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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第1章 大切なもの
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第3話 別れ

正直、このタイトルをここで使ってしまっていいのかと迷いました。


 

「さて、まだ名乗ってなかったね。僕の名前はラルフ・アルマン。今日は君の入学手続きのために来てもらった。本来なら入学試験があるんだが、スイ様の弟子ならそれも必要ないだろう?」


 学園長ーーラルフは当たり前のようにそう言った。リアムはさっきからラルフにしてもヨハンにしても、スイに様をつけるのが気になって仕方がなかった。


「ねぇ、ここって11歳から入れるんでしょう?ならリアムは12歳だから2年生からでいいわ」


「いえいえ、ヨハンを圧倒できたリアム君は既に卒業生レベルでしょう。もっと高学年からでも問題無いと思うのですが」


「私が2年からでいいって言ってんだからそれでいいでしょう?」


「はい、そうですね。ではリアム君は2年生からと言うことで」


「寮の部屋は空いてる?」


「ええ。401号室を使って下さい。これが部屋の鍵と、あと学生証です」


「ありがと。これで終わり?」


「そうですね。明日から2年A組で授業を受けて下さい」


 だが、そんなリアムを置いて話は進んでいく。て言うか終わった。


「はい、リアム。これがあなたの部屋の鍵と学生証よ。寮に行って部屋でも見てきなさい」


「はぁ。ってえ?ほんとにもう終わり?」


「ええ」


「師匠は?」


「後から行くわ」


「……分かりました」


 リアムは少し呆けながら鍵と学生証を受け取り、


「それでは、失礼しました」


 そう言うと部屋をあとにした。



 〜〜〜〜〜



「……それでリアム君は何者なんです?」


 リアムがいなくなってからラルフはスイに尋ねた。


「何者って言うのは?」


「素性ですよ。あなたの弟子の時点で強いことは分かってましたが、そもそもあなたが弟子を取るとは思えない」


「そういうことね。……拾ったのよ、あの子は。7年前にね」


「孤児というですか?」


「一応そうなるかしら。ほんとにたまたまよ、あの子を見つけたのは。それから今まで育てつつ鍛えてきたわ」


「珍しい事もあるものですね」


「そうね、自分でも驚いてるわ。でもそれも今日でおしまい。これからはあの子は自分の足で、自分の道を歩く事になる」


「そうですか……」


 そこで部屋には沈黙が訪れた。しばらくするとラルフの隣に立っていたヨハンが口を開く。


「ところでスイ様。もしかしてリアム君に自分の正体を明かしてないのでは?」


「なんでそう思ったのかしら?」


「いえ、リアム君が我々のスイ様への態度に疑問を抱いているようでしたから」


「なるほどね。……その通りよ。明かしてないわ」


「理由を聞いても?」


「特に理由は無いわよ。明かした所で何かが変わる訳でもないしね。さて、そろそろ失礼するわ」


 そう言うとスイは部屋をあとにした。


 その後ろ姿にラルフとヨハンは深々と頭を下げていたのだった。



 〜〜〜〜〜



 校舎を出たリアムは迷っていた。学園の敷地は高い塀で囲まれているのだが、その範囲は広く、また多くの建物が並んでいる。寮の部屋を見ておけと言われたものの、どれが寮かが分からない。要するに道に迷ったのだ。


(どうしよう。迷子になった)


 とりあえずウロウロしているのだが、ただでさえ目立つ容姿をしているリアムは全身黒ずくめの為、さっきから生徒達の視線を集めまくっている。


 そんなリアムの肩を誰かが叩いた。


(お、もしかして困ってる俺を見て誰かが助けに来てくれたのか?」


 そう思いながらリアムが振り返ると、


「ちょっと君、こっちに来てくれるかな。さっき生徒から不審者がいると聞いてね」


 そこには筋骨隆々の男が立っていた。


(見知らぬ真っ黒な奴が敷地内をウロウロしてたらそりゃ捕まるか。)


 リアムは呑気にそう考えてから学生証を見せ、事情を説明した。




 リアムは寮に着くと401号室へ向かった。今はまだ昼だからなのか、寮の中には誰もいない。リアムは誰にも会わずに部屋まで辿り着いた。


 部屋の中は広かった。1人で使うには勿体無いほどのスペースがある。トイレと風呂に台所まであり、大きなベッドも置いてある。


「流石は最大規模の学校だな。これでタダとか入学者多いんじゃねーか?」


「入学者は多いけど、最初の数ヶ月で大半が退学させられるわ」


 リアムが呟くと後ろから声がした。振り返るとそこにはスイが立っている。


「師匠、気配消して近づくのやめてくれません?」


「あなたが未熟なだけでしょう。それにしても確かにこれは豪華ね。多分、1番良い部屋をくれたんでしょう」


「何故ですかね?」


「本当は気付いてるんでしょう?」


 リアムが聞くが、逆に聞き返された。


「師匠の弟子……だからでしょうか?」


「ま、そうでしょうね」


 スイは何でもないように答える。


「師匠。俺はこれまで聞かないようにしてましたがやっぱり聞かせて下さい。師匠は異常に強くて色んな事を知ってて、その上学園長のような人からも敬意を払われている。師匠は一体何者なんですか?」


