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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第1章 大切なもの
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第1話 始まり

第1章はほとんど完成してるので、多分スムーズに投稿出来ます。




 

「リアム〜。次は空歩使ってあのワイバーンと並走してきなさい」


  冬を越え、少しずつ暖かくなってきたある日の朝、森の中に女の声が流れた。


「相変わらず無茶言いますね。そんな事したら途中で襲われません?」


「大丈夫よ。その時は返り討ちにしなさい」


「……はぁ」


 リアムは嘆息を1つ吐くと、空中へと歩き出した。そして空を飛んでいたワイバーンの横まで近付くとそのまま並走を始める。


「うわっ、やっぱりワイバーン速いな。なんとかついていけるけどこれはしんどいぞ」


 と、どこか気の抜けた声音で言う。ワイバーンはリアムに気付くとギョッとするが、すぐに攻撃態勢に入った。が、ワイバーンが攻撃を始めるより先にリアムが慌てたように言う。


「待て待て!俺は戦うつもりは無いんだって!一緒に散歩したいだけじゃん!……ん?ここ空だけど散歩でいいのかな?」


 だが途中で脱線したリアムを無視し、ワイバーンはその口を開けて襲いかかる。


「あ〜やっぱこうなるよな〜」


 それでもやはりどこか気の抜けた声を出すとリアムは右手を前に翳す。するとそこにどこからともなく真っ黒な片手剣が現れた。


「ほっと」


 そして猛スピードで迫るワイバーンを危なげなく躱すと、その右手を振り下ろしワイバーンを一瞬で真っ二つにしてしまった。



 〜〜〜〜〜



 地上へ戻ると一部始終を見ていた女が口を開いた。


「あんたバカなの?」


「なんで!?」


 突然の罵倒につい聞き返してしまったが、実のところリアムは何を言われているか理解していた。


「あんた魔剣使ったでしょ。使うなって言ってたのに」


「うっ」


 そう、ワイバーンを真っ二つにした時に使った魔剣は使用を禁じられていた。


「すいません」


「はぁ。あの程度、素手でなんとかすればいいでしょ?」


「師匠と同じにしないでくれます?」


 リアムは呆れたように答える。


 リアムが師匠と呼ぶこの女ーースイはリアムを今まで育て、そして鍛えてきた謎の女性である。身長は160センチほどで、長く艶やかな水色の髪を背中に流し、誰が見ても美人だと答えるような容貌を持つ女性。


 "謎"と言うのは、この女性がリアムに名前以外は何も明かしていないからだ。


 あの日、火の中で泣き喚いたリアムはいつの間にか気を失っており、そして目を覚ませば目の前にスイがいた。


 それ以来、スイはリアムに生きる術を叩き込んだ。常識、礼儀、料理、家事、魔法、体術、剣術、その他にもリアムはあらゆる事をスイから学んだ。


 リアムはこれだけの事が出来るスイの素性を気になってはいたが、彼女が話さない限り聞かない事にしていた。例え何者であろうと自分の恩人である事には変わらないのだから。


「で、なんで魔剣を使ったの?素手は無理でもあんたなら魔法でどうとでも出来たでしょう?」


「あ〜そのですね、気付いたら使ってい」


 そこでリアムが答え終わる前にスイのチョップが炸裂する。「ぶへっ」と、苦鳴をあげ頭を抱えるリアムを無視してスイは続ける。


「気付いたら、じゃ無いでしょ?あんた、悪魔の力を持ってることがバレたらまずいってちゃんと理解してる?」


 その言葉にリアムは一瞬動きを止める。


 悪魔の力。

 それはあの日以来リアムの中に眠る禍々しい力。スイによると悪魔因子とやらが原因らしい。それは常にリアムの中で存在を主張し、外に出ようとしている。


 人間としての自分と、悪魔としての自分。半分ずつその性質を持つリアムは、世間では半魔と呼ばれる存在であり、そして忌まれている存在である。


「……分かってますよ。魔剣を使う事が出来るのは悪魔だけ。だから魔剣を使えば半魔である事がバレる」


「と言うよりもまず悪魔と思われるわね。半魔は極稀にしか現れないから」


 そんな半魔と平然と一緒にいるあんたは何者だよ。と、聞きたいがどうせ答えてくれないのでそんな疑問は飲み込む。


「まぁバレて困るのはあんただからいいけどね」


「相変わらずドライですね」


「今更でしょ。それより今日はもういいから着替えてきなさい」


「……え?まだ昼前ですよ?」


「いいから今日は終わり。さっさと着替えてここに来なさい」


「はぁ」


  基本朝から夕方まで修行をしているリアムは、そんなスイの言葉に驚きつつも素直に従う事にする。


 葉が付き始めている木々の間を少し歩くと、少し開けた場所に出る。そこにはリアムとスイが拠点としているテントが置いてある。


 リアムはそのテントの横で裸になると、魔法で水を出し体を軽く流す。春を迎えようとする季節だがまだ気温は低く、リアムは濡れた体を震わせる。すぐにタオルで体を拭き、いつもの黒いコートを着るとまた来た道を戻りスイの元へと向かった。



