第29話 蠢く影
リアムは部屋の外の会話を聞いて、すぐに窓から飛び出した。
窓から出るとすぐに気配を感じだ。悪魔の気配。リアムは因子を埋め込まれてからなんとなく悪魔の気配が分かるようになっていた。
気配のする方へ空を飛んでいく。辿り着くとそこは開けた場所だった。
リアムは一時期"死の森"に住んでいたが、こんな場所は知らない。だか、今はそれも気にならなかった。
大量の悪魔がいた。ミサキが前に立ち、倒れたクラスメイトを庇うように戦っている。だがリアムはすぐに限界が近い事を見抜いた。
相手は悪魔だ。遠慮なんかしない。皆殺しにしてやる。
リアムは口に笑みを浮かべると唱えた。
「炎熱地獄」
それは火の神級魔法。使用者が敵と定めた対象を焼き尽くすまで消えない黒い地獄の炎。
ちなみに魔法には下級、中級、上級、超級、神級があり、超級からはほとんどがオリジナル魔法になる。その魔法に込められた魔力や威力、規模などで決められるため、案外適当な感じだ。
リアムの場合は全てスイに判定してもらった。
炎は一帯に広がる。仲間の元にまで広がるが、リアムが敵と定めない限り焼かれることはない。
だが悪魔は違う。どれだけ逃げようとしても追い続け、確実に燃やし尽くす。その光景はまさしく地獄そのものだった。
「ハハッ。よく燃えるゴミだな」
悪魔達の断末魔の叫びを聞き、笑いながら地に降り立ったリアムにミサキが駆け寄る。
「リアムさん!」
「ミサキか。大丈夫か?」
「はい!それよりこれは……」
「ああ、気にしなくていい。触ってみ?仲間には影響を与えないから」
リアムがそう言うと、ミサキは恐る恐る手を火の中に突っ込んだ。
「本当だ。熱くない……」
「それより、何があったんだ?」
リアムが聞くとミサキが説明した。
影の中から悪魔が現れたと聞いたリアムは少し考え込んだが、コウキの行動を聞くとその思考を断ち切った。
リアムは指を鳴らす。途端、辺りの炎が掻き消えた。悪魔は跡形も無く消えていた。
「……コウキはどこにいる?」
「多分、あっちだと思います」
リアムがそちらに顔を向けると、コウキは呆然としていた。リアムは近づいていく。
リアムに気付いたルークが声を掛けようとしたが、その顔を見て息を止めた。
リアムはまだ座って呆然としているコウキの胸ぐらを掴み、起き上がらせる。
「おい」
「っ!?」
そこには確かな怒りがあった。
「俺は言ったよな?戦いを舐めるなって。勇者とか言われて何を勘違いしたのか知らんが、ただ与えられた力だけで何かを成せる訳がないだろ。ろくに強くなろうともせずに現状に満足して、挙げ句の果てに仲間を危険に晒した。戦いを、殺し合いを舐めた結果がこれだ。お前は勇者失格だ」
リアムはそう吐き捨てるとコウキを突き飛ばす。コウキはただ呆然としながら聞いていた。
コウキが自分で痛い目に合うのはよかった。それを教訓に考えを変えさせたら良いだけなのだから。
だが、仲間を死なせそうにした。それは許せない。もしもそのせいで誰かが死んでいたら、きっとリアムはコウキの事も消し炭にしていただろう。
「もうじき、ここに救援部隊が来るはずだ。それまでここで待っとけ」
コウキに背を向けみんなに対してそう言うと、リアムは飛んで帰った。少し、1人になりたかった。
〜〜〜〜〜
クレアが現場に着くと、そこには焼け尽くされた地と呆然とする生徒達がいた。
「ちょっと、どうしたの!?」
「あ、悪魔が……」
クレアは一番近くにいたフーゴに聞いたが、その内容に驚く。
「悪魔?悪魔が出たの?」
「は、はい。さっきリアム君が来て倒してくれましたけど……」
「そう、良かったわ。それでリアムは……リアム君はどこに?」
「先生達を待っておけって言って、どこかへ行ってしまいました」
「……分かったわ。とりあえず、救援は来たからもう大丈夫よ。よく頑張ったわね」
クレアがそう言うと、何人かの生徒が泣き出した。初めて自分の死を間近に感じたのだ。相当な恐怖だったのだろう。
部隊の教師が生徒を慰めて連れて行く。大規模な魔法の影響で近くに魔物はいなかった。
そして生徒が少しずつ生きている喜びを感じ始めた頃、クレアはリアムを心配していた。
〜〜〜〜〜
「影から出てきた……か」
リアムは寮に帰ると、ミサキから聞いた話を思い出していた。
家族が殺されたあの日、急に現れた悪魔達は影から出てきたように見えた。ならば、今回出てきた悪魔はあの時の悪魔なのだろうか。
ただ、リアムは魔法を唱える前に感知したところ、悪魔はほとんどが下級、そして少しの中級しかしなかった。幼いリアムが記憶したあの悪魔共の魔力はもっと強かったはずだ。
悪魔は階級差が激しい。中級や下級程度が誰にも感知されずに影となって移動出来るだろうか。
出来ないはずだ。リアムはそう考えた。ならば恐らく手引きしたのは他の上級悪魔だろう。そしてそいつはきっとアモンに繋がっている。
「はぁ」
リアムは疲れたようにため息を吐く。最近、自分の感情が動きやすいと自覚していた。
先程コウキに怒った時も、この襲撃がアモンに繋がっている可能性を考えていた事もあって感情が昂ぶっていた。しかも悪いほうに。
あのままだと自分が何をしていたか分からない。だから早く1人になりたかった。
原因は分かっている。自分の中に眠る忌々しい悪魔の存在を、制御しきれなくなってきているからだ。
ーーもし、完全に暴走したらどうなってしまうのか
そんな恐怖にリアムは少し、体を震わせた。
〜〜〜〜〜
「それで、どうだった?」
"それ"がそう言うと、目の前の影がせり上がり一つの形を作った。それは男の姿をしている。
「随分と面白いものが見れました」
そう言うと男は手をかざす。すると昼間の映像が映し出された。
「ほう。これは想定以上の強さではないか」
「ええ、私も驚きました。まさかあの時の子供が、あれほどの力を持っているとは」
「ククク、これだから面白い。それに、これを見るに……」
「はい。あの人間は少しずつ蝕まれているようです。そろそろ呑まれるでしょう」
「そうか。それは楽しみだな」
「私も楽しみです。ところで、アモン様は何故あの人間を?」
男がそう聞くと"それ"ーーアモンは愉快そうに嗤いながら、
「フフ、ただ面白そうだと思った。それだけだ」
と、当たり前のそう言った。




