魔王様の嘆き side魔王
「南の村から、貢物です」
侍従のムラタの言葉に、私は辟易した。
「また変な虫か。他の物を用意しろと伝えろ」
「なら、捨てますか?」
「一応見るが」
魔王は虫好き。どこでそんな噂が流れたのか・・
大きな箱が運び込まれてくる。
私は奇妙な違和感を覚える。
「おい」
「はい?」
「人間が入っているが」
「え?」
ムラタは気づかないらしい。
それはそうだ。あれには魔力がない。
確認しようとムラタが近づく前に、箱の蓋が開き、小さな人間が飛び出て来た。
「魔王、覚悟ォォ!」
ムラタが制しようとするのを止める。
小さな人間を近くで見たくて、痛みのないようにその手をそっと掴んだ。
髪は短くしてあるが女だ。
白くてぷくぷくしてる。瞳は茶色で丸い。
何だ。この気持ちは。
何なんだ。この湧き上がってくる気持ちは!
危うく、抱きしめてしまいそうだったが、目の前の娘は、私を殺す気満々という顔をしている。
どうしたものか・・。
思案していると、娘が震えだした。
まずい。怖がっている。
「何だ、小娘じゃないか」
一度、兎を逃がすことにした。
「また来い」
まぁ、来なくても迎えに行くが。
ムラタが驚いた顔で私を見ている。
「何だ」
「どうしたんですか?」
「何が」
「今、殺されようとしてましたよね?」
「まぁな」
違う意味で殺されたな。
「何で逃がしたんですか?」
「・・・捕えるため?」
ムラタは絶句した。
まぁ、ムラタにこういう機微はわからんだろうな。




