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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第1章 大切なもの
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第13話 心の内側

この回はリアムのルーツみないなものを書きました。


上手く文章に出来てるか微妙だし、長文で読みづらいかもしれませんが、ちゃんと読んでもらえるとありがたいです。


心情を考えるのは難しいですね。




 

「あの日の夜、俺は兄さんに起こされました。兄さんは目を覚ましたばかりの俺に悪魔が攻めてきたから逃げろ、と言うと俺の手を引いて家の裏口から走って森へ向かいました。その時既に村の大半は焼かれていて、夜なのに昼間のように明るかった事を覚えています」


 リアムは一旦言葉を切る。


「走る俺と兄さんに、悪魔共が襲いかかってきました。あの時は分からなかったけど、多分下級悪魔だと思います。そいつらは兄さんが魔法で倒していました。そんな時に、俺達の前に大きな悪魔が現れました。多分、上級悪魔です。そいつに兄さんは吹き飛ばされて俺は殺されかけたんですが、そこに父さんが助けに来てくれました。兄さんは母さんに肩を借りてました」


 そこで確かに家族は全員揃った。


「でもその時点でかなり状況は悪かったらしく、父さんと母さんが俺達を逃すために囮になろうとしました」


 だが、5歳のリアムにはそれが理解出来ていなかった。


「そこで兄さんが自分も残るって主張しました。でも、それに対して父さんが何か言い終わるより先に、奴らが来たんです」


 リアムは手を強く握る。


「突然、影から大量の悪魔が現れたんです。そこから先の事はあまり覚えてません」


 当時の事を思い出してリアムは涙を流し、嗚咽を洩らす。


「俺はあの時、何も出来なかった。ただ見ている事しか出来なかった。なのに父さんも、母さんも、兄さんも、そんな俺を庇って死にました。そして気付いた時には悪魔は消えていて、目の前にはただの肉塊が残っていました」


 気付けばクレアも涙を流していた。


「それでも俺はすぐに動けなかった。全て悪い夢なんだって、目を覚ましたらいつも通りの朝が来てるんだって、そう信じていた。信じようとしていた。でもいつまで経っても目は覚めない。結局、俺はその後も泣き続けることしか出来ませんでした。そして俺は復讐を誓いました。あの悪魔を絶対に殺してやるって」


 それが今のリアムを形成している。


「師匠に出会ったのもその時です。それから俺は復讐の為だけに生き続けてきました。毎日強くなるために修行をして。でも、本当は分かってたんです。俺が一番憎いのは悪魔なんかじゃ無く、なにも出来なかった自分自身なんだって」


 あの時、自分はなにも出来なかった。


 まだ5歳だからとか、そんな事は関係無い。自分の大好きな家族が自分を庇って死んでいくのを、見ている事しか出来なかったのは事実なのだから。


「悪魔が心の底から憎いのは事実です。でもそれ以上に自分の事が憎いのも事実。だから思うんです。最初は家族の為って思っていたこの復讐は、本当は"逃げ"なんじゃないのかって。償いたいのなら、本当にするべき事は他にあるんじゃないのかって」


 スイは言っていた。復讐は何も生まないと。そしてそれはリアムも本当は理解していた。


「分かってた。きっと父さんも、母さんも、兄さんも、復讐なんて望んでいない。あの人達はみんな俺の事を愛してくれていた。だから復讐なんかより、俺が幸せに生きる事の方がよっぽど報いる事ができるって。だから本当に自分を庇ってくれた家族の為に生きたいのなら、復讐なんかするべきじゃないって」


 それは自惚れかもしれない。勘違いかもしれない。都合の良い考えかもしれない。それでもリアムには確信に近いものがあった。


「だからきっと、この復讐は本当は復讐なんかじゃない。ただの私怨なんです。家族の為とかそれらしい事を言っておいて、結局俺は俺の為にあの悪魔を殺したい。そう思ってるだけなんです」


 それが今まで何度も迷い、苦しんできたリアムの全てだった。


 自分を赦せず、悪魔も許せない。だが自分を庇った家族にも報いたい。そしてその矛盾する思いの中で、結局選んだのは自分のための復讐。


 『何も出来なかった自分が、家族を殺した悪魔を、死んでいった家族の為に殺す』


 それで全て果たせる。


 そうやって都合の良いように捻じ曲げて、作り変えて、塗り固めて、今のリアムがいる。


 本当は理解していた。この復讐が何も生まない事ぐらい。


 それでも、リアムにはそれしか無かった。それしか選べなかった。


 俯いていたリアムがクレアの方を向く。その顔には、とても13歳の少年が浮かべるようなものではない、とても儚く、今にも消えてしまいそうな表情が浮いていた。


「これが俺の全てです。こんな空っぽなのが俺の全て。先生は軽蔑しますか?こんな俺を。結局は自分の為にしか生きられない俺のことを。あなたが愛した兄さんに救われたこの命を、無駄に使おうとしている俺のことを」


