第16話 VS剣神
戦いの描写めっちゃ難しいです。
開始の合図が響いても2人は動かなかった。ただ、じっとお互いを視ている。
そして動かない2人を見て騒めく生徒も教師もいなかった。感じていたのだ。2人から放たれる、かつて無いプレッシャーを。
開始から2分ほどが過ぎる。それでも2人は動かない。相変わらず静寂が闘技場を支配していた。
お互いに力の入り具合を視て牽制しあっている。リアムは身動き一つ、瞬き一つ出来ない。それはシャルロも同じだ。
リアムの額を汗が流れる。だが、リアムは心の中で歓喜していた。目の前にいる人物は紛れもなく本物だと。ついにスイ以外の強者と戦えるのだと。
そしてシャルロも同じく喜んでいた。こんな幼く、だがかつてない程の強者との戦いを。
先に静寂を破ったのはシャルロだった。気付けばリアムの目の前に肉薄し、剣を振っている。リアムの瞬きの瞬間に動き出したのだ。
リアムは目を見開くとシャルロの剣を弾く。闘技場に鈍い音が響いた。
シャルロの剣撃が続く。リアムはそれらを避け、弾き、逸らす。だが確実に押されていた。
リアムが剣を受け止め、鍔迫り合いになる。再び動きが止まった2人は笑みを浮かべていた。闘技場に他の音は無く、観客は息を呑みただ黙って見ていた。
リアムはシャルロの剣を切り上げると反撃に出た。シャルロはそれら全てに反応する。どちらも魔法を使っていないにも関わらず目で追えない、それは人の領域を超えた戦いだった。
リアムもシャルロも全身に擦り傷ができていた。お互いに完璧に防ぎきるのが出来なくなってきたのだ。
リアムは一瞬だけ動きを止めた。それは"剣神"にとっては致命的な隙。
シャルロは素早く木剣を両手で構えると上段から振り下ろす。だが、リアムは体を回転させてそれを避けると、木剣を横に薙ぎ払った。
「っ!?」
シャルロはそれを受けて吹き飛んだ。しかしリアムにはほとんど手応えが無い。恐らく自分で飛んで衝撃を殺したのだろう。
「今の隙はわざと作ったのか。末恐ろしいね」
「そりゃどうもっ!」
今度はリアムから肉薄する。静まり返っている闘技場に剣戟が鳴り響く。
その時、何かが割れる音がした。2人の木剣が折れたのだ。それでも剣戟は止まらない。お互いに半分程の長さになった剣で続けている。
だが、決着は突然訪れた。
少しリアムが疲れを感じた頃、急にシャルロのスピードが上がった。そしてリアムの剣を手から弾くと、首筋に木剣を添える。
リアムは自分の木剣が地に落ちたのを確認すると、目を閉じて両手を挙げた。
「……参りました」
その言葉から一拍の静寂を挟み、観客達が一斉に湧いた。割れんばかりの歓声と拍手を2人に贈る。
そしてリアムはそれを聞きながら悔しそうに笑ったのだった。
〜〜〜〜〜
「負けちゃったけど惜しかったじゃん。かっこよかったよ?」
決闘の後、図書館の裏に四つん這いで落ち込んでいるリアムと、そんなリアムを励ますアリサの姿があった。
リアムは正直負けるだろうとは思っていた。それでも挑んだのは少しでも強くなるためだ。だから負けた時は悔しいながらも満足感はあった。
だが、時間が経つにつれて悔しさが膨れ上がってきた。その結果が今のリアムに至る。
「はぁ。俺から強さを取ったら何が残るんだよ。髪が黒い事と性格が歪んでる事ぐらいじゃねーか。いや別に最強とか思ってた訳じゃないよ?師匠にはいつもコテンパンにされてたし。でもそれは師匠だからであって他の人に負けると変わってくるって言うかさ、何か自分の存在価値が薄れたようなそんな感じがしたりするって感じが……」
などと呟いている。
「でもシャルロ先生最後に急に速くならなかった?」
そんなリアムにアリサが尋ねる。アリサはもしかして魔法を使ったのではないかと思っていた。
「いや、あれは相対的に速く見えただけだ」
「相対的に?」
