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宇宙人の世界

 遥か遠くで高層ビル群が倒壊していた。周りにあるマンションや民家も悉く崩壊しており、まともに建っている建造物は皆無だった。


 瓦礫が地面を覆いつくし、灰が空中を支配する荒んだ世界。曇天の空がそれをより一層引き立てている。


 水島玲は変わり果てた光景を見ながら、ただ単純にこう思った。

 ――ここ、どこ?


 さっきまで高校にいたはずだが、気が付いたらこの場所に立っていた。

 制服を着ていることから、高校にいたことは確かな事実のはずなのだが……。


 昼休憩の終わりに岡崎丈男と別れてからの記憶が無い。その後に何かが起こったような気がする。が、たとえ何が起きようと、こんなに突飛な状況に陥ることはまずあり得ないだろう。


 水島は周囲を見渡す。

 何もかもが崩落していて、人間は一人も見当たらなかった。

 彼はただただ困惑し、当惑する。段々と不安が胸中を支配していった。


「驚いているのかい」


 後ろからの声に水島はビクッと肩を震わせ、振り向く。


 そこにいたのは、二本足で立つ身長二メートルほどの生物だった。見るからに人間ではない。体面を爬虫類のような鱗がびっしりと覆っている。体毛と呼べるものが一切存在していなかった。


 うわああ、と水島は短い叫び声をあげた。それから急に足の力が抜け、盛大に尻餅をついてしまう。


 彼の目の前にいる生物は、顔にある四つの眼を動かし、周りの風景を見回していった。


「ようこそ。私の世界へ」


 男のような低い声を出し、謎の生物は両手を広げた。


「世界……?」


 水島は怯えた表情を見せる。


「そう。ここは私の世界だ。私が作った、私だけの世界。故に私の思い描いたものしかここには存在しない。動物も植物も無機物も何もかも私の考え一つで、創造されたり、消滅したりする」


 謎の生物は水島を指さして話を続ける。


「だがキミは何故かそこに座っている。私はキミという存在をこの世界に招いたわけでもないし、侵入を許可した覚えもない。キミは私の力に無理やり干渉してきた」


 水島は謎の生物の言葉に不穏な雰囲気を感じ取った。襲い掛かってくるのではないかと思った。

 しかし、水島の考えとは裏腹に謎の生物は拍手をし始めた。


「素晴らしい。私の定めたルールを破り、この世界にやってくるとは、なかなか見どころのある地球人だ。歓迎するよ」謎の生物は叩いていた手をおろす。「ああ、すまない、申し遅れたな。私はロウグという者だ。キミ達地球人には、異能力を与えた宇宙人と言ったほうがわかりやすいかな」


 水島は目を見開いた。

 今、世の中にあふれかえっている異能力。それを五十年前に人々にばらまいた張本人。


 目の前にいる、ロウグと名乗った生物が本当にその人物なのかはわからないが、容姿からして宇宙人ということは信用できた。


 ただ、たとえそうだとして、なぜ目の前にいるのだろうか。その生物は米国政府に捕まったはずだ。以来、誰もその姿を目撃した人間はいない。どうしてここにいる?


「ここは精神世界さ。現実じゃあない」


 ロウグは水島の疑問に答えるかのように話し始めた。


「現実の私は身動きが取れない状況に陥っていてね。とても辛い状態なんだ。だからこうして空想の世界を作り、暇つぶしをしているというわけだ」


「なら、僕も……?」


「その通り。キミも実際の肉体じゃあない。言うなれば精神体というやつかな」


 比較的穏やかな口調をロウグは心がけているようだった。水島は彼に敵意がないことを感じ、それでもまだ震えた声を出す。


「でも、なんで僕はそんな世界に……?」


「たぶん、波長が一致したんだと思う。私の世界が放つ波長とキミの異能力が放つ波長がね。というかその口ぶりだと故意に私の世界に入ってきたわけではないのか……」


 波長? 水島は戸惑いながらも訊いた。「じゃあこの世界も異能力で作ったということ?」


「ちょっと違うかな。まあ、キミたち地球人が認識している異能力というものではない、という意味だけどね」


 わけが分からなかった。だが理解しようとも思わなかった。頭が混乱して、情報を整理することさえ放棄していた。


 水島は眼前に広がる悲惨な景色を改めて直視する。


 突然、「美しいだろう」とロウグが言った。「崩れた建物。舞い上がる大量の塵。生物の香りさえしない灰色の空間。すべてが私の理想だ。地球にある風景を模して作ってみたんだ。満足のいく出来栄えだと私は思っている」


「……」


 あまりの美的感覚の違いに水島は呆然とした。どこを見たとしても、綺麗だと褒めていい場所などありはしなかった。それどころか、現実で見慣れている場所が巨大災害に遭遇してしまったあとのような感じがして、少し気分が悪かった。


 悪趣味だな、と水島は思った。


 すると突如として、水島の体が一瞬透明になった。


「時間切れみたいだね」


 ロウグが冷静な口調で言った。

 それから間もなく、水島の体は消え始める。


「また会える日を楽しみにしているよ。いつになるかわからないけどね」


 ロウグの言葉を受けて、水島は頭に浮かんだ疑問を思い切ってぶつけてみた。


「なんで人類に異能力を与えたの?」


 ロウグがその張本人とは限らないが、関係者である可能性は十分にあり得る。


「目的があるのさ」ロウグはあっさりと答えた。


「目的って?」


「それは……」


 ロウグの口が動く。しかし声は水島の耳に届かなかった。その前に水島の体は完全にロウグの世界から消えてしまったからだ。



 目を開けると白い天井が映った。水島は微かに眼球を動かす。するとガラス窓の向こうでこちらを心配そうに見つめる男がいた。


 岡崎丈男だと水島は瞬時に気付いた。さらに、周りには何人かの白衣姿の人間がいた。


 自分の口に人工呼吸器が取り付けられていることにも感づき、水島はおぼろげな思考で、ここは病院か、と思った。


 さっきまで不思議な夢を見ていた気がするが、全然思い出せない。

 水島は瞼を閉じて、もう一度眠ることにした。

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