魔王の魔法
朝起きると、ベッドが広くなっていた
身体が小さくなったのかな?
布団もふかふかで、だけど右側に壁が・・・壁が・・
「むぎゃあ!」
人生で発したことのない叫びが出て、飛び起きる。
「な、な、なんで」
「どうした?」
壁がのそりと起き上がる。
なんで魔王が隣にいるんだ? しかも、は、裸で!
固まった私に、魔王はふっと笑って、
「おはよう」
片手で抱き寄せて、おでこにちゅ、をした。
「で、で、でこ!」
「何語だ? それは」
「おはようございます」
メイドの先輩たちが次々きて、魔王に服を着せる。
と、とりあえず私も仕事に・・・
「どこへ行く?」
「部屋」
「ここじゃないのか?」
「違う」
ダッシュで逃げた。
床を箒で掃きながら、状況を整理する。
昨日は確か、ぐるぐる考えながら、いつのまにか寝てた。
そのあと、知らない間に起きて、魔王の部屋に?
いや待てよ。
魔王は「一緒に寝るか?」って聞いた。
私が嫌だって言わなかったから、あの魔法で魔王の部屋に呼んだんだ。
「卑怯な!」
「どうした?」
ふわっと風が吹いて、私は魔王に後ろから抱きしめられていた。
「ま、ま、また、魔法!」
「魔法?」
「離せ、仕事中だ」
「お前の仕事は私を喜ばせることでは?」
またしても理解不能の言葉に、脳が追い付かない。
茫然と魔王を見上げると、魔王は横を向いて、ちょっと笑い、
「言ってみただけだ」
と軽く片手を上げた。
じょ、冗談とかやめろ!
「お前、名前は?」
え?
「ここで働いてるのだろう?」
そこで私は状況がやっと飲み込めた。
つまり、魔王は、私が命を狙った相手だと気づいていない。
ここのメイドさん、だと思っている。よし。
「リンです」
しまった! つい本名を言ってしまった。
なぜだ? これも魔王の魔法か?
「リン。私はカイだ」
「カイ」
「あぁ」
頷いて、魔王はまた私を抱き上げる。
「忘れるなよ」
「下ろせーー」
魔王は仕事の邪魔ばっかりする。