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トラウマ

 俺は連絡を受けてすぐに病院へと駆けつけた。

 天草東病院。俺の高校のすぐ近くにある。

 そんなにでかくない病院なのだが、ここらへんで言えば一番大きい病院である。

 病院内に入り、近くにいた看護師を呼んで妹の病室へと案内してもらった。

 病室の扉を勢いよく開ける。

「明梨……!!」

 部屋の中にはいくつかのベッドが並んでいて仕切りのカーテンがいくつも並んでいた。

 少し声が聞こえる。他の人の見舞客だろう。

 俺は一番奥にいる明梨の元へと駆け寄った。

「あっ……お兄ちゃん。来てくれたんだ……」

 ベッドに寝ていたのはいつもと変わらない明梨だった。顔は相変わらず覚えられないが。

 いや、足が包帯でぐるぐる巻きになっている。いつもと変わらないのは口調だけだ。

 ただ俺が思っていたほどけがはひどいもんじゃない。どうやらチャリンコ同士の衝突事故だったらしい。(あの電話の相手、交通事故とか大げさに言いやがった……)

 でも、でも俺は――

「お兄ちゃん、あたしケガしたんだよ? はやくあたしの手握ってよ!!」

 なんで明梨は事故にあったのに、いつものテンションでいるのか。いや、まだこれは許せた。

「おまえ……よかった……よかったよ、ほんとに」

 とにかく無事でよかった。もうそれだけで心がほっとした。こいつの次の発言を聞くまでは。

「なんでそんなに心配してくれてるの? 嬉しいからいいんだけど」

 俺はなぜかカチンと来てしまった。

「おい……!! ふざけんなよ……! どんだけ俺が……心配したと思ってんだよ……!!」

()()、落ち着きなさい」

 母さんが俺に静止を呼びかける。だけど、とまれなかった。

「おまえまで……俺を一人にする気かよ……」

「おにい……ちゃん……?」

 明梨が心配そうに俺を見ている。そこまで気が回らなかった。

「蒼介。あんた一回家に帰りなさい」

 母さんが明梨の方を見たまま俺にそう言った。

「母さん。母さんも母さんだよ。もっとちゃんと明梨を見ていたら……こんなことにはならなかったのに……!!」

「蒼介。いい加減にしなさい。他にも患者がいるのよ」

 俺は我に返り、病室を見渡した。

 他の見舞客が俺のことを不思議そうに見ていた。

 あぁ、そうか。ここは病室だったな。

 やっと事態を把握した俺を見て母さんがため息をついた。

「あんたの言いたいことはわかってるわ。だけど、ここは病室。うるさくしないで今日のところは帰りなさい」

 はぁ……やらかちしまったな。

 俺は明梨を一目見たあと、再度、病室を見渡した。

「……お騒がせしてすみませんでした……」

 そう言ったあと俺は無言で病室をあとにした。

 俺は病室を出たあと、頭の中でずっと誰かの声が鳴り響いていた。

 どこか懐かしい、女の子の声。

「おにいちゃん!!」

 あぁ……俺はなんてことを……。ある女の子の存在が俺の脳内を満たしていく。

 俺は一階へと降りる階段の方へ向かおうとした。その時、目の前にだてみち先輩とだいきちがいた。

「……先輩、だいきち……」

「蒼介。明梨ちゃんは大丈夫か」

 いつもと変わらないイケメンな顔を向けてくる。てか、なんで明梨がケガしたこと知ってるんだ?

