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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第2章 蝕む闇
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第24話 釣り

 

「リアム、釣りしようぜ」


 リアムがセレスの家に荷物を置くと、ルークが言った。さっきまで泳いでいたルークはびしょ濡れだ。


「……釣り?なんだそれ」


 リアムが答えた途端、場の時間が止まった。


「おい、リアム。お前それ本気で言ってんのか?」


「ああ。釣りってなんだ?」


「竿から糸を垂らして魚を釣り上げるんだよ。した事ないのか?」


「無いな。そもそも、なんでそんな面倒くさい事をするんだ?魚を食べたいならもっと効率的な獲り方があるだろ?」


「なんだよそれは。見せてみろよ」


 と言うわけで、一行は湖まで来ていた。


「リアム君本当に知らないんですか?」


「なんで疑ってんだよ。ミサキの世界にも釣りはあるのか?」


「普通にありますよ?あまりした事はありませんが」


「俺は結構してたぞ。釣りは好きだったからな」


 コウキは釣りが好きらしい。


「じゃあリアムの方法で魚を獲って見せろよ」


「なんでお前は偉そうなんだよ……」


 リアムはそう呟くと水面に手をかざす。そして魔力を注ぎ込んだ。


 そしてリアムが手を上げると、その動きに合わせて浮き上がった。湖の水全体が。


 浮き上がる水の中には魚も閉じ込められている。


「ほら、これなら獲り放題だぞ?」


 リアムがそう言いながら魚だけを陸に落とす。その光景に全員が絶句していた。


「おっ、お前やり過ぎだろ!化け物か!なんだよこれ!天変地異か!?」


 ルークはいち早く硬直から抜け出して叫ぶ。


「いや、俺が魚食べたい時はいつもこの方法だったけど」


「わーい!魚食べ放題!」


 ティアが涎を垂らしながら喜ぶ。だが、意外な事にコウキが止めた。


「待て。よく聞けリアム。いいか?魚ってのは自分で釣って食べるのがいいんだ。もどかしさを乗り越えた先に本当の美味しさがある」


「いや、獲り方で味は変わらんだろ」


「違う!これは精神論だ!とりあえず騙されたと思って釣りをしてみろ。もちろん、その水と魚は元に戻してだぞ?」


 コウキは釣りが趣味だからか熱弁した。リアムは理解出来なかったが、ひとまず元に戻す。それを見て全員ホッとしたような表情をした。


 リアムの魔力は元から多い上に、悪魔因子によって更に増えている。そのせいか、今までに魔力切れを起こした事がなかった。


 湖には浮き橋のようなものがあり、そこに並んで座る。


「こっからどーするんだ?」


「ほらこの虫を釣り針に刺してだな……」


 コウキが丁寧に教える。釣りをすると決まってからずっと嬉しそうだ。


「で、この釣り糸を水に垂らして魚が食い付くのを待つ」


「それだけ?」


「ああ。たまに糸を動かして本物の虫のように見せかけたりもするんだが、リアムは出来なさそうだしな」


「なんで決めつけてんだよ。しないけど」


 リアムは言われた通りに糸を垂らしてボーっとしていた。そして気付く。


「釣り、良いな!」


「まだ何も釣れてないのに!?」


 リアムが急に叫ぶと、オルゲルトが叫び返した。


「いや、こののんびりする感じが凄く良い。これは最高だ」


 リアムはすぐに釣りが好きになった。まだ何も釣っていないが、のどかな雰囲気は気に入ったのだ。


 それからも全く釣れず、みんなが引き上げてもリアムとコウキとイヴは仲良く並んで釣り糸を垂らしていた。静かな空気がイヴも気に入ったらしい。


 そして、そのまま日が沈むまでそこで過ごした。



 〜〜〜〜〜



「今日は山に行こうぜ!」


 次の日、またルークが言い出した。ちなみにリアムの剣はもう少し時間が掛かる。


「俺は釣りがしたい」


「どれだけ気に入ったんだよ!釣れなかったんだよな?」


「釣れなくてものんびりするのが楽しい」


「ダメだ。山に行くぞ」


 結局、リアムは何故かルークに拒否されて山に行く事になった。


 森に行く組と山に行く組に分かれた。リアム、ルーク、オルゲルト、ティア、ミサキが山に行く組だ。


「あ〜釣りしたかったな〜」


 リアムは山を登り始めてすぐにぼやく。ここにいると何故かのんびりしたくなる。


「リアムさんそんなに気に入ったんですか?」


「ああ。ミサキはそうでもないのか?」


「私は虫が苦手なんで……」


「あ〜それなら仕方ないか」


 森に行かなかったのもそのせいらしい。リアムは山にも虫はいると思ったのだが言わないでおいた。


「はぁはぁ。俺、もうしんどいんだけど」


「オルゲルトみっともない!」


「ティアちゃんも歩いてないじゃん」


 疲れたオルゲルトを馬鹿にするティアはリアムに肩車されている。いや、させている。


「高い景色が見たいもん!」


「いや、あんまり変わらないと思うけど」


「おいルーク。お前なんか静かじゃないか?」


 先程から山に行きたいと言っていたルークが喋らない。見れば何かを探しているようだった。


「実はな、ここの山には黄金のカブトムシがいるらしいんだ」


「黄金のカブトムシ?森じゃなくて山に?」


「ああ。俺も最初はそう思ったんだけどな、どうやらこの山らしい」


「……ちなみにソースは?」


「工房の前に並んでたおっさん」


「お前それ絶対騙されてるぞ」


「そんなの分かんないだろ!売ったら凄いらしいぞ!」


「ますますあや……ん?」


 そこでリアムは近付いてくる気配に気付く。


「おい、魔物が近付いて来るぞ」


 リアムが警告してすぐに、それは現れた。犬型の魔物ガルムだ。少し素早いが大した強さではない。


「うわっ!いきなりだな!ミサキさんやっちゃってください!」


 疲労しているオルゲルトは勇者であるミサキに頼む。それを受けてミサキも聖剣を構えた。


 突っ込んできたガルムを刀でいなす。中々良い動きだ。だが、先程からミサキは回避しかしていない。


「ミサキ?攻撃しないのか?」


 リアムは戦闘中のミサキに聞いた。自分で戦ってもいいのだが、勇者の強さが気になったのだ。


「私、その……生き物を殺した事がなくて」


 そこでリアムは納得した。以前、戦いの話をした時に何故ミサキは不安そうにしていたのか。それは生物を殺すのが怖かったからだろう。


「そうか。なら俺がやるよ」


 そう言うとリアムは一本の指をクイ、と上に向ける。その動きに合わせた土が槍となり、ガルムを下から突き刺した。


「大丈夫か?」


 リアムは片手どころか指一本でガルムをあしらうとミサキに近付いた。ミサキは血を噴き出すガルムを見て顔を青くしている。


「は……はい。助けてくれてありがとうございます」


 ミサキの体は少し震えていた。





釣り大好きです。



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