第10話 予定
リアムが初めて悪魔と戦った日から数ヶ月が経ち、夏休みが近付いていた。
あれからは比較的平和な時間を過ごしていた。クラスメイトとはある程度仲良くなり、放課後には図書館へ行って悪魔や天使について調べ、そしてアリサに空歩を教える。
アリサは飛び級をしているだけあって才能があるのか、既にコツを掴み習得しつつある。
そしてリアムはアリサと過ごす時間に、かつて兄と共に過ごした時間と同じようなものを感じ始めていた。
天使についても色々と知った。その結果リアムは天使が大嫌いになってしまったが。
天使も悪魔と同じく起源が分かっていないのだが、その他の事は少しだけ判明している。
まず天界を統べる熾天使がいる。その下に天軍6隊と呼ばれる智天軍・座天軍・主天軍・力天軍・能天軍・権天軍が存在し、各部隊に上級、中級、下級天使が所属している。
この天使達は悪魔に対する抑止力として存在し、基本天界から地上界を監視している。そして悪魔が現れると討伐に出て、そして近くの人間又は獣人に警告をするのだ。
これを知ってリアムは憤怒した。ブリル村に大量の悪魔が現れた時、リアムを拾ったのは天使では無くスイだ。しかも天使から"ブリルの惨劇"についての報告がもたらされたのは事件から数日後だった。
『役立たず』
リアムの中で天使はそういった認識になった。
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「ねぇねぇリアム君。リアム君って夏休みの予定って何かあるの?」
夏休みが目前となったある日、アリサはリアムに尋ねた。いつも通り図書館の中で。
「そうですね。とりあえず修行でもしようかと思ってますよ」
リアムはそう答える。事実、また"死の森"とやらに籠って鍛錬に励むつもりだ。
「そんなに強いのに、まだ強くなりたいの?」
「ええ、もちろんですよ。まだまだ足りないぐらいですし」
「ねぇリアム君はなんでそんなに強くなりたいの?」
「それは……いつか話します」
「むぅ。今はダメってこと?」
「そういう事ですね」
リアムは苦笑しながら答える。
「分かった。でもいつか絶対教えてよね」
「いいですけど、なんでそんなに聞きたいんですか?」
今度はリアムが尋ねる番だ。するとアリサは少し顔を赤くすると、
「だって、リアム君の事をたくさん知りたいんだもん」
そう言って目を逸らした。そして誤魔化すようにワタワタしながら、
「そっ、それよりもさ!もし良かったら夏休みに一緒に遊びに行かない?」
「遊びにですか?」
「うん!やっぱり修行ばっかりだと体にも良くないしさ、たまには遊んだほうがいいよ!」
(一理ある……のか?)
リアムは少し迷い、
「いいですよ」
と、そう答えた。それを聞いてアリサは小さくガッツポーズを作る。そして
「約束だよ?絶対破ったらダメだからね?」
そう言ってリアムに念を押した。
〜〜〜〜〜
「なぁ〜リアム〜。リアムって夏休みに何か予定あんの?」
それから数日後、今度は教室でルークに聞かれた。
「ん?修行でもしようかと思ってるけど」
「うわぁ、もっと青春しろよ〜。俺はな、海行くんだぜ、海。ちょっと遠いけどな」
「へぇ、いいじゃないルーク。私も行っていい?」
「おう、いいぜ。なんならクラス全員で行くか?」
ミラに答えたルークがそう言うと、クラスメイトが歓声を上げる。この2年A組、異様に仲が良いのだ。
「ふっふーん。今更行きたいとか言っても遅いぜ、リアム。まぁどうしてもって言うなら仕方無いけどなぁ?」
ルークがなぜかドヤ顔でリアムにそう言う。
「いや、別にいいよ」
「え〜ノリ悪りぃな。そんな面白くない人間でいいのか?」
ルークが更に煽る。
「そんなもんどーでもいい。あ、でも夏休みにアリサさんと遊ぶ約束はしたけどな」
そう言った瞬間、クラスメイトが全員リアムを見た。
〜〜〜〜〜
「って訳で、俺のクラスメイトも一緒で大丈夫ですか?」
その日の放課後、例によって図書館でリアムはアリサに聞いた。あの後、クラスメイト達が全員リアムに襲い掛かり是非自分も、と言ってきたのだ。
あの時の勢いには流石のリアムも死を覚悟した。学園のアイドル恐るべし、である。
「……別にいいけど」
アリサの答えは少し歯切れが悪かった。リアムは少し焦る。
「アリサさんが嫌ならいいんですよ?やっぱり自分だけ違う学年とかだと気まずいと思いますし」
「……リアム君って鈍いとか言われない?」
「?まぁ師匠にはよく言われましたけど」
「それ多分違う意味だと思うなぁ〜」
そう言うとアリサはリアムの正面に座った。
「分かった。その代わり1つだけ条件があるわ」
「条件?」
「うん。これからは私に対して敬語を使わないで欲しい」
「え?それはどういった理由が?」
「もっと仲良くなりたいから、かな」
「俺的には既に仲良くなってるつもりでしたが」
アリサの言葉に若干傷付く。
「あ、違うよ!私もむしろ1番仲が良いと思ってるけどね?ただ私はもっともっと仲良くなりたいから……」
アリサはモジモジしながら答える。
「私もこれからはリアムって呼ぶから。どう?」
「分かり……分かった。ただ呼び方はアリサさんでいい?」
「むぅ〜。分かった。それでいいよ。じゃあ改めてこれからもよろしくね、リアム」
「ああ、よろしく」
そして互いに笑いあった。
「それでアリサさん、どこに遊びに行こうって思ってたんだ?」
「それがいっぱいあるのよね〜。山とか、海とか、街とか、行きたい所が多すぎて決められないの」
「街とかなら別に夏休みじゃ無くても行けるくないか?」
「……夏休みじゃ無くても一緒に行ってくれる?」
「ん?まぁそれぐらいならいいけど」
「ほんと!?約束だよ!?約束だからね!?」
「俺ってそんなに信用無い?」
リアムは苦笑しながら頰を掻く。
「俺のクラスメイトは海に行きたいって言ってたっけな」
「海か〜。リアムも行きたいの?」
「どうだろ。でも今まで海を見たことは無いから行ってみたいかも」
「そう?海に行くんだったら水着買いに行かなきゃだけど……一緒に行ってくれる?」
「それぐらい全然いいよ」
「じゃあ海に決定ね!」
こうして夏休みの予定が決まった。