第33話 決別と逃走
砂煙はリアムの目の前で起きた。攻撃は何かに遮られリアムまで届かなかったのだ。
その砂煙の中から2人の人影がリアムに背を向けて立っていた。"剣神"シャルロ・バラディールと"不殺の勇者"ミサキ・ハルノだ。
リアムは2人を呆然と見ていた。まだ何が起きたのか理解できていない。
「ミサキ!なんでそこにいるんだ!」
コウキが叫ぶ。リアムにはそれが意味する事も理解できない。してはいけないと思った。
「リアムさんは私達を守ってくれたんですよ!?なんで攻撃するんですか!」
それにミサキも叫び返す。リアムのクラスメイトは全員コウキ側だ。
「……シャルロ、お前は何をしているのか分かっているのか?」
「ええ、もちろんですよ学園長。私は私の好敵手を守っただけですが?」
「それが何か分かっているのか!悪魔を庇ったんだぞ!?」
「それでもリアム君ですよ。彼は私達に一度でも攻撃しましたか?」
「しようとしていた!」
「それはあなたが先に仕掛けようとしたからでしょう。それに彼はミサキさんの声を聞いて止まりました」
「お前、何を考えてる?」
「それは私のセリフですよ、学園長。彼はあの方が預けていった弟子でしょう?」
「今は関係ないだろ!それにあの方はもう終わりだ!この世界の掟を破った罪人!もはやただ壊れゆく人形にすぎない!そんな彼女になにが」
「だからこそ、でしょう?だからこそ今の彼女は何でもできる。それこそ、今この瞬間に私達を消し炭にすることだって」
「お前は……」
「それに、私が彼を庇うのは別の理由ですよ。彼が何者であろうと、剣を交えたからこそ分かる。彼はここで死ぬべきではない」
「………」
「それとも、今ここで私とやり合いますか?剣の最高峰と言われた私と、魔法の最高峰と言われたあなたで。まぁそんな私達でも彼1人には勝てませんが」
そう言ったシャルロは凄まじい剣気を放つ。
「私はあなたが嫌いだ。ラルフ・アルマン。その一つの角度からしか物事を見れないあなたが」
そこでシャルロはリアムに言った。
「リアム君、逃げるんだ」
〜〜〜〜〜
「リアム君、逃げるんだ」
シャルロ先生は俺にそう言った。
逃げる。何から?
「ここにいたら君は彼らに狙われる。君に何があって、何と戦ってるかは知らない。でも、ここにいたら何も成せないことは分かる」
「お……れ、は」
そこで辺りを見渡す。もう悪魔はいない。全て俺が殺したから。なのにみんなは怯えてる。俺が悪魔だから。
「本意ではないかもしれない!でもここにいたら殺されるか殺すしかない!だが君はそんな事は望まないはずだ!」
殺される。確かにさっきの攻撃は俺を殺すつもりだった。
殺す。確かに俺はさっき殺そうとした。
「だから逃げるんだ!君のために!」
逃げる。俺のために。
「リアムさん!私も連れて行って下さい!」
ミサキが言った。連れて行く?なんで?
「私はリアムさんのそばにいたいです!リアムさんに大切な人がいるのは知ってますけど、それでも少しでも助けになりたいんです!」
「……俺は、悪魔なのに、か?」
「違います。リアムさんはリアムさんです」
ミサキは迷いなくそう言った。
「ね……クレア、先生、は?」
「彼女はまだ生きている。僕が必ず助けてみせよう。約束だ」
シャルロ先生が答えた。ひとまず安心、でいいのだろうか。
俺はみんなの方を見る。今まで一緒に過ごしてきた仲間を。
だが、そこにあったのは俺への怯え、恐れ、そして拒絶だった。
視界が滲む。頰が濡れる。我慢出来なかった。守りたいと思っていた仲間の、その目が。
何がいけないのか。何が悪いのか。誰が悪いのか。何も分からない。
俺はみんなに背を向けた。そしてミサキを抱える。
「くそっ……くそっ!」
「さぁ!行きたまえ、リアム君!」
シャルロ先生がそう叫ぶのと同時に、俺は風を起こして飛んだ。
どこへ行けばいいのか分からない。それでも俺は全速力で飛んだ。逃げた。
後ろで爆発音が聞こえた。でも俺は振り返らない。
涙が止まらない。それでも俺は、ただただ逃げ続けた。
しばらくして俺は見知らぬ森に降りた。体が震えている。
「リ、リアムさん?」
ミサキはどこか慌てたように言う。俺は気付けばミサキに抱き着いていた。
「わ、悪い……。少しだけ、このままでいさせてくれ」
そう言うとミサキは何も言わなくなった。俺は人の温もりを感じていたかった。
怖かった。クレアを守れないと思った事が。また何かを失うかもしれないと思った事が。
怖かった。自分が。あの時、完全に自分を失っていた。いや、意識はあった。自分が何をしているかも分かっていた。その上であれだけ暴れたのだ。仲間さえも殺そうとした。
怖かった。仲間の目が。俺に拒絶の目を向ける仲間が。俺に殺意を向ける仲間だと思っていた者達が。
もうなんで泣いているのかも分からない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
俺はミサキにしがみつき、しばらくの間泣き続けていた。
〜〜〜〜〜
「これは本当に面白い!」
アモンはムシュルフに映像を見せられてそう叫んだ。
「正直、あの方の因子を与えたのは間違いだったかと思ったが、そんな事はなかったな」
「ええ、私も想像以上の強さでびっくりしました」
「あれが完全な悪魔になったらと考えるとゾクゾクする。我の事も超えるのではないか?」
「お戯れを」
「いや、あの方の因子にあれだけ適応したのだ。あながちあり得なくもない」
「その時はどうするので?」
「どうもしない。どんな結果になろうと、それが面白ければなんでもいいからな」
そう言うとアモンは嗤った。この先に起こり得る事を想像して。
これで第2章はおわりです。
ありがとうございました。
あと1つ番外編を挟んで第3章に入ります。




