第23話 大自然
夏休み、16歳になったリアムはセレスの実家に来ていた。
そこは大自然の中にあり、リアムも森を抜けるまでは工房があるとは思えなかった。
しかし、大きな湖の側には確かに工房があり、その前にはたくさんの馬車が止まっている。
「ここが私の実家です。皆さんはうちの部屋に泊まって下さい」
「これは……凄いな」
リアムはその程度の事しか言えなかった。
湖の水は澄みきっており、周りは森に囲まれている。そして少し目線を上げるとすぐそこに山がそびえ立っていた。
みんなも感動している。中でも、コウキとミサキの世界にはあまり自然が無いらしく、絶句していた。
「リアム君どうですか?気に入って貰えました?」
「ああ、ここは良い場所だな。心が落ち着くよ」
「セレス本当にありがと!」
ミラもはしゃぎながら言う。ティアとルークに至ってはもう湖へ突撃していた。
「私も行こっかな。みんなも行こうよ」
「行く行く!」
「僕も行こうかな」
ミラにオルゲルトとフーゴが賛同する。
「リアム君達は?」
「俺はもう少ししたら行くよ」
「……私も」
「私は両親に話をつけてきます」
セレスはそう言うと家に向かっていった。
セレスの実家は工房から少し離れた場所に建っている。大きな家だ。
ミラ達も湖へ向かう。コウキとミサキも付いて行った。ティアとルークは既に泳いでいる。
リアムは乗ってきた馬車に座ると景色を眺める。かなり気に入っているのだ。
イヴも隣に座っている。
「イヴもここが落ち着くのか?」
「……うん。良い景色」
「だな」
そうやって2人でしばらく静かにしていると、1人の男が近づいて来た。
「おい、坊主。お前ここの嬢ちゃんと知り合いなのか?」
その男はがっしりとした体格をしていた。腰には剣が差さっている。
嬢ちゃんとはセレスの事だろう。
「ええ。彼女とはクラスメイトです」
「そうか。なぁ、お前から嬢ちゃんに、俺の順番を優先するように頼んでくれないか?」
リアムは想像通りのセリフに内心ため息を吐く。
ここに着いたとき、工房の前に馬車がたくさん並んでいる時点で予想はできた。
「何故ですか?」
「だってお前ら仲良いんだろ?」
「いえ、そこでは無く、何故あなたの順番を優先する必要があるのですか?」
リアムは落ち着いて聞く。正直、今すぐ殴り倒したかった。
「ああ?普通に待ってたらどれぐらい時間が掛かると思ってんだよ。数ヶ月は待たされるんだぞ?」
「つまり待ちたくないから、と」
「当たり前だ。それに、どうせお前も優先してもらうんだろ?なら俺もいいじゃねぇか」
「それなら自分で頼めばいいでしょう?」
「俺からは頼みづらいだろうが」
「何故?」
「知り合いじゃないからだ」
「なら俺から頼んでも同じでしょう」
「いいから頼めよ。痛い目には合いたくないだろ?」
男はそう言うと大きな拳を握る。呆れたリアムは無視する事にした。
「話になりませんね。今俺達は景色を見て楽しんでたんですよ。そこ、邪魔だからどいてくれません?」
男がイラつく。
「おいおい、何余裕ぶってんだ?ああ?女の前だからって格好つけてんじゃねえぞ?」
(なーんか前にも似たような事があったな)
リアムは呑気に考えながらも無視する。
「ああそうかい。殴られなきゃ分からないんなら、殴ってやるよ!」
男は我慢出来なくなったのかリアムに殴り掛かる。
「硬化」
それに対し、リアムはただ一言だけ呟く。
グシャリ、と嫌な音がした。リアムを殴った男の手が潰れる音だ。
「ぐっ!?ギャアアア!!」
男は手を抑えて蹲る。リアムはそれすらも無視する。
リアムはただ頰に魔力を流し、そこだけを硬化させただけだ。本当ならそこまで硬くはならないのだが、リアムならある程度の刃物は無傷で止められる。
「ぐぅ、クソ!おいガキ!お前何しやがった!!」
男はまだ諦めないようだ。リアムを睨みつけるとそう叫んだ。
「ピーチクパーチクうるさいな。これ以上騒ぐなら殺してバラして魚の餌にするぞ?」
流石に鬱陶しくなったリアムは本気の殺気で威圧する。それを受けた男は体を震わせた。
