怯える兎 side魔王
また人間が私を倒しに来るらしい。
殺すのは楽しいから、まぁいいとして、兎が心配だ。
使用人が気をきかせて、部屋に結界を貼ったようだが、初めてのことで怯えているかもしれない。
遊びは早く終わらせて、兎に会いに行こう。
そう決めた私の横で、ムラタが人間の魔法を相殺しそこねた。
相変わらず、修行の足りない奴だな。
ムラタを睨んでいた隙に、形勢不利と見たのか、人間が魔法を乱打しはじめた。
おい。危ないじゃないか、兎の部屋に当たったらどうするつもりだ。
さっさと爆破させようとしたその矢先、その一つがまさに兎の部屋に当たった。
凍り付く私。
結界のおかげで部屋は何事もないが、部屋の中にいる兎から、今まで感じたことのない恐怖が流れてきている。
我が分身をその場に残し、瞬時に移動する。
兎は自らを傷つけ、血を流していた
保護し、治癒しながら、抱きしめ、魔力で眠らせる。
ここまで怯えるとは一体・・・
兎の過去が気になる。調べることに決めた。
起きても興奮していたら、記憶を削除しよう。
そう考えていたが、兎は目をパチクリとさせ、辺りを見回した。
「ここは?」
「私の部屋だ」
ベッドに腰掛け、兎の手を取る。
「もう・・・平気か?」
「うん。迷惑かけて、ごめんなさい」
謝る兎がいつも以上に小さく見える。
「謝るのはこちらだ」
遊んでいたとはいえ、兎を守れなかった。
「私・・・、おかしかったでしょ? たまに、たまにね、なるんだ」
「そうか」
何も言えない。兎の苦痛は全て取り除きたいが、それが兎の望むことなのかがわからない。
「でも、もう、大丈夫。あの、その、勇者様はどうなったの?」
ゆうしゃさま、それが人間だとわかるのに少し時間がかかった。
「やっぱり、死んじゃった?」
兎のことしか考えてなかったから、末路を知らないが・・・
「おそらく」
「そう、だよね」
項垂れる兎。
「お前に被害があったのに、人間を庇うのか?」
そういう気持ちはないのに、厳しい声が出てしまう。
「うん・・・。やっぱり、仲間、だし」
なかま。
「そうか」
立ち上がる。
今日ほど人間との差異を感じたことはないな。