第2話 学園へ
学校へ行くことを決めたリアムだったが、そもそもどこの学校に行くのか分からない。
「師匠。学校ってどこの学校ですか?」
「ん?そーいや言ってなかったわね。マグナ魔法学園よ」
マグナ魔法学園。
マグナ帝国にある学園にして、グラム大陸で一番有名かつ人気の学園。8年制で11歳から入学する事が出来る。
強さが全てという徹底的な実力主義の帝国にあり、学園内においても身分では無く強い者が上だと扱われる。魔法学園という名だが剣士などの魔法職以外の教育も行われている。
教師陣も優れた者が多く、マグナ魔法学園に勤めるだけでも憧れの対象となっている。あらゆる施設も充実しており、スイが言った通り悪魔について学ぶのにも最適だろう。
そしてなにより、
「兄さんが通っていた学校……」
リアムが憧れ、そして目標にしていた兄が通っていた場所だ。もしかしたら兄を知る人がいるかもしれない。そしたら自分の知らない兄の話も聞けるかもしれない。リアムは少しやる気が出てきた。
既にかつての兄は超えているのだが、その尊敬の念には変わりがない。
「そういえば師匠。学校と学園の違いってなんですか?」
「……知らない」
とりあえずどうでもいい事を聞いて気持ちを落ち着けた。
〜〜〜〜〜
リアムとスイは拠点に戻るとさっそく準備を始めた。とは言ってもリアムにやることは無い。リアムが持っている物など数着の服とお金だけだからだ。
今までリアムは修行で倒した魔物の素材を町で売り、だが森の中で自給自足で生活してきたからお金を使うことは無く結構な金持ちだった。
「リアムこれあげるわ。私からの餞別よ」
そう言ってスイが渡したのは、いつも彼女が首に下げている青い八面体の魔石だった。
「え、これいいんですか?かなり希少なやつですよね?」
魔石とは文字通り魔力を持つ石の事で、使用方法もたくさんある。
この魔石は中に魔法陣を組み込んでいるタイプだ。これに必要な技術はかなり高く、そして魔石の純度も高くないと作れない。しかもスイが持つこの魔石には超高難易度の収納魔法が付与されている。その価値は凄まじく、そこらの貴族でも到底手に入る物では無い。
これまでテントやその他拠点にある物は、全てこれで持ち運びしていた。
「いいわよ別に。この程度なら軽く作れるし」
師匠ほんとに何者なんですか?とは聞かない。リアムは凄く聞きたいが我慢した。どうせ答えないだろうし。それより、
「嬉しいんですけど、本当にいいんですか?俺この後なんか要求されたりしません?」
「あなた私をなんだと思ってるのよ」
「……悪魔?」
「それはあんたでしょ」
結構真剣に聞いたのだが、お決まりの流れになってしまった。
「中身も全部あげるわ」
「お前もしかして偽物か!?師匠をどこにやった!!師匠に化けやがって、ぶっ飛ばしてやぶべらっ!?」
「あんたそろそろ殺すわよ?」
「すっ……すびばせん」
顔面に拳を食らったリアムは鼻血を垂らしながら謝った。そして魔石を首にかける。
「じゃあ頂きますね。ありがとうございます」
スイはそれで良いとばかりに頷き、改めてリアムの格好を見る。
「それにしても、あんたほんとに黒が好きねぇ」
スイの言う通り、リアムは全身黒ずくめだった。黒いシャツに黒いズボンと靴、そして黒いコートを着ている。
腰のベルトからは、唯一手元に残った父の形見である銀色の箱のような物がぶら下がっており、首にはスイから貰った魔石が垂れ下がっていた。
「いや〜なんか黒が落ち着くんですよ」
「でもあんた、傍から見れば完全に不審者よ。前も町に出た時に補導されかけてたし」
「確かにあれは恥ずかしかったですけど、それでも俺は自分を曲げません!」
「まぁマグナ魔法学園は制服なんだけどね」
「へぇ。そーいえば、在学中俺はどこで寝泊まりしたらいいんですか?やっぱり森?」
「学園に寮があるからそこでいいでしょ」
リアムはスイに拾われてから常識を学ぶ為に町に出ることはあっても、寝泊まりはずっと森の中だった。安全が保障されていない場所で寝る。それも修行の一つだったからだ。
「へぇ〜、建物の中で生活するのは初めてですね。ちょっと楽しみです」
「それは良かったわね。それじゃあ早速行くわよ」
そう言うとスイは町へ向かって歩き出した。
〜〜〜〜〜
リアムとスイが拠点を構えていた森はマグナ帝国に隣接している場所にあった。そこは帝国の隣にありながらも凶悪な魔物が跋扈している事から"死の森"と恐れらているのだが、リアムはその事を知らない。と言うよりスイが黙ってた。
マグナ帝国はグラム大陸のちょうど真ん中辺りにあり、あらゆる物が揃っている。