「はい。足折れただけっぽいです」

「そうか……ならよかった」

「先輩……俺、なんか、もう……わかんないです……」

 そんな俺にだてみち先輩は優しい顔を向けてくれた。だいきちは俺を顔色変えずに見ている。

「おまえはそれでいいんだよ。いい兄ちゃんじゃないか」

 俺はそんな優しさにただ甘えることしかできなかった。

 俺は今、どんな顔をしてるんだろう。さっぱりわからなかった。でも涙がとまらない。ただただとまらない。

 俺はその場で泣き尽くすしかなかった。


         

     ✽✽✽


 

 病室の扉を開けた。普通の扉なのに、どこか重々しく腕に感じられた。

 俺はそうすけを泣き止ませて家に帰らせたあと、明梨ちゃんの病室へと向かった。

 俺はそうすけのことを深く知っているようで全然知らなかったことにさっき気づいた。

 こんなにずっと近くにいたはずなのに、何もわかっていなかったことが歯がゆい。

 そんなことを考えながら扉を開けた。

 中に入ると、ほかの患者の見舞客の視線を集めたが、学校の生徒と同じように俺の顔を見るや否やすぐに視線を外された。そして横目でちらちらと見てくる。学校でもこうだから慣れきっている。悪い気分ではないな。

 ゆっくりと明梨ちゃんの元へといった。

「あ! お兄ちゃんと同じ部活の人だ」

「こんにちは。お見舞いにきたよ」

 あまり深い関係はないが顔はお互い知っている。

 そしてその明梨ちゃんのベッドの横でこちらをじっと見ている人がいた。長髪で茶髪がかっている。なんかどこにでもいそうな雰囲気……。

「こんにちは。お母さん」

「あら、君たちはたしか……そうすけの部活で一緒だった子ね」

 今、俺と話しているのはそうすけの母親だ。どうやら優しいお母さんキャラを作っているようだが俺の目はごまかせない。笑顔を引きつらせていないだけましだけど。まぁ、当然本人にそんなこと言えるわけないけどな? 

 だいきちも軽く礼をした。当然こいつもこのことに気づいているだろう。

「お母さーん」

「なぁにぃ? 明梨ぃ?」

 待て、ダメだ、一瞬吹きそうになったじゃねえか。

 目が笑ってねぇぞこの母親!!

「眠たいから寝ていい?」

「いいわよ」

 そういったあと明梨ちゃんはすぐに眠りに落ちた。俺たちが来てもまったく嬉しくないし心底どうでもいいだろうしな。

 はぁ、この家族……ほんと個性的すぎる。

「明梨ちゃん、元気そうでよかったです」

「え、チャリンコ同士で衝突しただけよ? まぁ、足折れたけどねー」

 そうすけのお母さんは陽気な発言とは裏腹に少し深刻そうな顔をしている。

 おそらくそうすけのことだ。

 聞いていいのか少し迷ったが……大切な後輩だ。知っておいたほうがいいだろう。

 それでも俺は迷っていた。そんな俺を見たのか、さっきまで口を開いていなかっただいきちが先にお母さんに問うた。

「お母さん、松阪のことについてお聞きしたいんですが」

「……!!」

 お母さんは少し驚いた表情をしたが、真面目な表情にすぐに戻した。

「……なにを聞きたいの?」

「松阪の昔にあったことです。松阪に昔何かがあったことは前々から気づいてはいたんですが、内容はまったく把握できてはいません。同じ部員として……いえ、俺たちの()()として知っておきたいのです」

 あぁ、こいつ……俺の思ってること全部見透かしてやがるな……。

 俺の顔に自然と笑みが漏れた。

「いつか……だれかに言うときがくると思ってたけど、まさか今日とはねぇ……」

 お母さんは深く息を吸い、吐き出した。

 そして俺たちの顔をしっかりと見据えた。

「いいわ。あなたたちに話す。そうすけのもう一人いた()のことを」

 俺たちは唾をごくりと飲み込み耳を研ぎ澄ました。

 僕の作品を読んで頂き感謝します!!

ほぼ10ヶ月ぶりですね。高校生活の合間合間に少しずつ頑張ってはおりましたが……もっと時間を有効活用したいです、はい。

 次回はそうすけの過去話を公開します。また次も読んで頂けたら嬉しいです。お楽しみに。

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