 〜〜〜〜〜



「さて、リアム。今日であなたを拾ってから7年が経ったわ」


 着替え終わったリアムがスイの元に戻ると、彼女は突然そう言った。


 7年。あの日から早くも7年が経った。12歳になったリアムはかつての兄に似て整った顔立ちをしていた。まだ幼さが残るものの、不吉の象徴とされる黒い髪とどこか儚さを感じさせる雰囲気が相まって、逆に異性の気を惹くような少年となっていた。


「私が教えられる事は全部教えた。って訳では無いけどそれでもある程度は教えたわ。あなたはもう1人で生きられる強さを得た。と言うよりもその歳でその強さは既に化け物と呼ばれるレベルよ。だからこれから先は自由に生きていいわ」


 スイはリアムを育てる時、リアムが1人で生きていけるようになれば好きに生きていいと約束していた。


「自由……」


「もちろん、あなたがまだ私に教わりたいなら残ってもいいわよ。条件はあるけど。その条件は分かってるわよね?」


 スイは別にリアムを追い出したい訳では無い。ただ、リアムには1つの誓いがある事を知っていた。だからこそ選択肢を与える。


「俺は……俺はあの時、復讐を誓った。あの悪魔共を殺すって。だからこれからは復讐の為だけに生きます」


 リアムは迷わず答えた。その声には強い意志が込められていた。だがその目が黒く淀んでいることにリアムは気付いていない。


「……そう。やっぱりその道を選ぶのね?」


「はい」


 やはりリアムは迷わず答える。


「分かったわ。でも、最後に師匠としてお節介を焼いてもいいかしら?」


「お節介ですか?」


「そう、お節介」


 リアムの目がジトっとしたものに変わる。


「……何を企んでいるんですか?」


「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。これはあなたにとって必要な事だから」


 そんな事を言うスイの目は真面目な色をしていた。リアムは黙って先を促す。するとスイは頷いてからこう言った。


「あなた、学校に行きなさい」


 予想外の言葉にリアムは驚き、スイの顔を見つめる。だが、ふざけた様子はなかった。スイは続ける。


「学校に行って、そこで大切なものを見つけなさい」


「大切なもの……ですか?」


「そう、大切なものよ。昔、私は言ったわよね?復讐は何も生まないって。それでも復讐を選ぶのなら私は止めない。でも、もし今のあなたが復讐を果たしたら何も残らなくなる。だから何でもいい、大切なものを見つけなさい。もしそれを見つけられたら、復讐を果たしてもきっとあなたは大丈夫よ」


 リアムはその言葉の意味を考えた。しかしよく分からない。ただ1つ分かったのは、


「もしかして俺の事心配してくれてます?」


「まぁ、自分の弟子がのたれ死ぬのはいい気はしないわね。それに先に言っとくけど、そもそも今のあなたじゃ復讐は果たせないわ。奴はあなたが思っているよりも強大よ。もっともっと強くならないと勝てない」


 リアムはスイが自分の心配をしてくれているのが素直に嬉しかった。だが、ある言葉に引っかかり、その感情もすぐに消える。


「奴……?師匠、もしかしてあの悪魔の事を知ってるんですか?」


「……知ってるわよ。少しだけどね」


「なっ……なんで!なんで今まで教えてくれなかったんですか!?俺の目的は知っていたのに!!」


「だからよ。止めないとは言っても私は今も復讐には反対なの。それは変わらない。だからもし復讐をやめるなら教えるわ」


 スイは静かにそう答えた。その言い分は理解出来る。だが納得は出来ない。リアムはずっと復讐の事を考えてきたのだから。リアムは思わず怒鳴りたい気持ちを抑えて、


「じゃあ師匠。せめて名前だけでも教えてくれませんか?お願いします」


 そう言い、頭を下げた。普段なら師匠の言う事は聞くのだが、今回だけは引けなかった。

 スイはしばらくそんなリアムを見つめ、やがて諦めたように口を開いた。


「アモン。最上級悪魔の1人よ」


「アモン……」


 仇の名前を知ったリアムはあの日の事を思い出した。目の前で大好きだった家族が殺された事を。自分を半魔にした悪魔を。あの耳障りな嗤い声は今も覚えている。

 リアムの胸に黒くドロドロとしたものが渦巻く。途端、リアムから膨大な殺気が溢れ出した。


「落ち着きなさい」


「痛いっ!」


 すかさずスイがチョップを放つ。


「この通り、あんたは復讐するだの何だの言ってるけど、力も情報も圧倒的に足りない。そもそもあんた魔界への行き方知ってんの?知らないでしょう?そんな状態で復讐とかいい笑い者よ」


 リアムは反論出来ない。


「その点、学校に行けばある程度情報は集められるわ。あそこは巨大な図書館があるしね。力の方は……自分で鍛えなさい」


「肝心なとこ雑くね!?」


「うるさいわね。それで行くの?行かないの?」


 正直行きなくない。ただ情報が足りないのは事実だ。


「学校に行きながら師匠に鍛えてもらうのは?」


「私はあなたに復讐の為の力は与えない。これ以上を望むのなら復讐を諦めなさい」


 スイは分かっている。リアムが何を選ぶのかを。だからこそ突き放すように言った。そしてそれはリアムも理解していた。


「分かりました。学校に行きます」



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