プロローグ
私は勇者になりたい。
お父さんとお母さんを殺した魔王を倒したい。
そのために一生懸命努力したけど、剣も、魔法も、体術もできない私。
何の役にも立てないまま、無意味に死ぬんだと思っていた。
それが、今。こうして魔王と対峙して。
倒すチャンスがやってきた。
ダメダメな私だけど、傷一つくらい負わせられるかもしれない。
「魔王、覚悟ォォォ!!」
腰にさした短剣を掴んで、全身で走る。
黒くて長い髪。赤くて細い目。
ああ、これが魔王なんだなって思ったら、手をつかまれて、魔王の目の前に吊り下げられていた。
走っていた、はず、なのに・・
魔王の発する威圧感みたいなもので、魔力のない私でも、恐怖で身体が震える。
終わりなんだ。
直感した。
私は、ここで死ぬんだ。
「まだ小娘じゃないか」
発せられた魔王の声もまた、私の身体を怯えさせ、心よりも早く、身体が先に死を予感していた。
なのに、魔王は。
「また来い」
ぽいっと放り投げて、投げられた私は、元居た宿に戻っていた。
意味がわからない。
頭が真っ白のまま、宿のおばさんが
「おやおや。もう戻ってきたの? お帰りね」
と言うのを、ぼんやりとしたまま聞いている。
魔王のもとから、生きて帰れる人間なんていないよね?
私・・・なんで帰れたの?