第28話 遭遇
時は少し巻き戻る。
その頃、ミサキ達は"死の森"の中を歩いていた。虫が嫌いなミサキは先程からビクビクしている。
「なんかリアムがいないと寂しいな〜」
ルークがぼやいた。今回のチームは一応ルークがリーダーになっている。
ミサキは心の中で同意した。
ミサキが最初にリアムを見た時の感想は怖い、だった。
この世界に来て初めて見る同じ黒い髪には親近感を覚えたし、顔もかっこいいと思った。
ただ、彼が纏う雰囲気に少し恐怖を覚えた。自分が生きてきた世界には存在しないのでは無いか、というような鋭い雰囲気。
別に話せない訳ではない。優しいし来たばかりの私達にも気を遣ってくれていた。それでも少しだけ、近寄りがたい雰囲気があった。
だが、そんな感情もあの夜、リアムと少し話しただけで霧散してしまった。リアムに恋人がいると知った時は何故だか少し、胸が痛んだが。
それでも、今では自分のために協力してくれるリアムに感謝している。そして一緒にいるだけで安心できた。
「そうですね。リアム君がいないとからかう人がいなくて寂しいです」
「それ、リアム君からしたらいい迷惑だと思うけど。それに頭に胸を乗せたいだけでしょう?」
「もちろんです」
「なんで即答なのよ!少しは躊躇いなさい!」
セレスとミラがわーぎゃー騒ぎ出した。でも2人とも寂しいのだろう。
話し仲間がいないフーゴや、構ってくれる相手がいないティアも寂しそうだ。イヴだけは黙って歩いている。
「ま〜確かに、リアムっていつも面倒くさそうな雰囲気出しながらも楽しんでるもんな」
と、オルゲルトが言う。
ミサキは確かに、と思った。まだ付き合いは浅いが同じ事を思っていた。
「それに、ここに来たばかりの俺と普通に話してくれたからな」
と、コウキが続く。
ミサキはまた確かに、と思った。勇者という理由で対等に扱ってくれないと思っていたから嬉しかった。
"死の森"は物騒な名前通りの場所で、陽の光は木々に遮られて地形は荒く、魔物は他の場所に比べて手強い。
それでも訓練自体は順調に進んでいる。一人なら分からないが、これだけの仲間がいたら苦にならない。
こんな所に一人で入るなんて想像もできない。もし、そんな人がいたら馬鹿だな、とミサキは思った。
と、そんな事を考えていると開けた場所に出た。突然光が差し込み少し目を細める。
「あれ?この森にこんな場所ってあったっけ?」
「いや、無かったはずだよ」
オルゲルトにフーゴが答える。
「この森は一面木で覆われていて、例外は無いはずだよ」
「でも、それならここはなんだ?」
ミサキは地図を確認する。どうやらルートは間違ってないみたいだ。
「ルートはここで合ってるみたいですよ?」
「どうする?ルーク君?」
フーゴが尋ねる。リーダーがルークである以上、判断はルークに委ねられる。
「ん〜ちょっと変な感じもするけど、ルートが間違ってないならこれも訓練の一つかもしれないし、このまま進もうぜ」
ちょっと真面目になったルークがもっともな事を言って、進むことになった。
〜〜〜〜〜
それは一行が広場の真ん中辺りを歩いている時に起こった。
何も遮るものはないのに、突然、目の前に巨大な影が現れたのだ。穴が空いたかのような黒い影が。
明らかに異常事態だ。一同は身構える。
すると、その影が浮き上がり、形を持ち始める。それは異形の集団だった。
「悪魔だ!!」
フーゴが叫んだ。ミサキが悪魔を見るのは初めてだ。いや、この場にいる誰もが初めて悪魔を見た。
全員声を失っている。だが、悪魔が動き出す前にルークが叫んだ。
「逃げろ!あの数は無理だ!」
それは正しいだろう。本来、悪魔は一体を数人がかりで倒すものだ。それが数えきれないほどの悪魔が現れたのだ。勝てるはずもない。
しかし、そうは思わない者もいた。
「待て!俺は勇者だ!相手が誰であろうと勝てる!」
それは何の根拠にもならない。だが、急に悪魔が現れ混乱していた一行は、それを聞いて自信を持ってしまった。
「そ、そうだ!俺たちには勇者が2人もいるんだ!」
「私達も戦いましょう!」
平常な思考を奪われると言われた事を鵜呑みにしてしまう。それも勇者の言葉ともなれば効果は絶大だ。
それでも、冷静な思考を保ったままの者もいる。
「皆さん落ち着いて!この数は流石に無理です!早く逃げましょう!」
セレスは訴えかける。しかし誰も聞く耳を持たない。ミサキも混乱はしていなかったが、何をすればいいのか分からなくなってしまった。
そんな事している内に悪魔は迫ってくる。
「はぁっ!!」
コウキが聖剣を振り下ろした。途端、そこから光の斬撃が飛び出し悪魔を切り裂く。
「やれる!やれるぞ!!」
それを見てまた士気が上がる。
ミサキはまずい、と思った。これはリアムが危惧していた事態だ。
「ミサキさん!救援要請赤を!」
セレスはミサキにそう言うとみんなを止めにいった。ミサキは言われた通りに魔法を打ち上げる。
そして前を見ると事態は急変していた。戦おうとした者達は既に倒れ、コウキも聖剣を弾かれボロボロだ。
ほんの数十秒で壊滅した。その事実にミサキは驚愕した。
「っ!」
一体の悪魔がルークにとどめを刺そうとしていた。それを見たミサキはすぐに駆け出し、攻撃を防ぐ。
「ミサキさん!?」
「ここは私が引き受けます!皆さんは早く逃げて下さい!!」
何故だかそんな事を言ってしまった。本当は今すぐ逃げたかったのに。
悪魔が迫る。その攻撃をミサキはさばく。そして峰打ちで反撃する。
ミサキは自分が強くなってる事を実感した。リアムの言ってた通りだ。だが、それでも足りない。
ミサキに少しずつ傷が増える。後ろを振り返る余裕も無く、みんなが逃げたのかどうかも分からない。
戦いながら、ミサキは思い出していた。殺すなら殺される覚悟をしろ、というリアムの言葉を。
もう殺すしかない。殺したところで少し時間が稼げるだけだが、そうでもしないとやられる。死にたくない。
ミサキは覚悟を決めた。殺されないために、殺す覚悟を。
そして刀を構え直し、敵に斬りかかろうとしてーー
「炎熱地獄」
空から声が降り、目の前が炎に包まれた。
ひねりもなんもねえ!




