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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第2章 蝕む闇
28/111

第25話 『不殺の勇者』

短めです。多分。




 

 結局、黄金のカブトムシとやらは見つからないまま、その日は帰ることになった。


 ガルムと遭遇した後は、道中でオルゲルトがルークにおぶってもらったり、ルークが虫に刺されて死ぬと叫びながら助けを求めたり、ティアがリアムの頭をぺちぺちしたりしたが、特に問題はなかった。


 そしてその日の晩、リアムが夕食を済ませた後、少し釣りをしようと思い1人で橋へ行くと、そこにはミサキが座っていた。



 〜〜〜〜〜



「ミサキ?どうしたんだ?」


「いえ、ちょっと外の空気を吸いに……。リアムさんは?


「俺はちょっと釣りをしにな。夜の釣りも良さそうだし」


「あはは、本当に気に入ったんですね。あ、私邪魔ですか?」


「いや、大丈夫だよ」


 リアムはそう言うとミサキの隣に座った。そして釣り糸を水面に垂らす。


 チラリとミサキの方を見ると、彼女は落ち込んでいるようだった。


「……今日のことか?」


「……はい。いえ、正確に言うと少し違いますが」


 そう言うとミサキは湖を見つめる。


「私がこの世界に来た時、帝国の人達に言われて少し戦った事があるんですよ。勇者の力を見せて欲しい、とか言って」


「まぁ、帝国の脳筋共が言いそうな事だな」


「そんなんですか?それで、今日みたいな魔物と戦ったんですが、コウキ君は少し戸惑いながらも殺してたんですが、私はその時も殺せなかったんです」


 リアムはとりあえず黙って聞くことにした。


「何回か戦わさせられたんですけど全部ダメでして、いつの間にか私は『不殺の勇者』なんて呼ばれてました」


「不殺の勇者……」


「私がいた世界は、この世界と比べて平和でした。魔物もいないし、たまに殺人事件とかはあったりするんですけど、比較的平和な世界でした」


 ミサキは少し懐かしそうな顔をした。故郷の事を思い出しているのだろう。


「だから、この世界に来た時はびっくりしました。勇者として召喚されて、殺傷を強要されて。なんでこんな事をしなくちゃいけないんだって」


「………」


「でも、それを言う人達の表情も目も真剣なものでした。本当に助けて欲しい事は分かりました。だから、つい勇者としての役割を引き受けてしまったんです。それなのに私は未だに変われず……」


「……平和な世界、か」


 リアムは思った。それはなんて素晴らしい世界なんだろうと。


 もし、そんなものがあるのならそこは楽園だ。


 もし、そこから来たのなら、この世界はそれこそ地獄だろう。


「じゃあ、今日俺がガルムを殺したのも軽蔑とかしたのか?」


「そんな事はありません!」


 リアムがそう言うとミサキは少し過剰に反応した。


「あ、すいません……。でも、本当にそんな事はありません。私を助けてくれたんですから」


「そうか……。じゃあ、俺がある男を殺すために生きてるって言ったら?」


「え……?」


 リアムは気になってしまった。そんな楽園の住人は今の自分をどう思うのか。


「男って言っても悪魔だけどな。昔色々あって、家族を全員目の前で殺されたんだ。それから俺は奴を殺すためだけに生きてきた。まぁ最近は違う目的も出来たけどな」


「………」


 ミサキは黙っていた。リアムには何を考えているのか分からなかった。


「私の世界では、仇討ちは禁止されています。例え親を殺した相手を殺し返しても、それは罪になってしまう。それだけでなく、法律であらゆる事が禁じられています。それこそ、刀を持つだけで罪です」


「それは……随分と窮屈な世界だな」


 この世界にも法律はある。だが、本当に極端な事にしか適用されない。


「そうですね。平和の対価みたいなものです。それも、いつ崩れるか分からないような平和の」


 どうやらミサキの世界も楽園ではないみたいだ。


「そんな世界で、些細な事で笑ったり怒ったりしてた私には難しい事は分かりませんが……もし私の家族が、って考えると、気持ちは分かります。だから軽蔑なんかしません」


「……ありがとう」


「え?」


「いや、何でもない」


 やはり、否定されないだけでも気持ちは軽くなるものだ。慰めるつもりが慰められてしまった、とリアムは苦笑する。


「なぁ、ミサキは難しく考えすぎなんじゃないか?別に殺したくなかったら殺さなかったらいいじゃないか。俺は『殺生の勇者』より『不殺の勇者』の方が勇者っぽいと思うぞ?」


「ふふ、そうですか?……でも敵を倒さないと、勇者としての役割が……」


「そこだよ。俺は殺すのと倒すのは別だと思う」


「別?」


「ああ。倒すだけでいいなら無力化したらいい。降伏させたらいい。違うか?」


「確かに……そうですけど」


「まぁ殺すよりも倒す事の方が難しいけどな。でも丁度ミサキの聖剣は峰打ちが出来るんだし、鍛えたら殺さなくても済むんじゃないか?」


「でも、私に出来るでしょうか?」


「何もやる前から諦めたら、何一つ成せない。俺も手伝ってやるから、ちょっと頑張ってみろよ」


「え、でも……」


「いいよ、それぐらい。俺ももっと強くなりたいしな」


「それは……復讐のため、ですか?」


「ああ。……あとは、守るため、だな」


 リアムは少し、照れ臭そうに言う。


 ミサキはそんなリアムを見て何かを察した。そして、少し胸が痛んだ気がした。


「……そうですか。では、お願いします」


「おう。お互い頑張ろう」


 そう言って2人は笑い合ったのだった。



 〜〜〜〜〜



 "それ"の前に、1人の男が立っていた。


「それで、首尾の方はどうだ?」


「ええ、もう少し時間は掛かりますが、準備は円滑に進んでいます」


「そうか……ククク、楽しみだな。なにせ、あの男の忘れ形見だ。存分にかわいがってやるさ」


 そう言うと"それ"は甲高い声で嗤った。それを聞いている男も嗤うと、影に溶けていった。




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