「あ〜ガタガタうるせぇ。殺すか」
そこでリアムは立ち上がると、未だに蹲る男に近付く。男は逃げ出したいのだが恐怖で動けなかった。
リアムは手を上げる。そこにはいつの間にか男が腰から下げていた剣が握られていた。
やっと男は理解した。自分が触れてはいけない化け物に喧嘩を売ってしまったことを。
そしてリアムは手を振り下ろした。
〜〜〜〜〜
「……終わった?」
リアムが馬車へ戻って座ると、隣のイヴが尋ねた。
「ああ、あそこまでやれば大丈夫だろ」
男は白目を剥いて気絶していた。股も濡れている。その前には剣が地面に刺さっていた。
「それにしても、本当に凄い人気だな。ここに来てどうにかなるもんじゃないのに」
カルダシオ工房は各国から仕事の依頼を受ける。そしてここで作った物を各国へ発送するのだ。
つまり現地に来て依頼したところで、武器が完成するのは数ヶ月から数年後になるのだ。
それでもこうして工房の前に馬車がたくさん止まっているは交渉をするためだろう。リアムに絡んできた男もその内の1人だ。
実は、他の連中も遠巻きから今の一連のやり取りを見ていた。だからリアムは見せしめのように男をあしらった。
その効果は抜群で、見ていた者達はリアムに怯えている。
そんな視線を気にせずに、またぼんやりと景色を眺めているとセレスが戻ってきた。父親らしき人物を連れて。
「リアム君、こちらが私の父、マルコです」
「マルコ・カルダシオだ。お前がリアムか?」
「初めまして。セレスのクラスメイトのリアムです」
そう言うと、セレスの親とは思えない、厳つい顔をしたマルコが急にリアムの手を握った。
「ふむ。剣はよく握っているようだな。これは……我流か?」
「はい。触っただけで分かるんですか?」
「職業柄な。セレスから聞いた。良い剣が欲しいとな」
「ええ、お願い出来ますか?」
「ふむ、いいだろう。本来ならセレスの友達でも断るのだが、お前は相当の腕をしているようだ。むしろ、お前に合いそうな剣を打ってみたい」
マルコは心なしかウキウキしているように見えた。だが、やっぱり厳つい。
「形や性能にこだわりはあるか?」
「そうですね……とりあえず片手剣で、あとは丈夫だったらありがたいです」
「ほう?それだけでいいのか?魔法付与も出来るぞ?」
「いえ、大丈夫です。出来ればミスリル製がいいですね」
「ミスリルか……。やれるのなら今すぐにでも打ちたいんだが、近頃ミスリルが不足していてなぁ」
マルコはその厳つい顔を少し悔しそうに歪める。なんでも、ミスリルを運んでいた馬車が盗賊に襲われ奪われてしまったらしい。
「あ、ミスリルなら持ってますよ」
リアムは思い出したようにそう言うと、魔石から大量のミスリルを出した。
「なっ、そんなに持っているのか!?……お前さん、良ければ少し譲ってくれんか?もちろん、代金は払う」
「ええ、いいですよ。俺が持ってても使いませんし、全部譲ります。代金もいりませんよ」
「なに!?いや、それは流石に悪い。これだけのミスリルがあればしばらくは遊んで暮らせるぞ?」
「そうですか?なら、これが俺の剣の料金と、今回の宿代って事でどうです?」
「それでもお前にとっては大損なんだが……本当にいいのか?」
「もちろんです。さっきも言いましたが、俺が持っていても使えませんしね」
マルコは顔をキラキラさせた。やはり良い素材で剣を打つのが一番なのだろう。
「本当にありがたい。お前の剣はしっかり打たせてもらう。少し時間は掛かるだろうが、それまではここの自然を楽しんでくれ」
「そうですね。では、お言葉に甘えさせてもらいます」
リアムがそう言うと、マルコは荷台を持ってきてミスリルを運んでいった。
「ありがとうございます、リアム君。母が亡くなってから、父があんなに嬉しそうな顔を見せるのは久しぶりです」
「いや、別に気にしなくていい。こんな良い場所に連れてきてくれたお礼って事にでもしといてくれ」
「うふふ、分かりました」
セレスは嬉しそうに笑う。ふと隣を見ると、イヴはまだぼんやりと景色を眺めていた。
早く話進めたい••••!