「ああ。あの人は俺がつられるように本当に少しずつペースを落としてた。周りからは分からなかったかもしれないけど、最初と最後では剣戟のスピードは全然違ったしな。って言っても俺がそれに気付いたのも負けてからだけど。で、シャルロ先生は俺のペースを確実に崩してから一気に攻めてきたんだよ」
「ん〜難しいね」
「だな。流石は"剣神"って感じだよ。でもそうだな、前向きに考えよう。俺はあの"剣神"と戦えたんだ。負けたけど吸収できた事も多い。次は無理でも、その次ぐらいなら勝てるかもしれない。そう、つまり今日の敗北は明日の勝利ってことだ!」
そう言うとリアムは起き上がった。どうやら立ち直れたらしい。そこでアリサは昔の会話を思い出した。
「でもリアムってあんまり目立ちたく無いんじゃなかったの?最近目立ちまくってると思うけど」
「ああ、もう気にしない事にした。卒業する前に雲隠れするさ」
「……え!?どっか行っちゃうの!?」
「その内な。どっちにせよ、俺の目的の事を考えたらいつかはそうなるし」
「そっか……。いなくなっちゃうんだ……」
そこでアリサは黙ってしまう。妙な沈黙が生まれた
「アリサさん?」
「ううん、なんでもない!私はあと一年で卒業だけど、それまで仲良くしてね?」
「もちろん。こちらこそよろしく」
そう言って解散した。ただ、リアムはアリサが少し寂しそうな顔をしていた気がした。
〜〜〜〜〜
「リアム!昨日は凄かったな!」
翌日、リアムが教室に向かうとクラスメイトが群がってきた。ちなみに3年まではクラスは変わらない。
「まぁ負けたけどな」
「あの"剣神"を相手にあそこまでやれたら充分だろ!いや〜強い強いとは思ってたけど、ここまで強いとはな!」
クラスメイトは口々に褒める。その勢いにリアムが揉まれているとクレアが教室に入ってきた。クラスメイトは自主的に席へ着く。
「はい、昨日で進級試験は全て終わりました。このクラスは全員進級です。そこで、このプリントを見て下さい」
クレアがそう言うと魔法で各席にプリントを配った。
「これは4年生から選べる科目の一覧です。この中から自分の好きなものを選んで下さい。決まったらチェックをつけて私のところへ持ってくるように」
その言葉を聞き、リアムはざっと一覧を眺める。そして悪魔学を見つけるとすぐにチェックをした。
そして放課後、さっそくクレアの元を訪ねる。
「あら、いらっしゃい。もう持ってきたの?」
「ええ、先に決めてましたから」
「やっぱり悪魔学?」
「はい」
そう言ってプリントを渡す。それを確認した後、クレアは何故かドヤ顔をした。
「実は私も悪魔学の教師になったの。リアムが選ぶと予想して先に異動させてもらったわ」
「……ツッコミませんからね。それより義姉さん悪魔学に詳しいんですか?」
「まぁそれなりにね。私も学生時代は悪魔学を取ってたし」
「へぇ、じゃあ半魔についてどれぐらい知ってますか?」
「……半魔の存在を知ってるの?あまり知られてる事では無いと思うんだけど」
「あ〜……。まぁ師匠からちょっと聞いたことがありまして」
少し言葉を濁す。リアムはまだ自分が半魔であることをクレアに言っていない。いつか言おうと思っているのだが、なかなかタイミングが掴めないのだ。
「私もほとんど知らないわ。ただ半魔は見た目も気配も人間だけど、いつ悪魔になって暴れ出すか分からない危険な存在だって聞いたわ」
「………」
リアムには少し心当たりがあった。憎しみや殺意といった感情を抱くと、自分の中の悪魔性が膨張する感覚。それは確かに危うい存在で、リアム自身怯えている。
「まぁ半魔なんてそれこそ数十年に一体現れるかどうかぐらいだから気にしなくていいわよ」
「……そうですね。今日のところはこれで失礼します」
「はーい。また来てね?」
「ええ」
リアムは短くそう答えると、トボトボと寮へ帰っていった。
悪魔が嗤い出すのはもう少し先で、天使が謳い出すのはもっと先です。タイトル詐欺ですね。
順番的には『悪魔は嗤い、天使は謳う』なんですけど、今のタイトルにしたのはちゃんと理由があります。
それが分かるのはもう少し先ですけどね。