第18話 予感
ここから第2章です。
しばらくは、ほのぼの系になると思います。
多分この章の中盤か終盤に物語が大きく動き出すはず。
「なんか最近また元気無いわね?」
リアムが5年生になって数日後、リアムがクレアの部屋で紅茶を飲んでいると彼女はそう言った。
「そう見えます?」
「あなた結構顔に出るからね」
「そうですか……?別にそんな事も無いと思うんですけどね」
クレアはそんなリアムをじっと見つめる。
「そう言えば、アリサさん卒業しちゃったわねぇ」
「……そうですね」
「寂しいんじゃない?彼女がいなくなると」
「まぁそうかもしれませんね」
「……フラられた?」
「ぶふっ!」
唐突な言葉に、リアムはつい紅茶を吹き出した。
「なんでそうなるんですか!?」
「いや、だって前の卒業式から元気無いし、そこから考えられるのはそれぐらいかなって。違った?」
「違いますよ。……まぁ、義姉さんだから言いますけど、告白されたんですよ」
「へぇ〜……。って、ええ!?」
クレアは驚いて席を立った。それにリアムも驚く。
「アリサさんに!?……でも、確かに日頃の彼女を見てたらおかしく無いって言うか、むしろ今まで堪えてた方が凄いか」
「義姉さんは気付いてたんですか?」
「多分、あなた以外は気付いてたと思うわよ?だから皆あなたに決闘を仕掛けてたんでしょ」
クレアの言う通り、リアムはルイスと決闘をしてからよく同じような内容で挑まれていた。全て瞬殺していたが。
「あ〜、だからか。全然気付きませんでした」
「鈍すぎね。亀より鈍いわ」
「そこまで言います?」
「アリサさんは結構辛かったと思うわよ?」
「うぐっ」
リアムは言い返せなかった。
「それで?なんて答えたの?」
「……復讐を果たしたら、迎えに行くって」
「まぁ!案外かっこいい事言えるじゃない!じゃあ復讐を果たしたらアリサさんと結婚するってこと?」
「そうなりますね」
「良かったじゃない!なんだか私まで嬉しいわ」
「義姉さんは……」
「なに?」
そこでリアムは少し言いづらそうにする。
「義姉さんは、誰かと結婚とかしないんですか?義姉さんは綺麗だし、ここの教師もやってるし、貰い手なら幾らでもあると思うんですけど」
「……そうね、そう思った事もあったわ。でも、私はアベル以外の人を好きになれない。本気で誰かを好きになるって事は、そんなもんなのよ」
「そう……ですか」
「そうなのよ。でもありがとうね、リアム。心配してくれたんでしょ?私は大丈夫だから。それより、あなたは自分の心配をしなさい。きっとアリサさんも私と同じよ?だから絶対に死んだりしたらダメ。私も悲しいしね」
「ええ、分かってますよ」
リアムがそう答えると、クレアは満足そうに笑った。
〜〜〜〜〜
「そういえば、リアムってなんで飛び級しないの?」
「飛び級ですか?」
クレアはずっと疑問に思っていた。リアムは転入してきた時から既に別次元の強さを持っていて、しかも今やその事は学園中に広まっている。
「そうよ。どうせだったらアリサさんと一緒に卒業したらよかったのに」
「まぁ俺は復讐の為にここに来ましたからね。悪魔学も取ったばっかりだし、すぐには卒業できません」
「学園からは何も言われてないの?あなたほどの人材を放っておくとは思えないのだけど」
「あ〜それは……」
そこでリアムは少し言いづらそうにした。
「多分、師匠が関係してる事だと思います。実際飛び級とかの話は全く来ないですよ?」
「あなたの師匠ってほんとに何者なのよ。私も一回会ってちゃんとお礼がしたいわ」
「お礼……?」
「義弟がお世話になりましたって」
「別にお礼を言うような事じゃ無いと思いますけどね。でも、また師匠に会えたら連れてきます」
「お願いするわ」
スイと会ったら色々しなければならない。リアムはそう思いと苦笑した。
「ところで、悪魔学での議論とかって今年からですよね?」
「ええそうよ。楽しみ?」
「そうですね。まぁ、理由が復讐の為って考えると笑えないですけど」
悪魔学とは、文字通り悪魔についての授業だ。
定説などの講義はもちろん、色んな文献を漁っては自分の推測などを話し合う授業などもある。
リアムは定説についてはほとんど調べ終わっている。だからこの一年は授業が面白くなかった。