 リアムは静かにそう聞いた。


「……次に会った時、私は私の事を教えるわ」


 スイも静かにそう答えた。


「次……ですか?」


「ええ。ここで私とあなたの道は別れる。でも一生交わらないとは限らない。だからもし、またいつか生きて会えたら、その時はその質問に答えるわ」


 スイは真っ直ぐにリアムを目を見てそう言った。


「分かりました。約束ですよ?」


「ええ、約束よ」


 そしてお互いに笑みを浮かべた。


「じゃ、最後に私のありがたいお言葉を聞きなさい」


「いや、結構でぶふっ!」


 リアムが言い切る前にスイの拳が腹にめり込む。


「じゃ、最後に私のありがたいお言葉を聞きなさい」


「はっ……はい、お願いします」


 リアムは崩れ落ちながら答えた。スイは満足そうに頷くと口を開いた。


「リアム。これから先、あなたにはきっと様々な苦難が待ち受けているわ。そして前も言った通り、例え復讐を果たしたとしても、このままじゃあなたはそこで終わりよ。だから、もっと強くなりなさい。心も体も。そして自分の大切なものを見つけなさい。そしたらきっとあなたは大丈夫。今は私が何を言っているのか分からないかもしれないけど、いつか分かる日がくると信じてるわ。なにせ、あなたはこの私の弟子なんだもの」


 本気でリアムの事を考えてくれている。それはスイの本心だった。リアムにはそれが分かった。


「それと、あなたは誰よりも知ってると思うけど、世の中には理不尽が溢れているわ。それにとても複雑よ。良い悪魔だっているし、悪い天使もいる。だから何を信じるかは自分の目で見て確かめなさい。先入観に囚われてはダメよ」


 スイはそう言うと、リアムの額に口づけをした。リアムが驚きながらスイを見ると、彼女は慈しむような目でリアムを見ていた。


「じゃあね。元気でやりなさいよ」


 そしてリアムに背を向けた。



 〜〜〜〜〜



 リアムはこれまでの事を思い出していた。あの日、自分の世界が壊れた日。あの時、自分は何も出来なかった。ただ泣く事しか出来なかった。そして泣いて泣いて泣き喚いて、気がついた時には目の前にスイがいた。


 何が起きたのかスイから聞いた時、初めは暴言を吐いた。何故自分を助けたのか、何故家族と同じ場所で死なせてくれなかったのか。幼いながらもリアムは本気でそう思った。そして暴れて叫んだ。


 だがそれでもスイはリアムを見捨てなかった。


 スイは暴れるリアムを連れてある場所へ連れて行った。それはリアムが兄とよく魔法の練習をしていた、あの草原に一本だけ生えている大樹の前だった。


 そこには一つの墓が立っていた。リアムの父と、母と、兄の墓が。気絶したリアムを拾った後、スイが作ってくれていたのだ。


 そこでもリアムはまた泣いた。墓にしがみ付き、涙と鼻水で顔を汚し、ただただ泣いた。泣き続けた。そしてそこで、リアムは復讐を誓った。スイにその事を告げた時、彼女が少しだけ悲しそうな顔をしていた事をまだ覚えている。


 だがそれでもスイはリアムを育ててくれた。強くなりたいと言えば鍛えてくれた。復讐の為の力は与えないと言いつつも、本気で、そして優しく鍛えてくれた。


 何度も死にかけた。何度も折れかけた。それでもリアムが諦めなかったのは、強い復讐心のおかげだけでは無かった事に自分で気付いていた。それでも彼女に対して素直になれなかったのは、恐らくちっぽけな意地があったからだろう。


 リアムがこうして今生きているのは、スイがいたからだ。5歳の時に拾われてから7年。既に家族よりも一緒にいる時間は長い。


 別れの時が来て、やっとリアムは気付いた。スイはもう1人の家族なんだと。自分にとって、掛け替えのない存在なんだと。



 〜〜〜〜〜



 リアムの視界が滲む。気付いた時にはスイの背中に向かって頭を下げていた。


「師匠!今まで、ありがとうございました!」


 何とか涙を流さずに言えたのは、やはりちっぽけな意地があったからなのだろうか。リアムには自分でも分からなかった。


 ただ、最後に振り返って笑いかけてくれスイが、少しだけ泣きそうな顔をしていたのはきっと気のせいでは無いと、そう思った。




多分、今日中にもう1話ぐらい投稿します。



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