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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第5章 師、そして選択
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第83話 無言の町



 



「はぁ、はぁ、はぁ」


 フュラケー王国には問題なく着いた。だが、リアムの疲労が尋常ではない。理由はメンバーにある。


 アリサ、ミサキはいい。しいて言うなら、ウリエルもまだ分かる。だが、なぜかそのウリエルと共にいた三体の天使までいるのだ。恐らくはウリエルの部下だろうが、予想外の人数だ。転移は運ぶ対象が増えたり、大きかったりするほど消費魔力が多くなる。ゆえに、リアムは全身に酷い倦怠感を抱いていた。


「……おい、なんで他にも天使がいるんだよ」


「あはは、ボクがこの子達も掴んだからだね〜」


「………」


 リアムを掴んだウリエルが別に掴んでいた。それならば一緒に転移してきた理由は証明される。だが、それでは何も解決しない。

 舌を出して笑うウリエルに、ぷちりと、可愛らしい音を立ててリアムの何かが切れた。リアムから殺気が溢れ出す。


「お前……勝手なことばっかやってんじゃねえよ」


「え〜、好きにしろって言ったの君じゃ〜ん」


「俺に迷惑かかってるだろうが。殺すぞ?」


「ふ〜ん。君に出来るのかなぁ?」


 ウリエルが言い切ったと同時に、いや、言い終わる前にリアムは魔剣を顕現させた。そして躊躇うことなく、ウリエルを斬りつける。だが、ウリエルはいつの間にか手にしていた天剣でそれを受け止めた。


「わお、怒っちゃったね」


「………」


 鍔迫り合いの中、お互いの視線が絡み合う。その中で、リアムはウリエルの瞳になにか不思議な感情を見つけた。


「ウリエル様っ!」


 そこに他の天使が駆けつける。だが、その前にはアリサとミサキが立ちはだかった。


「……ねえ、ほんとになんなのあなた達?」


「これ以上は黙ってられませんよ?」


 2人とも怒り心頭らしい。それも当然、自分の夫がコケにされたのだ。怒らないわけがない。今にも襲いかかりそうだ。


「あ〜いいって、君達は引いてて」


 そんな緊張状態の中、ウリエルは天使達に向かってのんびりと、しかしどこか強い口調で言った。それを聞いた天使は素直に引く。


「……アリサ、ミサキ。お前らも落ち着け」


「でもっ」


「無視してたらいい。こいつらが何の役にも立たないのは知ってたことだ。ま、怒ってくれたのは嬉しいけどな」


 リアムはそれだけ言うと魔剣を消し、ローブを深く着直した。アリサとミサキもそれに倣う。


「行くぞ。とりあえず、王城付近を偵察しよう」


 国王であるパウルス・フュラケーは死んだ。リアムが殺したのだから間違いない。その後、リアムはヴィリレタル大陸に渡ったためにどうなったかは分からない。だが、その手を汚す覚悟は既に出来ていた。




 〜〜〜〜〜




「……静かだな」


 フュラケー王国の城下町を眺めるリアムはぼそりと呟く。誰も反応はしないが、心の中では同じことを考えていた。


 現在、リアム達は城下町の空にいた。リアムはもちろん空歩で、そして学生時代に習得したアリサと、勇者としての圧倒的なスペックで同じくすぐに覚えてしまったミサキも空歩で暗闇の中に立っている。ウリエルをはじめとする天使はその綺麗な翼で優雅に浮いていた。


「ここって、こんなに静かでしたっけ?」


 隣にいるミサキも呟く。かつて、リアムと共にこの国へ来たミサキも違和感を覚えているのだろう。もっとも、来た事がなくても違和感はあるだろうが。


「いや、ここはフュラケー王国の中心だし、夜でもかなり賑わっていたはずだ」


 城下町は静まり返っていた。それだけでなく、町中には明かりもほとんどないため真っ暗だ。誰が見ても異常に感じるだろう。


「……まあいい。とりあえず、兵器とやらをさっさと見つけて早く帰ろう」


 リアムはそう言って王城の方は向かおうとするが、


「ちょっと、ほんとに行くの?」


 そこに、ウリエルが待ったをかけた。


「あ?」


「やだな〜。なんで既に喧嘩腰なのさ」


「お前だから」


「あは、言い返せないや〜」


「で?なんか用か?無いんならもう行くが」


「あ〜そうそう……。もうお互いに隠し事は無しにしよう」


 ふと、ウリエルの纏う雰囲気が変わる。今までもたまに感じていたものだ。それを受けたリアムも真剣な表情を浮かべる。ここは嫌いだのなんだと言っている場合ではないと判断したからだ。