だが、色んな角度からの推測を聞いたり話したりと、意見の交換をするのは楽しみにしていた。
もちろん、推測は推測なので確実性は無いが、それでも何かの参考にはなる。リアムはそう考えていた。
ちなみに学園内では悪魔学はあまり人気が無く、集まるのは変人ばかりと噂になっている。
「……コメントしづらいわね。でも、どんな理由でも楽しんだほうがいいわよ?これまでは知ってる事ばかりであまり面白くなかったかもしれないけど」
そしてクレアはそんな悪魔学を担当している。リアムが選ぶだろうと考え、わざわざ異動したのだ。
「それは4年生までと同じだったから大丈夫でしたよ」
「そう、それはよかっ……ん?それってどーゆー意味よ」
「そのままの意味ですよ」
「そのままの意味だと、私の授業はずっと面白くなかったってことになるんだけど?」
「まぁそうですね。知ってる事ばっかりでしたし」
「なにを生意気な!」
「あぁ〜タンマタンマ!冗談ですって!だからぐりぐりしないで!」
クレアはリアムの頭を拳でぐりぐりとする。その顔は楽しそうだった。
「全く、普通そんなこと私の前で言う?」
「義姉さんの前だから言えるんじゃないですか」
「……あなた、ほんとに可愛いこと言うわね」
「どこが!?」
クレアは気が済んだようだ。
ここのところ、リアムはクレアとの時間が更に増えた。アリサが卒業してクラスも変わり、更には図書館の目ぼしい本を読み尽くしたリアムは時間を持て余していた。
無論、修行も怠ってはいない。新しい鍛錬も始めている。だが、それでも暇が出来るのだ。
リアムは自分にとってアリサがどれだけ大きな存在だったのか再確認した。
そしてクレアはリアムがよく会いに来てくれるのが嬉しいのか、最近は特に上機嫌になっていた。
「でも、リアムも随分変わったわよね。ここに来たばっかりの時はあまり人と関わろうとしてなかったけど、今はクラスの中心にいるし、私と義姉弟になってるし」
「中心かどうかは分かりませんが……でもそうですね、変わったと思いますよ、自分でも」
リアムがこの学園に来てから既に3年。少しずつ社交的な性格になってきていた。
「あ、あと確か実地訓練も5年からよね?」
実地訓練は、実際に街の外に出て魔物などと戦い、実戦経験を積むことを目的としている。
そしてそれはある程度学んだ5年生からとなっていた。
「そうですよ。俺は行かないですけどね」」
「あら?そうなの?」
「俺はずっと"死の森"で暮らしてたんですよ?訓練の魔物とか相手にならないし、むしろ他の人の邪魔になるって学園長に言われました」
数日前、リアムは学園長のラルフに呼び出されそう言われた。
リアムも拒否する理由は無いのであっさりと受け入れたのだが、少しだけ寂しさを感じたのは秘密だ。
「なんか寂しそうな顔してるわね」
「なっ!なぜバレたし!」
「あなた本当に顔に出やすいのよ」
「……別に、寂しくないですけど?」
「遅いわよ……」
すぐにバレた。
「そういえば知ってる?」
と、突然クレアが何かを思い出したような顔をして話題を変える。
「何をです?」
「なんかね、最近帝国に聖剣が集められてるらしいのよ」
「聖剣が?」
その単語にリアムは少しだけ反応する。
「なんでも、一本は行方不明らしいけど、その残りの二本を集めて勇者を召喚しようって噂よ」
「へぇ……。でもなんで急に?」
「それがね、最近天使様から報告があったらしくて、悪魔が不穏な動きを見えてるらしいのよ。だからそれに備えてって事みたい」
「天使なんて信用できませんよ?」
「そうかもしれないけど……って落ち着きなさい!こんなとこで殺気を出さないで」
リアムは気付かぬ内に殺気を出していた。
悪魔と天使。どちらもリアムの嫌いな存在だ。
スイは別れ際、『良い悪魔も悪い天使もいる』と言っていたが、リアムにとってはどちらも憎い。
「すいません。でも、天使の言葉だけで召喚するんですか?」
「まぁ国のトップからしたら、天使は無視出来ない存在だからね」
「そんなもん……なのか?俺はそんな理由で召喚される勇者が可哀想だと思いますけど」
「それには同意するわ。でも、あくまで噂よ?きっと杞憂で終わるわよ」
「………」
リアムは何かが動き出す予感がした。