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天使は謳い、悪魔は嗤う  作者: 剣玉
第1章 大切なもの
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第9話 その笑みは

 

「もう!なんであんな事したの!?」


 決闘の後、リアムが図書館で本を読んでいると、アリサが遅れてやって来て突然尋ねた。


「そうは言われましても、決闘は断れないってルールらしいですし」


「それはっ!……そうなんだけど」


「すいませんでした。やっぱり、自分を賭けて決闘なんて良い気分では無いですよね」


 リアムは素直に謝った。まだ出会ってから日は浅いが、アリサが心優しい性格をしているのは分かっている。


「それもそうだけど!そんな事より私は君の心配をしてたの!」


「俺の……ですか?」


 意外な言葉にリアムは驚く。


「だってそうでしょう?相手は真剣を持ってるのにリアム君は木剣だったし、私のせいで怪我しちゃったらどうしようって!」


「いえいえ、もし怪我してたとしてもアリサさんのせいでは無いですよ。アリサさんがいない時に決闘を申し込まれましたし」


「だからって関係無いって割り切れないよ……」


 アリサは本気で心配してくれていたようだ。


「分かりました。では、おあいこって事でどうです?」


 リアムは笑いながらそう言った。


「……分かった。そういう事にしといてあげる」


 渋々だがアリサも納得してくれた。リアムは胸をなで下ろす。


「それにしてもリアム君ってほんとに強いんだね。大剣を持ってて、しかも身体強化をかけてる相手を魔法も使わずに素手で瞬殺しちゃうなんて」


「まぁ動きが単調でしたからね。そんなに難しくありませんでしたよ」


「既にこの学校の生徒の中で1番強いんじゃない?」


「まぁ……それぐらいじゃ無いとダメですよ」


 そう、それぐらいは当たり前じゃ無いといけない。なんせ自分は悪魔を殺すために力をつけてきたのだから。


 リアムはここへ来た理由を再確認した。復讐のため。普通の日常を過ごしているようだが、一度たりとも忘れてはいない。


 現に毎日悪魔について調べ、夜皆が寝静まってからはスイと暮らしていた森へ行って1人で鍛錬をしている。


 アリサは、何気ない言葉に反応したリアムの雰囲気が、急に変わった事を感じた。そしてそれは悪寒に似た、だがしかしそれとは違う"なにか"だった。


「リアム君……?」


「どうしました?」


 だがアリサが呼びかけると、そんな雰囲気もすぐに霧散した。それでもアリサは一瞬感じたそれに危うさを感じた。


「ううん、なんでもない。ところでさ、リアム君も疲れてるだろうし、今日の練習は無しにしよっか?」


「……?別に大丈夫ですよ?」


「いいのいいの!また明日からお願いね?」


「はぁ。分かりました」


 アリサは一方的にそう言うと、さっさと図書館から出て行ってしまった。リアムはその後ろ姿を眺めながら首を傾げ、また本の続きを読み始めたのだった。



 〜〜〜〜〜



 その日の晩、リアムはいつも通り鍛錬をしに森へ来ていた。鍛錬と言っても素振りをしたり、魔力を練ったり、瞑想したりなど簡単なものだ。


 だがその日は"いつも"と違った。気配を感じたのだ。嫌な気配を。そしてリアムは直感的にそれが何なのかが分かった。


 リアムは地を蹴って森を駆ける。その気配の元へ猛スピードで迫っていった。


 そこにいたのは異形の姿をした生物だった。原形は人型だったのだろうが、頭が無く、腕が生えるべき場所には触手が6本生えている。それは紛れもなく悪魔だった。


「悪魔ぁ……」


 魔力の高さから中級辺りだろうか。それは明らかに目当ての相手では無いのだが、リアムにとってそんな事は関係無かった。


 相手を悪魔と認識した瞬間、胸の奥からドロドロとした黒い感情が溢れ出る。リアムはその感情を嬉々として受け入れた。


 悪魔がリアムに気付くと、触手を2本伸ばしてきた。リアムは素振り用の木剣に魔力を流してその触手を切り捨てる。


 続いて4本の触手が迫り来る。それらは思ったよりも速く、リアムは木剣を折られると一度距離を取った。


「ク……ククククク」


 リアムは嗤い声を洩らす。高揚する気持ちを抑えられない。


「来い、ティルヴィング」


 リアムの右手に黒い片手剣が現れる。刹那、リアムの姿が消えた。気付けばリアムは悪魔の背後へ回っており、気付けば悪魔の触手は全て切り落とされていた。


 悪魔が蠢く。悲鳴を上げたいのか、しかしそのための口が存在しないため音は出ない。


「死ね」


 リアムはそう一言だけ呟くと右手を振り下ろす。悪魔は真っ二つに切れて地面に倒れた。


 リアムは黙って剣を消した。そして最後に悪魔の亡骸を一瞥し、背中を向けて去って行く。


 12歳の少年が1人で中級悪魔を圧倒する。それは確かに人類史上初の偉業だった。


 だが1人だったからこそ、誰も、そしてリアム自身でさえも気付かなかった。


 去って行くリアムの顔が酷く暗く、そして醜い笑みを浮かべていたことに。



 〜〜〜〜〜



 "それ"は去って行く少年の姿を遥か遠く、違う次元から見ていた。


「クク……見つけた」


 "それ"はそう呟くと、3つの邪悪な笑みを浮かべた。



 〜〜〜〜〜



 翌日、学園生は全員が中央広場に集められていた。校舎に囲まれるようになっている中央広場はかなりの広さがある。それこそ、全学園生が集まっても少し余裕があるほどに。


 そんな中央広場で学園長のラルフが注目を集めていた。


「皆さんに集まってもらったのは注意喚起のためです。今日の早朝、能天使クスシア様から、マグナ帝国に隣接している"死の森"で中級悪魔の死骸が発見されたとの報告がありました。誰が倒したのかは分かりませんがこの近くに悪魔が出たのは事実です。しばらくは出来るだけ1人で外出しないよう、そしてもしも悪魔に遭遇した場合は即時に逃げるようにして下さい。以上です。解散」


 ラルフの言葉に生徒達はざわつく。悪魔は基本的に魔界で過ごし、地上界に出てくることはほとんど無い。その悪魔が自分達の近くで、しかも死んでいる状態で発見されたのだ。もはや何がなんだか分からない。


 だがその中で唯一真相を知っているリアムだけが、


(あ〜死体は隠すべきだったか。悪魔と戦ったのは初めてだから興奮してたし、全然考えてなかった。それにしてもここで天使の名前が出てくんのか。天使の事も調べるべきかな。つーか死の森ってなんだよ。俺そんな物騒なとこに住んでたの?とりあえず次師匠に会ったら1発殴ってやろう)


 などと呑気に考えていた。




まだ今日中に何話か投稿します。

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