第19話 噂
「リアム、おっはよ〜!」
リアムが教室の扉を開けた瞬間、中から小さな塊が飛んできた。
リアムはそれの頭を掴んで動きを止めると、
「おはよ、ティア。今日も元気だな」
「でしょでしょ!ティアはいつでも元気だよ!?」
ティアと呼ばれた少女は掴まれたままケラケラと笑う。
「ああそうだな。朝から疲れる」
「ん〜?それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
リアムはそう言って手を離した。
ティアはリアムのクラスメイトだ。
青い髪をツインテールにしている。そして背が小さく、胸がでかい。所謂、ロリ巨乳と言うやつだ。
ちなみにクラスは4年生になった時に一度クラスが変わり、それからは卒業まで変わらない。
「あ!おはよ、リアム君!」
リアムに気付いたミラが声を掛ける。ミラもリアムと同じく悪魔学を取っており、クラスも一緒だ。
「ああ、おはよう」
リアムはティアの胸を見てからミラを見た。
「ねえ、今見比べたでしょ?」
ミラの目線が鋭くなる。
「気のせいだって」
そう言うとリアムは席に向かった。
席は自由で、リアムはいつも後ろに座っている。特に理由は無い。
「リアムおはよう!今日もかっこいいな!」
「おはよう、オルゲルト。今日もチャラいな」
オルゲルトは茶髪にピアスをしており、制服もだらしなく着ている。だが、見た目のチャラさに反して真面目なとこもあり、人望は厚い。
「……おはよ」
「ん、おはよ、イヴ。今日は何を読んでるんだ?」
「『帝国の歴史』。読む?」
「いや、やめとくわ」
金髪を短く切り揃えている半眼のイヴは、無口で必要最低限の会話しかしない。別に無視したりする訳ではないので、リアムも気軽に接することが出来る。
「リアム君、おはようございます。今日も真っ黒な髪ね」
「先に言っとくけど、髪の色は変わらないからな?セレスは今日も……でかいな」
「うふふ、ありがとう。おっぱいは変わりませんからね」
紫色の癖っ毛を伸ばすセレスティーナは、いつもおっとりしている。ニコニコしていて何を考えているか分からず、そして胸がかなりでかい。
「変わるわよ!」
2人の会話を聞いていたミラが割り込んできた。
「つっても実際セレスティーナもミラも変わってなぶはっ!!?」
「あんたは黙ってろ」
ルークがミラに撃沈させらせた。ルークもリアムと同じクラスだ。
「あ、おはようフーゴ」
「やあ、おはようリアム君」
フーゴは緑色の髪をしていて勉強熱心だ。リアムとはよく悪魔学の話をしている。
ちなみにこのクラスは悪魔学という不人気な選択科目なため、クラスメイトはリアムを含めこの8人だけだ。
「そういえば、昨日読んだ文献に面白い事が書いてあってさ、悪魔の起源についてなんだけど」
「へぇ、それは気になるな。どんな内容だったんだ?」
「おいおいリアム、フーゴ。朝からそんな話すんなよ」
リアムがフーゴの話に興味を持つと、ルークが邪魔をしてくる。
「いや、気になったんだから別にいいだろ」
「それよりさ、聞いたか?あの話」
ルークはリアムを無視した。リアムの額に青筋が浮かぶ。
「なんでも、帝国に聖剣が集められてるらしいぞ。勇者召喚するかもだって!」
「それ昨日聞いた」
「ああ、リアム君も知ってるんだ。僕も知ってるよ」
ルークはドヤ顔で話したが、リアムもフーゴも知っていると分かると一気にしょげる。
「え〜なになに?勇者が喚ばれるの?」
だが、ルークにティアが食い付いた。ルークが嬉しそうな顔になる。
「そうそう!なんかそのうち悪魔が攻めてくるって天使様からお告げがあって、それに対抗するためだって!」
「え〜悪魔なんて攻めてこないっしょ」
「オルゲルトの言う通りだ。第一、天使なんかあてにならないだろ」
「天使様にそんな事言ったらダメだよ?それにほら、"ブリルの惨劇"みたいに急に来るかも」
ミラの言葉にリアムは一瞬動きを止めた。だが、誰も気付かなかったようだ。
「あ〜"ブリルの惨劇"ね。あの事件も謎が多いよね」
「フーゴ君でも知らない事ってあるんだ」
「そりゃあるよ!……あまりこんな事は言ったらいけないんだけど、あの事件で天使様に対する不信が生まれたのも事実だよ」
「不信?」
「そう。あの事件だけは何故か天使様からの警告が無かったんだ。それに、事件の報告自体も遅かった」
「確かにおかしいな」
ルークが同意する。
「リアム君はあの事件があったから天使様を信用してないの?」
「……まぁ、そんな感じかな」
ミラに対するリアムの答えは少しで歯切れが悪い。
「でも、結局はただの噂だろ?噂なんかに振り回されたら身が持たないぜ?」
