ったところ、ここはフュラケー王国の近くである事が分かった。
「フュラケー王国ですか?」
「ああ、独裁国家で王様の言う事が全て。周りの重鎮もただのご機嫌取りだって聞いた事がある」
「独裁国家……」
「まぁ、王様の機嫌を損ないさえしなかったら別に大丈夫だ。それより……」
そこでリアムは一度言葉を切る。
「ミサキ。本当に良いのか?俺は恐らく帝国から指名手配が出されるし、それに半分とは言え悪魔なんだぞ?」
「はい、リアムさんなら大丈夫です」
ミサキは少し顔を赤くして答える。
「そうか……」
リアムはそれ以上何も言わなかった。この数日、ミサキがいてくれたおかげである程度立ち直れたのは事実だ。もし1人だったら完全に壊れていただろう。
「じゃあ行くか」
「はい!」
そしてリアム達は国へ向けて歩く。ひとまずリアムは指名手配されているか確認したかった。
〜〜〜〜〜
2人はリアムの魔石から出したローブを着てフードも深く被り顔を隠す。黒い髪は目立つからだ。
街の中は意外と賑わっていた。
「わ〜凄い人ですね〜」
「ああ、独裁国家だからと言って治安が悪い訳じゃない。ここは30年ほど前に勇者が召喚された場所で、それから国もあまり無茶しなくなったらしい」
「ここで勇者が……」
「その時は聖剣も3本あったんだけど、1人の勇者が死んだ時になくなったらしい」
「へぇ〜」
そして2人は服を買うために店に入る。
「ほら、好きな服選んでいいぞ?」
「え、でも悪いですし……」
「いいんだって。俺、お金使うことないから有り余ってんだよ」
そう言うと一応は納得してくれたのだが、そこからが長かった。
ミサキはまずその店であらゆる服を試着する。そして気に入ったものはマークして他の店に向かう。たまにリアムの意見も聞く。
その繰り返しを経て一番良かったものを選んだ。
「……疲れた」
「す、すいません!つい選ぶのに夢中になっちゃって」
「気にしなくていい。アリサさんの時もこんな感じだったから」
そう言ってリアムはアリサの事を思い出す。流れで逃げてきたが、彼女は帝国にいるままだ。もちろん復讐が終わったらどこにいようと迎えに行くが、問題はアリサの行動だ。
アリサがリアムの逃走を知ったら無茶な事をしそうな気がする。リアムはそう思った。なんとかして自分の無事を伝えたい。
だが同時に、彼女なら自分の事を信じてくれるとも思った。信じて待っていてくれると約束したから。ならば自分もその約束を守ればいい。
リアムはさっさと復讐を終わらせる事を決意した。
「リアムさん?」
「ん?あ〜ごめんごめん。それでいいのか?」
「はい。ちょっとセーラー服みたいですけど、意外と動きやすいですし」
と言ってミサキはその場でくるりと回る。スカートもシャツも黒色で、腰には二本のベルトが交差するように巻いている。
「どうですか?その……リアムさんとお揃いです」
「黒いからか?いいと思うぞ」
「ふふ、ありがとうございます」
ミサキは嬉しそうに笑った。リアムは頷いてからお金を払い、店を出た。
「とりあえず宿をとるか」
「私お金が……」
「だから気にしなくていいって。ミサキには助けられてるしな」
「そうですか?」
「ミサキがいなかったら俺はとっくに壊れてるよ。一緒にいてくれてるだけで心が軽くなってる。ありがとうな」
「……!は、はい!ありがとうございます!」
「なんでミサキが礼を言うんだ?」
「え、あ、な、なんででしょうね?」
「いや、知らんけど」
リアムが礼を言うとミサキは顔を真っ赤にして慌て出す。リアムは首を傾げると宿を探しに出た。
〜〜〜〜〜
「いらっしゃい」
宿に入るとダンディな男が声を掛ける。
「2名かい?」
「ああ、部屋は一つ。とりあえず二泊で頼む」
「えっ!?」
「ん?ミサキどうした?」
「え、いや、部屋は一つなんですか?」
「ああ。大丈夫だ。ちゃんと説明するから」
「は、はい……」
またも顔を赤くするミサキにリアムは答えると男の方を向く。
「それで、部屋はあるか?出来るだけ良い部屋で頼む。金の心配はしなくていい」
「ああ、今なら一番良い部屋が空いてるぜ」
「そうか。ならこれで頼む」
そう言うとリアムは男に金を握らせる。それは明らかに多すぎる額だった。
「多分何も無いと思うが、もしも俺達を探してる奴らが来ても黙っててくれ」
「ふっ、任せな。別にこんな金くれなくても客の安全は守るぜ」
「そうか、じゃあこれは俺からの気持ちって事で貰ってくれ」
「礼は言わねぇぜ?」
「いらないさ」
そこで会話を終わらすと、リアムはミサキを連れて部屋へ向かった。
〜〜〜〜〜
その部屋は広く、ベッドも2つあった。ミサキの顔はまだ赤い。
「そ、それでリアムさん……」
「ああ、実はな、俺寝なくても大丈夫なんだ」
「へ?」
「あの日悪魔化してから数日ぐらいなら寝なくても大丈夫になったんだよ。昔暴走した時はそんな事なかったけど、多分侵食が進んで来てるんだろうな」
「悪魔因子の、ですか?」
「ああ。予兆はあった。自分の感情が制御しきれなかったりな」
リアムは既にミサキに悪魔因子の説明はしている。ついて来るなら説明は必要だと思ったのだ。もちろん、自分の過去と目的もだ。
「まぁ寝たくてもあの時の事を思い出すと寝れないんだけどな。だから、俺はこれからしばらくは寝ない。見張りでもしとくから安心して休んでくれ」
「本当に大丈夫なんですか?」
「おう」
「……分かりました。ありがとうございます」
ミサキはおずおずと答えた。
〜〜〜〜〜
次の日、2人はまた街へ出て情報を探したが、とりあえずこの国まで指名手配されてる事はなかった。
「ひとまず安心ですね」
「そうだな。でもその内ここも出るぞ。特にミサキが勇者とバレたら厄介だからな」
「厄介?」
「ああ。ここの王は保身のためならなんでもするからな。勇者を手元に欲しいんだよ。だから出来るだけバレない方がいい」
「そ、そうですか。分かりました」
と、その時街が騒がしくなった。皆中心部に向けて走っている。
「おい!何があったんだ?」
リアムはとりあえず近くにいた男を捕まえて聞いた。すると男は怯えた顔で、
「街の近くに悪魔が出たんだ!あんたも早く逃げろ!」
と言って走っていってしまった。確かに少し探すと悪魔の気配を感じる。
「どうします?」
「そうだな……。この国はどうでもいいけど悪魔は殺したいし、ちょっと行ってくるわ」
「私も一緒に行きます!」
「……分かった。行くぞ」
リアムはそう言うとミサキを抱える。そして逃げ惑う民衆の頭の上を飛んで悪魔の気配を探して現場へ向かった。