 そこには懇願に近いものがあった。こんな自分を赦して欲しくない。そんな想いが込められているようだった。


 クレアはすぐに答えられない。軽蔑した訳では無い。ただ、目の前の少年が抱えているものが重すぎた。


 まだ13歳。そんな幼い少年が、既に今までに悩み苦しんで、そして出した答えに自分で絶望している。自分で自分を軽蔑している。


 もし、もしも自分とリアムの立場が逆だったら。自分はこんなに悩めるだろうか。こんなに苦しむだろうか。


 そこまで考えてクレアは確信する。恐らくそうはならない。自分なら迷わず復讐を選んだだろう。そしてそれが正しいと思い続けていただろう。


 この少年は、リアムはきっと賢すぎたのだ。それ故に理解してしまったのだ。自分が選んだ道の、その意味を。


 クレアは黙ってリアムを抱き締めた。


「軽蔑なんかしないわよ。する訳がないわ。あなたは今までずっと苦しんできたんでしょう?なら、少しは自分を赦してあげてもいいんじゃないの?こんなありきたりな言葉は求めてないかもしれないけど、それでも少なくとも私はあなたの味方よ。軽蔑なんか絶対にしないし、誰にもさせやしない」


 そう言って。


 それは確かにリアムの求めていた答えではなかった。


 自分を認めてほしくない。リアムはそう思っていた。


 なのに今、抱き締められて、肯定されて。自分の気持ちが少し軽くなったのを感じてしまった。そしてその事にあまり嫌悪を感じなかった。


 リアムは自分の弱さを再確認して、それでも温もりを求めて。クレアを抱き締め返し、あの日のように泣き続けたのだった。



 〜〜〜〜〜



 次の日の放課後、またもリアムとクレアは2人だけで教室に残っていた。


 昨日はひとしきり泣いた後、気まずくなったリアムはクレアにまた明日も時間が欲しいと言ってすぐに帰ってしまった。


「あの……昨日はすいませんでした。あんな感じで帰ってしまって」


「大丈夫よ、別に。宿題もいつの間にか終わらしてたしね」


 実は宿題はクレアと話し始める直前に終わっていた。


 普通ならありえないスピードなのだが、スイに教育を受けて、そして身体強化を掛けていたリアムに不可能は無かった。


「それに年相応なところも見れたし」


「それ、前も言われました」


「まぁあなたは大人びてるって言うか、冷めてるところがあるしね」


 クレアは楽しげに笑う。初めて見る笑顔だった。アベルの最期を聞いて、そしてその弟との出会いが彼女の心を解したのかもしれない。


「先生。ちょっと一緒に屋上まで出てもらっていいですか?」


 リアムは徐ろに尋ねる。


「いいけどなんで?」


「先生を連れて行きたい場所があるんです」


「それはいいけど、なんで屋上?」


「それはすぐに分かりますよ」


 そう言うとリアムは教室を出ていった。クレアは首を傾げながらも後ろをついていく。


 屋上に着くとリアムは振り返って、


「じゃあ少し失礼します」


 と言い、クレアを抱き上げた。所謂、お姫様抱っこと言うやつである。


「え、なに!?」


「しっかり掴まってて下さいね?」


 クレアは驚いているが、そんな彼女を無視してリアムは風魔法を発現させる。するとリアムの体が浮き、クレアを抱き上げたまま北へ向かって飛び始めた。


「ちょっ、ちょっと!?これ飛んでるの!?速すぎない!?」


「修行の賜物ですよ」


 クレアは未だに目を白黒させているが、リアムは気にしない。


 しばらくすると、リアムは森に囲まれた草原に降り立った。既に辺りは暗くなり始めている。


「着きましたよ」


「ここは……?」


「ここはブリル村の近くですよ。あれを見て下さい」


 そう言ってリアムが指差す先には大樹が立っていた。広い草原の真ん中に一本だけ。そしてリアムはそこへ向かって歩き出す。


「あそこで、よく兄さんに魔法を見せてもらってました。兄さんはどこか楽しそうに魔法を見せてくれて、俺もそれをいつも楽しみにしてました」


「ここでアベルが……」


 クレアは素直について来る。そしてリアムが立ち止まると、一緒に立ち止まった。


「これが俺の家族の墓です。みっともない話、これは俺じゃなくて師匠が作ってくれたんですけど、それでもここに先生を連れて来たくて」


 そこにある墓にはまだ綺麗な花が添えられている。リアムがだいたい2日に一度、授業が始まる前にここに来ているからだ。


 クレアはよろよろと墓に近付いていく。そして、


「やっと……やっと会えた」


 そう小さく呟くと、涙を流し始めた。


 リアムはそんな様子を、少し離れたところから見つめていた。



 〜〜〜〜〜



「今日はありがとう。ここに連れて来てくれて」


 とりあえず気が済んだのか、クレアはリアムの元に来るとそう言った。


「いえ、気にしないで下さい。それにまた来たくなったら言って下さいね」


「うん、本当にありがとう」


 クレアは嬉しそうに微笑む。リアムは昨日の事を思い出すと、そんなクレアを見ながら恥ずかしそうに、


「それで、ですね、先生。その……先生がよければなんですけど、2人だけの時は、先生のことを義姉さんって呼んでもいいですか?」


 と、そう言った。それを聞いたクレアは目を丸くし、そしてまた涙を流した。


「うん……もちろんよ。だって、あなたは私の義弟だもの」


 こうして兄を失ったリアムと、愛する人を失ったクレアに、新しい家族が増えたのだった。




僕が13歳の頃はゆとりが終わったことに文句を言ってたガキンチョでした。

リアム君は立派ですね。




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