実況者はピンチです
前より短いし、少し終わり方が雑になってしまいました…
前回と同じく、このお話は某動画サイトネタを多く使っていますので苦手な方は閲覧をお勧めできません。
「本当に行かなくていいの? 服とか、参考書買いに行くのに」
「着れる服はまだ何着もあるし、参考書も間に合ってるから別に買わなくていいって。俺のことは気にしないで女同士、仲良く行ってきてよ母さん」
「そうよ。本人もこう言ってるんだし、お兄ちゃんなんか放って置いて早く行こうお母さん。あたし、今度友達と遊びに行くから新しい服欲しい」
少々我が妹君――結衣の発言に引っ掛かる箇所があるし、作った笑顔が引き攣ったがその調子だ結衣。
まだ俺だけをのけ者にして出かけるのがいやなのか、出かけることを渋る我等の母親を連れて、頼むから――
「本当にいいから。二人で楽しんできて」
家で俺を一人にさせてくれ。
俺の止めの笑顔の一言が効いたのか、それとも俺の願いが結衣に届いたのかは知らないが凄まじい力で母を引っ張って……いや、引きずってか。
引きずっていった結衣のお陰で強引に連れて行かれた母親と妹を笑顔で見送り、閉められたドアにしっかりと鍵を閉めて、ようやく一息。
「やっと一人になれた」
俺以外誰もいなくなった家に思わず零れた言葉が大きく響く。
前に実況を撮ったのは一体どれくらい前だったか。
少なくとも一週間以上は期間が空いてるのは確かだ。
仕方ないから前パート用で撮った途中で結衣に怒られたものを時間稼ぎとして投稿したが尺の事情と、取り直す時間がなかった為に泣く泣く怒られた部分のカット無しの動画になってしまい、どうなるかと心配していたのだけど。
「何で結衣に人気出んのかな……」
あの俺に対する罵声ともとれる発言が、男のリスナー達の心を掴んだのかその動画を投稿した後で数日立ってから見てみたとき再生回数、コメント数の量が一番伸びていたのだ。
今度こそ俺は何かやらかしてしまったのかと恐る恐る動画を開いてみれば。
「アイツが可愛い、ね……他者から見れば可愛い部類に入るのか」
動画の前半部分はまあ、いつも通りの流れでコメント数もそんなになかったのだが件のあのシーンになると出るわ出るわ『可愛い』と我が妹を褒めるコメントが。
あの罵声のどこに可愛いと思える要素があったのかが未だに分からない。
しかも、何でコラボで実況しないのかというクエスチョンマークがついた顔文字付きのコメントがでる始末。
逆に何で妹とコラボするって恐ろしすぎる案が出たのか俺が聞きたいよ。
あと、たった一言でリスナーの心を掴んで一気に人気が出た方法も聞きたいところ。
溜め込んだ息を長く吐き出して暫く使わなかった、いや。
家族の目があって使えなかった自分の愛用パソコンを立ち上げてゲームを起動する。
「はい、どうもエレキです。それでは、前回の続きからやっていきましょう!」
一応は前録ったときとかなり間が空いているから、違うデータで最初からやり直して何があったのかを確かめたから分かるけど。
確か前回俺はかなり面倒なところで終わってしまったはず。
「うわー……やっぱりここからか」
結衣が来た時に咄嗟に強制終了してしまったから、ゲームの進行具合は例の部屋の中。もしかしたら人形が動き出すんじゃないかと思って粗方部屋を調べ終わった後セーブをしていたのだ。
と、いうことはまた追いかけてきそうな予感しかしない人形が動くシーンを見なければいけないってことだ。
初っ端から気が滅入るが、やらないとゲームが進まない。
もうこれは腹を括るしか……
「それじゃあ、行きます!」
声で勢いをつけてボタンを押す。
二回目だからか例の人形が動いたシーンでもそこまで取り乱すことはなく、スムーズに操作して部屋から飛び出す。
ゲームの音楽がちょっとおどろおどろしいものに変わっているってことはもう、確定だろ。
「奴が……アイツが追ってくる」
震える手でキーを押して廊下端の階段まで走らせる。
「あれ、来てないですね。てっきり俺、あの人形が追いかけてくるかと思ってたんですけど。あ、セーブしておかなきゃ」
音楽は止まないものの、何かが追いかけてきているような気配はない。
俺の考えすぎだったかと、とりあえずはその場でセーブをしてしっかりと記録を残しておく。
