消えていく兎 side魔王
半日ぶりに兎に会えた。
抱きしめてグリグリしようと思った兎は、離れる前と随分変わっていた。
「嫌なにおいがするな」
人間が接触してきたか。
消滅させるのが遅かったかと悔やんでいると、
「あ、あの、お茶を入れてみました」
兎がティーカップを差し出して来た。
なるほど。これに薬でも入れているわけか。
私には効かないんだが・・・見ると、兎は強張った表情で、自分の分のティーカップを握っている。
案ずることなど何もないのに。
お前が入れたものは、例えそれが泥水でも飲む。
中身を一気にあおり、
「お前はお茶を淹れるのも上手いんだな」
感想を言えば、兎は嬉しそうな顔をしてから、お茶を飲む。
それを見ていた私は、言い様のない不安に襲われた。
何というんだろう。兎が消えてなくなるような・・・
私が席を立ったのと、兎が咳き込むのは同時だった。
「リン!」
抱き起すと、兎は血を吐いていた。
「誰か!」
「ゴホッ・・・汚しちゃって、ぐ、ごめん、なさいっ・・・」
お前はこんな時まで、他の心配をするんだな!
「申し訳ありません。力が及びません」
ムラタの見立てに、わかっていると告げる。
この状況は私でも治せない。
兎が飲んだ毒は、兎には強すぎて、その命は尽きようとしていた。
させてなるものか。
「魔方陣を」
短く告げて、腕をまくる。
「何を」
「魔族にする」
リン。すまない。お前の承諾もなしに、私の血を与える。
「・・・かしこまりました」
ムラタの逡巡も一瞬だった。
それでこそムラタだ。
自分の側近を見直しながら、腕に歯を立てる。
頼むから。頼むから、生きていてくれ。