実力主義の国であり、皇帝には強ければ誰でもなれるこの国は、しかし治安は悪くなく、他国との関係も良好と言える。これは政治の実権を握っているのが賢人会と呼ばれる組織である事が大きい。
リアムとスイはそんな国の大通りを歩いていた。町は活気に溢れ、色々な物が売られている。
「師匠。マグナ魔法学園に入るのに入学金とか学費とかいらないんですか?」
「あそこのそういったお金は全部国が負担してるのよ。その代わり優秀な卒業生は全員帝国に従軍させられるけどね。だから貴方も目を付けられないように気をつけなさい」
「うわ、面倒くさそうですね」
「そう、面倒くさいわよ」
そんな会話をしていると、スイは大きな門の前で立ち止まった。そして門番がいるにも関わらず、勝手に門を開けて中に入る。
「って師匠!勝手に入っていいんですか?」
流石のリアムも焦りながら聞く。
「大丈夫よ」
だがスイは気にした様子も無く歩いて行く。門番も何も言わなかったので、リアムもそれ以上何も言わずついて行った。
〜〜〜〜〜
門からは広い道が伸びており、その先には大きな建物が建っていた。
その建物の前まで行くと、またスイは勝手に中に入って行く。今度はリアムも何も言わずについて行った。
校舎の中は休み時間中なのか、大勢の生徒が歩いていた。その生徒達が揃ってリアムとスイを見る。女はリアムに目を惹かれ、男はスイに目を惹かれる。リアムは居心地の悪さを感じた。
スイは迷う事なく歩いて行くと一つの部屋の前で立ち止まり、そしてノックをした。しばらく待っていると中から扉が開かれた。
「お待ちしておりました、スイ様。どうぞお入り下さい」
出てきたのは初老の男だった。スイはその言葉に頷き、中に入って行く。
(様!?様って何!?師匠ほんと何者なの!?)
リアムが心の中でそう叫んでいると、
「君がリアム君だね?私はここの副学園長をやっているヨハン・ホーバッツだ。よろしく」
男がそう言い、手を差し出した。
「初めまして。既にご存知のようですが私はリアムと申します。よろしくお願いします」
リアムも丁寧にそう言い握手を交わそうとしたが、そこでヨハンの殺気に気付いた。
「っ!?」
リアムは咄嗟に首を逸らすと、少し遅れてそこをナイフが通った。すぐにヨハンは差し出した手と逆に持ったナイフをリアムに投げつけると、袖から別のナイフを出してリアムに襲いかかる。
が、リアムは飛んでくるナイフを人差し指と中指で受け止めると瞬時にヨハンの背後に回り込み、そのまま組み伏せた。
「なんのつもりですか?」
「いやはや、君速いな。動きが見えなかったよ。それに初撃は不意を突いたと思ったのに避けられたし。私の完敗だ」
リアムは凄んで聞いたのだが、ヨハンは飄々と答える。リアムは少しイラつき殺気を放ち始めるが、
「落ち着きなさい、リアム」
スイがリアムの頭に手刀を落とす。リアムは頭を抱えて呻く。
「これは行事みたいなものよ」
「行事?」
「言ったでしょう?ここは実力主義だって。ここに入る子達は皆仕掛けられてるわよ」
「死人とか出ないんですか?」
「大丈夫よ。そうならないよう加減されてるから。あなたの場合は私がヨハンに全力でやるように言ったから死ぬ可能性はあったけど」
「ほんと無茶苦茶だな!」
スイの容赦の無さにリアムは突っ込む。
「そういうことです、リアム君。驚かせてすまなかったね。とは言え、こう見えても暗殺術には自信があったのだが……流石はスイ様の弟子だ」
ヨハンはそう言うと、今度こそリアムと握手を交わした。そしてヨハンは、
「さぁ、リアム君。君も中に入りたまえ。学園長がお待ちだよ」
それだけ言うと部屋へ入って行ってしまった。リアムも黙って中へ入った。
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「ようこそ、我がマグナ魔法学園へ。歓迎するよ、リアム君」
部屋は広く、正面には大きな机と椅子が置いてある。その机の前に立つ男がリアムにそう言った。
「初めまして。あなたがここの学園長でしょうか?」
「ああ、そうだよ」
「こう言ってはなんですが、随分とお若いですね」
リアムの言う通り、男はまだ20代前半ほどで、学園長と言うには少し若すぎるような気がした。
リアムの言葉を聞いた男は少し怪しげに笑みを浮かべ、
「リアム君。ここは実力主義の学校だよ?」
と言った。それを聞いたリアムは
(なるほど、学園長も強ければなれるって事か。本当に強さが全てなんだな……。これは楽しくなりそうだ)
そう思い、この先の事を考えて胸を踊らせるのだった。
第1章は学園編って感じはしないかもです。