「さて、と。追いかけてこないならそれはそれでいいとして、さっき手に入れた鍵の食堂へ行きましょうか。食堂ってことは多分一階にあると思うんですけどね」
食堂が二階や三階にあるなんて家というか屋敷はそうそうないだろう。
恐怖を誘う音楽がちょっと怖くて、音量を少しだけ落とした後にそのまま目の前の階段を下りる。
一階は確か二部屋くらい鍵がかかっている部屋があったからその二部屋の内のどちらかの筈。
そして、確か片方の部屋は個室くらいの広さだったから食堂はありえない……とすると、
「一階の西北の奥にあった部屋かな」
これであってなかったら編集して今の発言消しておこう。
暗い調のピアノの音楽が突然大きくなったり、途切れたりするのにびくつきながらも目安をつけていた部屋に辿り着く。
このゲームは自動でアイテムが使われるので、いちいちアイテム蘭を開かなくてもいいという便利機能があるがもしここで俺がこの部屋に入ろうとして鍵が使われなかったらこの部屋はハズレ。
尺の都合上カットになってしまう。
「――よしっ入ります」
意を決してキャラクターを動かすと、ちゃんとアイテムの鍵は使用されて食堂内へ入ることができた。
俺の読みが当たっててよかった。
これでここまでのをカットせずに済む。
「いやー、今回は結構サクサクなんじゃないですか? もしかしたらあっさりクリアできちゃ――嘘だろ」
何なんだ。
調子に乗ってふざけたこと言ったからその罰なのかこれは。
思わずキーから手を離して粟立った腕を擦る。
自分の読みが当たって意気揚々と食堂へ入った俺を出迎えてくれたのは、小さい女の子が好きそうなブロンド髪のゴスロリドレスを着たかなり大きい人形……つまりは客室で椅子に座ってていかにも追いかけてきそうだった人形が深く目を閉じた状態でまた、今度は食堂のイスに座っていたのだ。
気付けば、音楽もどんどん低い音になっていって音量も大きくなっている。
ここまできたら最早嫌な予感しかしない。
「ま、まずは部屋を調べてその後に人形を調べ……るしかないのか」
調べると言っても食堂というわりにはテーブルとイスくらいしかないから、調べても恐らく意味は無い。
分かってはいるけど、どうしても人形を調べたくなくて俺は周りのテーブルやイスの一つ一つを細かく調べていった。
結果は言うまでもないけど。
「やっぱ調べなきゃダメなのか」
人形から少し離れたところでセーブをした後、おそるおそるその人形に近づいてみる。
もしかしたらという淡い期待をこめて探索中で見つけたホラーゲームお馴染みのライターやドライバーを使ってみたが、残念ながら人形は燃えるわけでもなくドライバーでズタズタにされるわけでもなく。
変わらない姿のまま、静かに鎮座していた。
仕方ない、時間も無いことだし進めるしかないか。
人形を調べた後、何が起きてもいいように移動キーから手を離さずにエンターキーを――押した。
「……何だよ。何も起きないとか、今までビビッてた俺は一体どうしたらいいんだ」
拍子抜けにも程がある。
ここまで盛り上げられたっていうのに何も起きないってどういうことだ。
しかもここで何も起きなかったらゲームが進まないから探索し直しだよどうしよう。
「カットだな、これ。カットだわ」
それしかない。
何かイベントが起こるまでカットしておこう。
どうせまた他の部屋に行ったらこの人形がいて、脅かしてくるんだろう。
霊が出た場所に何かがあるっていうのはホラーゲームの鉄則だ。
軽く息を吐いて、部屋を出ようとすると何故か固まる画面。
既視感ってやつだろうか。
なんだか前にもこんなことあった気がする。
確か前はこうやって画面が止まって、ついでに音楽も止まって。
今みたいに主人公の周りに暗い影が差して、徐々に画面が上に上がって人形が
「うわぁああああ!!」
「ただいまーって、何叫んでんのうるさいってかきもっ」
悲鳴上げた瞬間に結衣に罵られた。
既視感じゃなかった……何故かお決まりのタイミングで現れる妹に方を落としながらも、さり気無くゲームの強制終了をしようとしたら
「あれ、何でゲームしてるだけなのに他にもアプリだしてるの?」
「あ、え、えっと」
画面を覗き込んだ妹に気が遠くなった。
ああ、もうどうしよう。
実況者は、ピンチです
恐らく、次の話でこのシリーズは完結すると思います。
ここまでの閲覧、ありがとうございました。