「で、お前はなにを隠してんだ?お互いって言われても、俺は何も隠してないぞ?」


「そうだよね〜。まあボクが隠してるだけなんだけどさ。君、感づいてるでしょ?」


「何に?」


「天使の中に裏切り者がいるってことに」


 知らなかったのだろうか。ウリエルのその言葉に、彼女の後ろで控えていた天使達が驚きの表情を浮かべている。だが、リアムはそれを無視した。


「ああ、だろうな。て言うより、知ってるんだよ。感づいてるとかじゃなくて」


「なんで?」


「ルシフェルを堕天させたのがそいつだから」


 それは予想外だったのか、ウリエルは驚愕に目を見開く。


「……どういう、意味?」


「そのまんまだよ。ルシフェルは堕天したんじゃない。堕天させられたんだよ。その天使によってな」


「そんな……いや、でも確かに……」


 ウリエルも当然ルシフェルを知っている。だから、彼が堕天したという話はにわかに信じ難かった。だが、リアムの言うことが正しいなら納得がいく。


「ルシフェルは今どこに?」


「さあ?それが、俺も知らないんだ。俺が魔界から帰った時にはもういなかった。だよな?」


 リアムの問いにミサキが頷く。アリサはルシフェルと会ったことがないため、呆けているが。


「いや、でもルシフェルがいなくなったのはお前ら(天使)が地上界に現れてからだ。もしかしたら知り合いでも探してんのかもな」


「……なるほど。ボクもルシフェルと話がしたくなってきたけど、ひとまず置いておこう。とりあえず今の話だけど、君も天使の中に裏切り者がいると知っているなら分かるはずだ」


「何がだ?」


「これが、罠の可能性だよ」


「………」


 グラム大陸の一連の動きが天使によるものだとすれば、この静まり返った町も天使の罠。フュラケー王国が先頭に立って戦争の準備をしているという情報さえもわざと流されたことになる。そう、例えばここに誘い込むための。そしてここで自分達を迎え撃とうとしているのかもしれない。


 そう続けたウリエルは、至って真面目だった。これがふざけていないのならば、ウリエルの言葉の信憑性は高い。なにせ彼女は七大天使。リアムよりも戦場を経験しているのだから。


「なら、どうする?このまま帰るか?」


「ボクはその方がいいと思う。君は納得しないだろうけどね」


「………」


 リアムは考える。確かに、今までのリアムならば構わず突撃していただろう。だが、今はアリサとミサキもいる。無茶は得策ではない。


「……ここは撤退しよう」


 リアムの出した答えに、一同は意外そうな反応をする。しかし理由は分かったのか、アリサとミサキは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「じゃあアマクサ村まで転移()ぶぞ」


「あ、そう言えばさ」


「……今度はなんだ?」


「聞くの忘れてたんだけど、君が知ってるその裏切り者って誰なのさ?」


 そう尋ねたウリエルの目には、リアムでさえ寒気を感じるほどの憎悪が渦巻いていた。ミトロンに直接支える立場の彼女には、裏切り者存在は許せないのだろう。


「ああ、確か名前はケル、っ!?」


 だがリアムが答え終える前に、何の脈略もないタイミングで一筋の光が炸裂した。突如空から落ちた光が、辺りを白く染め上げる。


「アリサ!ミサキ!」


「大丈夫っ!」


「私もです!」


 即座にその場から離脱したリアムの声に、同じく離脱した2人が反応する。見れば、ウリエル達も問題はないようだ。

 周りの無事を確認したリアムは、強い気配を発する存在に目を向ける。それ(・・)はリアム達より更に上空から、悠々と降りてくる。


「おい!クソ天使!」


「分かってるよ!」


 ウリエルが珍しく声を荒げる。だがそれも仕方がないだろう。


「まさか、君までいるとはね。しかも、大嫌いな悪魔風情と一緒に」


 目の前にはいかにも好青年といった風貌の天使がいた。真っ白な髪の毛は綺麗な七三分けに整えられており、縁の白い眼鏡を掛けている。見た目は弱々しいが、その体から発せられる武威は強大だ。それこそ、リアムやウリエルを凌ぐほどに。


