表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第5章 師、そして選択
105/111

第88話 再会



 




「私が出てこよっか?」


「いや、いい。俺が出る」


 リアムはアリサを手で制し、ベッドから立ち上がる。一瞬、立ち眩みするが、何事も無かったかのように部屋を出て行った。


 リアムは警戒していた。この先、何が起こるか分からないからだ。特に、悪魔はリアムを狙っていることが判明している。アモンを殺したリアムを。

 まさかこの家がバレたもは思いたくなかったが、警戒するに越したことはない。


 再度、呼び鈴が鳴った。


「はいはいっと」


 リアムはいつでも戦えるよう、精神を落ち着け、扉を開けた。


 玄関の先には、一人の女が立っていた。ボサボサの金髪に、チョコレート色の肌。胸は無いが、整った顔が女だということを証明している。


「……どなたですか?」


「ふーん、お前がリアムか。なかなか男前だなぁ」


「どうも……?」


 完全にマイペースな女に、リアムは一瞬気を抜いてしまう。だが、すぐに引き締めた。


「なんで俺のことを知ってる?俺はお前を知らないぞ?」


「ん?何せ私は神だからな。雷神タラニス。それが私の名前だ」


「……は?」


「だから、神様なんだよ、私は」


「頭沸いてんのか?」


「おいおい、いきなり罵倒とはやるじゃんか。でも、あんまり調子に乗らない方がいいぞ?」


 刹那、プレッシャーがリアムを襲った。そのあまりの重さに、眩暈が覚える。


「ぐ……お前……!」


「やっぱり、あいつの弟子か。意識を保つどころか、立っていられるなんてな」


 ふと、プレッシャーが解けた。リアムは大きく深呼吸をする。この一瞬で、目の前の女が神であると理解させられた。


「……その神様が、俺に何の用です?」


「お前に会わせたい奴がいる。ついて来い」


「……とりあえず、中に入ってください。詳しく聞きます」


 リアムは少し、タラニスに懐かしい雰囲気を感じた。





 〜〜〜〜〜





 雷神タラニス。それは誰もが知っている名前だ。この世界を治めていると言われる五大神の一柱。天候を(つかさど)る神。それが、雷神タラニスである。


「ーーと言うわけで、この人は神様らしい。あ、いや、人じゃないのか」


「雷神タラニスだ」


 居間のソファーに偉そうに座るタラニスは、リアムを無視して部屋をジロジロと見る。そして、正面に座るアリサ達を順番に眺めた。


「へぇ、七大天使が半魔といるのか。面白いな」


「……初めまして、タラニス様。ボクは七大天使が一柱、ウリエルと申します」


「ああ、識ってる。それで、お前らがリアムの嫁か」


「あ、はい。アリサです」


「ミサキです」


「ルナ〜」


 緊張する二人を他所に、ルナだけがいつもの調子で答える。それを見て、タラニスは笑みを浮かべた。


「ここに来たのはリアムに用事があったからだ」


「会わせたい人がいる、でしたっけ?」


「ああ。お前をよく知っている奴だ」


 タラニスはソファーにもたれかかり、足を組みながら言った。かなり寛いでいる。


「俺のことをよく知っている人……?」


「で?どうすんだ?会うのか、会わないのか」


 結論を迫るタラニスは、ホジホジと鼻をほじる。せっかくの美貌が台無しだ。


「まあ会わないって言っても、無理やり連れて行くけどな」


「……じゃあ聞かないでくださいよ」


 会わないと答えようとしていたリアムは、肩をすくめる。彼は分かっているのだ。目の前の女は本物の神であり、故に彼女が言うことは絶対なのだと。


 そして、このやり取りに少し懐かしさも感じていた。この、傍若無人な態度。それに振り回される感じ。

 それはリアムの師匠であるスイと似ていた。


「そーそー。お前が考えてる通りだ。スイ、ってのは偽名なんだけど、とりあえずお前をスイの元に連れて行く」


 ガタリと、音を立ててリアムは立ち上がった。周りからの視線を集めていることに気付き、それでもリアムは驚きを隠せない。


「師匠の……元に?」


「ああ、そうだ。あいつがそれを望んだからな。仕方なし私がお前を連れて行くことにした」


 未だに鼻をほじり続けるタラニスを、リアムは凝視する。考えているのはもちろん、スイのことだ。


 リアムはスイの居場所が全く分からなかった。どれだけ調べても、どれだけ人に聞いても、知ることはできなかった。なのに、突然こうもアッサリと、しかも迎えに来る形で再会を果たせる。更に言えば、神のお迎えだ。