「オルゲルトの言う通りだ。なんでもかんでも鵜呑みにするのは悪い癖だぞ?ルーク」
「ま、それもそっか」
リアムがそう言うと、ルークはあっさりと納得した。
〜〜〜〜〜
放課後、リアムは木剣を握っていた。
「ふっ!」
「はっ!」
闘技場には2人分の声と、それに合わせた鈍い音が響いている。
「ここだっ!」
「っ!?」
そして一本の木剣が転がった。
「ふー。はは、参ったよ。今回は僕の負けだ」
「はぁはぁ。ありがとうございました」
リアムはシャルロに頭を下げる。
あの進級試験から、リアムは時々シャルロと模擬戦をしていた。リアムが頼んだところ、シャルロは快諾してくれたのだ。
シャルロは相変わらずあまり学園にいないため、あまり多くは出来ないが、それでも2人は時間があえば手合わせをしていた。
そしてその試合は確実にお互いを伸ばし合っていた。リアムはもちろん、シャルロもまた共に成長する。
リアムも今では3回に一度は勝てるようになっていた。もちろん、剣だけで。
「凄〜い!リアム、また勝ったじゃん!」
それを見ていたティア達が駆け寄ってくる。
「またって言っても、合計だとまだまだシャルロ先生の方が勝ってるけどな」
「でも、シャルロ先生はあの"剣神"ですし、誇ってもいいのでは?」
相変わらずニコニコしながらセレスティーナが言う。
「そりゃもちろん誇ってるさ。でも、俺はもっと強くなりたいんだ」
「リアム君が魔法を使ったら僕は完敗ですけどね」
シャルロは肩を竦めながら言った。
「確かに、リアムって剣術も凄いのに魔法も凄いよな」
「凄い凄いじゃ分からん。やっぱりチャラいな、オルゲルト」
「なんでこれがチャラいの!?」
リアムの評価にオルゲルトがつっこむ。
「じゃあ、ほらみんな、せーのーでっ!」
オルゲルトが急に号令を掛けると、リアムに向かって大量の魔法が飛んできた。
「お前ら加減なさすぎだろ……」
そんなクラスメイト達にリアムは少し傷付くと指を鳴らす。途端、全ての魔法が弾けた。
「ほら!それ!指鳴らすだけで魔法を消すとか聞いたことないもん!」
「あ〜そういえば、それってリアムがここに来た時もクレア先生に使ってたよな。どんな魔法なんだ?」
何故か興奮しているオルゲルトにルークが便乗する。リアムは未だに傷付きながらも答えた。
「これは一種の空間魔法だよ。周りの空間を掌握して発現してる魔法に干渉、んでちょっと魔力を乱したらいいだけだ」
「いや、それ"だけ"ってレベルじゃ無いから!空間掌握なんてそんな簡単に出来ないし!」
「そうか?俺は師匠が使ってたの真似ただけだぞ?」
「え?リアム君ってその魔法見ただけで覚えたの?」
ミラがびっくりしたように聞く。本来、魔法は見ただけで使えるようなものではない。
「まぁそうだな。師匠のと比べると劣化してるし限界もあるけど」
「じゃあリアム君のオリジナル魔法じゃん!名前つけなよ!」
「いいよ名前なんて。いつも無詠唱だし」
リアムは面倒くさそうに答えた。
「付けてみなよリアム君。そんな凄い魔法なんだ。名前が無いとかわいそうじゃないか」
「……まぁフーゴが言うなら考えてみるか」
「ちょっと待って。なんでフーゴ君が言ったら素直に聞くの?」
「それは仕方ない。フーゴが間違ったこと言うわけ無いだろ?」
「待って!僕だって間違うことぐらいあるからね?」
フーゴを中心にクラスメイトが騒ぎ始める。その間にリアムは黙って考えていた。
「……指ぱっちん?」
「ダッサ!魔法の凄さに対して名前ダサすぎだろ!」
「分かりやすくていいだろ?」
「それは流石に無いと思いますよ?」
「ふむ。セレスがそう言うなら違うのを考えるか」
「おい、リアム。なんでセレスちゃんの言うことなら素直に聞くんだよ」
「だってセレスが間違ったこと言うわけ無いだろ?」
「うふふ、確かに私は間違ったことは言わないかも」
「いやそこは否定しとけよ」
リアムは自分で聞いて自分でつっこんだ。まさか肯定されるとは思わなかったのだ。
「じゃあ、リアムフィンガーは?」
「……ダサい」
「ぐふっ!イ、イヴに言われるのが一番きついな。じゃあ誰か代わりに考えてくれよ」
「はいは〜い!消去魔法は!?」
ティアが手を挙げて答える。
「それは無いだろ。なんか恥ずかしい」
「そうか?かっこいいじゃん」
「ルークのセンスもあてにならんしなぁ」
「私もかっこいいと思います。リアム君が唱えてそうだし」
「おいセレス。それどういう意味だ?」
「……それがいい」
「イヴまで!?」
結局、そのままみんなが賛同したことで消去魔法に確定した。
リアムはこの先絶対に唱えないだろうな、とぼんやりと考えていた。
正直、一気にキャラ出しすぎた感凄いです。
何人の影が薄くなるのか••••。