 リアムとウリエルは、それぞれアリサとミサキ、部下の天使達を庇うように前に出る。


「お前は……そちら側(・・・・)につくんだな?サリエル」


 ウリエルが眼光で射殺さんばかりに睨みつける。しかしサリエルと呼ばれた天使は涼しい顔をしていた。


「ええ、そうさせてもらいますよ。私は元より、君のようにミトロンに対する忠誠や敬意などカケラも持ち合わせてはいませんからね」


「お前ぇぇぇぇぇぇ!!!」


「待てっ!」


 安い挑発に乗せられたウリエルを、リアムが止まる。


「あ゛!?」


「落ち着け!ここでお前に何が出来る!」


 理性を手放したかと疑うほどに目をギラつかせるウリエルに、リアムは叫び返す。


「ボクはあいつを!」


「殺すのか?」


「当たり前だ!」


「……無理だろ?」


「なんで君にそんな事が分かる!?」


「お前が天使で、あいつも天使だからだ」


 天使には悪魔のような階級はない。ただ、称号が与えられるだけだ。だから分かりにくいが、上位の天使はやはり同族殺しが出来ない。そこは悪魔と同じだ。

 そして、ウリエルは七大天使の一人。敵のサリエルとやらは恐らく自分達以上の強さ。


「でもっ!」


「お前の気持ちは分かる。でもな、ここは逃げるべきだ。違うか?」


「う……」


 違うと言えるはずがない。つい先程ウリエルがそう言ったのだから。


「分かった。でも、この場からどうやって逃げるの?」


 そう言ってウリエルはサリエルを睨みつける。サリエルは薄っすらと笑みを浮かべながらリアム達を見ていた。


「あいつはボクと同じ七大天使の一柱、サリエル。認めるのは癪だけど、ボクよりも強い。逃げるのは至難の技だよ」


「だろうな」


 リアムは後ろを振り返る。そこには圧倒的な存在サリエルに怯えるアリサとミサキの姿が。それを見たリアムは覚悟を決めた。


「……行け」


「え?」


「ここは俺が引き受ける。お前はあいつら連れて逃げろ」


「なっ!そんなこと……!」


 反論しようとしたウリエルはしかし、リアムの覚悟を見たのか口を噤んだ。


「言っとくけど、俺なんかよりお前の方がよっぽど重要な役目だぜ?なんせ、アリサとミサキの命運が掛かってるからな」


「………」


「それに、俺ならあいつを殺せる」


 リアムは魔剣を顕現させる。


「君は……」


「ほら、さっさと行け」


「……死んだら許さないから」


 ウリエルはそれだけ言うと後ろに下がり、逃げることを伝える。


「そんな!リアム!」


「リアムさん!私も戦います!」


 案の定、と言うべきか。アリサとミサキは反対する。だが顔色は悪い。分かっているのだ。自分達ではサリエルに敵わないと。


「……ありがとな」


 リアムは一瞬でアリサとミサキの背後に回ると、首筋を叩いて意識を奪った。そして2人をウリエルに預ける。


「目を覚ましたら、必ず帰るって伝えてくれ。頼むぞ」


「……分かった。ボクの命に代えても、この子達を安全な場所まで連れて行こう」


 リアムが頷くと、ウリエルは2人を抱えて飛び去っていった。部下の天使達もリアムに軽く頭を下げると、ウリエルの周りを囲むような布陣で飛んでいく。


「さて、そろそろいいですか?」


 彼女達の姿が豆粒ほどの大きさになった時、サリエルが口を開いた。


「お前……」


「君は今、なぜ私が彼女達を見逃したかと思っているのでしょう?当然の疑問ですね。ですが、私からしたら当たり前のことなんですよ。なにせ、私の標的は最初から君ですからね。この世界唯一の特異点、リアム・イガラシ君」


「……はは、男にモテるってのは、想像以上に気持ち悪いな」


 リアムはゆっくりと魔剣を構える。サリエルもいつの間にか天剣を構えていた。青と白の、芸術品のような剣だ。


「さて、殺るか」


 リアムは額に流れる汗を拭うと、不敵な笑みを浮かべた。






どうも、剣玉です。


なんと、この話がまさかの100話目でした!いつの間にかそんなに投稿しててんな〜って感じが凄いです!それもこれも、皆さんのお陰です!本当にありがとうございます!


これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




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