 まだ理解が追いついていない。


「……なぜ、神であるあなたがわざわざ?」


「あ?あ〜そうか、そこからか。めんどくせぇな」


 リアムの問いに、タラニスはガシガシと髪を掻く。その姿だけを見て、この女が雷神だと分かる者はいないだろう。


「めんどくさいから本人に聞け。私の役目は、お前をあいつの場所まで連れて行くことだ」


「……そうですか」


 リアムは少し口元をヒクつかせながらも、引き下がることにした。なにせ、相手は神。とても敵う相手じゃない。


「じゃ、行くか」


 タラニスはすっと立ち上がる。それを見たアリサが待ったをかけた。


「あの、私達も連れて行ってもらえませんか?」


「ああ、いいぞ」


「即答!?」


 アリサは驚くが、タラニスにとっては本当にどうでもいい事だった。

 タラニスはただ、リアムをスイの元に連れて行ければいい。そこに誰がいようと、リアムがどんな状態だろうと、彼女には関係ない。

 極端に言ってしまえば、彼女はリアムが死んでいても構わないのだ。


 それが人間であるリアム達と、神であるタラニスの違い。


「ボクも一緒にお願いします」


「ん、じゃあ行くか」


 結局、この場にいる者全員でスイの元に行くことになった。


「……っと、獣人の嬢ちゃん。その力は私たち(・・・)には使わない方がいい。情報量が多過ぎてぶっ壊れるぜ?」


「……ごめんなさい」


 タラニスの真意を探るために心を読もうとしたルナが、気まずそうに頰を掻く。そして素直に謝った。


「はは、謝らなくていい。私はちびっ子は好きだからな」


 そう答えた彼女は、パチンと指を鳴らした。と同時に、リアム達の視界が切り替わった。





 〜〜〜〜〜





 最初に、リアムの視界に入ったのは驚愕するウリエルの姿だった。その視線の先には、タラニスを含めた四人の男女が立っている。その体から発せられるオーラは尋常じゃない。


「あなた様方は……」


 ウリエルが絞り出すような声を出す。それを受けて、最初に茶髪の女が答えた。


「私はキシャル。土神よ」


 キシャルと名乗った女は豊かな身体に太い縄のような物を巻きつけているだけだった。大切な部分だけが隠れている。リアムはサッと目を逸らした。


「俺は火神バハグ」


 燃えるような赤髪の男が答える。目は鋭く、値踏みするようにリアム達を見ていた。


「俺は風神エンリル。久しぶりだな」


 緑色の髪のエンリルは、リアムに手を振った。リアムはその顔を見て、この男とアザゼルを倒した後に出会った事を思い出した。


「神だったのか……」


 しかしあまり衝撃はない。むしろ、色々と腑に落ちた。


「それにしても、五大神がこんなにいるってことは……」


 リアムは呟く。そしてふと、隣を見た。アリサも、ミサキも、緊張で固まってしまっている。


「おーい。アリサ、ミサキ。大丈夫か?」


「う、うん。ただ、神様がこんなにいると緊張するよ」


「ですね」


「そう?」


 ルナだけはいつも通りだった。耳をパタパタさせて周り見ている。


 リアムの目の前には、洞窟の入り口があった。切り立った崖にある、裂け目のような入り口。そこから流れる冷気がリアムを撫でる。


「……あなたが、リアム・イガラシね?」


「はい」


 キシャルと名乗った神がリアムに尋ねる。リアムは目を逸らしながら答えた。その視線の先で、アリサが睨んでいる。リアムはそっと、逆を向いた。


「ここから先は、あなた一人だけで行ってもらえる?」


「……分かりました」


 リアムは心配そうな表情を浮かべるアリサ達に、安心させるように頷き、洞窟へ入っていった。


 洞窟を歩きながら、リアムはこの先にいる人物の気配を感じていた。懐かしい気配。

 以前までは、その正体は分からなかった。だが、今なら分かる。五大神のうち、四柱だけが揃っていた理由。それは、最後の一人が奥にいるからだ。


 リアムは、少し開けた空間に出た。光源は無いのに不思議と明るい。中央には一つのベッドが置いてある。そして、そこには懐かしい人影があった。


「久しぶりね。リアム」


「……師匠」


 綺麗な水色の長髪。誰もが見惚れるであろう美貌。そこにいたのはかつて、リアムに生きる術を与えた人物だった。


 こうしてリアムは、六年ぶりにスイとの再会を果たした。






どうも、成人した勢いで飲み過ぎてゲロゲロして酒が嫌いになりそうな剣玉です!

最近更新が滞っていてすいません。『転生した世界で』の方は書き貯めがあるんですけど、こっちは書き貯めがゼロなんですよ。ただの言い訳なんですが。

これからも頑張って書いていくんで、ぜひよろしくお願いします!

ちなみに、この章はあと3話ぐらいで終わります!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