あの日の
なんか知らない場所に俺はいる。なんでこんなとこにいるのかもわからない。あれ……? 俺、頭おかしいのか?
「そうにいちゃん!」
声が聞こえる方へ向くと、どこか見覚えのある女の子が立っていた。その子は「そうにいちゃん」と呼んでいた。明梨なら顔は覚えていないはずだ。この子は一体……。
小学一年生のような背の小ささ。赤の服に、ピンクのスカート。あまりオシャレについてよく分からん俺にとってその姿がオシャレなのかはわからない。この子が幼いとはわかっているんだが……どこか懐かしくあり、遠い存在な感じがする。なんだか、この世のものとは思えないみたいだ。第一、ここはどこだ? 見たことない風景が俺の視界に写ってる。
「そうにいちゃん。ねぇ、あたしね? お母さんにランドセル買ってもらったんだよ」
「そうか。おまえもおねえちゃんになるんだな」
俺はなんで、この子と普通に会話しているのかもわからない。脳が勝手に反応しているみたいだ。気持ち悪い感覚だぜ、これ。気持ち悪くはないか。
「そうにいちゃん。今日の晩ごはんはあたしの大好きなハンバーグなんだって!」
「おお! にいちゃんもハンバーグ好きだぜ」
「楽しみだね!」
「うん」
こんなどうでもいい会話が価値がある気がする。ホントになんなんだろうな、これ。
そんな時だった。俺は話を続けたい気持ちに駆られ喋りかけようとした。
「……!?」
なのに、女の子が急に離れていった。おいおいおいおい……。地面を滑っているように足が動いてないんですけど?
「そうにいちゃん。なんで離れるの? あたしのこと……嫌いになったの?」
違うでしょ! 勝手に君が離れてるんじゃん! と思うだろう。実質、今の俺ならそう思っていたはずだ。なのに、なのに、俺はその言葉が心にグサっと響いた。特に、特に……
――あたしのこと……嫌いになったの?
そう言って泣きそうになっているその姿。
「……行くな」
その言葉は届かないのか、どんどんと俺から離れていく。
「……行くなよ」
「そうにいちゃん……どうして……ひどいよ」
「行くなぁあ!!!!」
俺は何してんだろ。別の視点から俺を見ている感じだぜ。女の子は俺の視界から消える寸前に
「そうにいちゃんなんか……大っ嫌い……!!」
この言葉を、昔に俺は言われた気がした。それぐらい心に響いてしまった。
瞼を開けると視界には蛍光灯が写っていた。視界が少しぼやけるのはなんでだ?
状況がよく理解できず、寝ていた体をゆっくりと起こした。うー、しんどい。
よく見るとここは部室のようだ。そういえば……部室に来てすぐにソファにダイブして寝ちまった。なるほど、なるほど。さっきまでの勝手に俺が喋ってる感覚の正体はこれか。
「……大丈夫?」
「ヒッ!!」
後ろから突然声が聞こえてびっくりしちまった。振り向くとそこにはいつも静かな白土先輩がいた。
夏の初旬だから仕方ないけど、ボタンとボタンの間から見える胸を隠してもらえますかね? 男は無防備な姿を見ると反応しちゃうんすよ。え? 変態かって? お前らも人のこと言えんのかよ。周りを見渡すとみんなも机に突っ伏せて寝てる中で(だいきちはパソコンと向かい合っているが)膝の上に手をついて胸見してきて、上目遣いだぜ? ……なんて、男の夢を見てる場合じゃねえ。
「さっきから、呻いてたわよ」
「マジすか!? 恥ずかしい……」
「しかも、涙出てるよ」
「え……」
目を擦ると手が濡れていた。はっ……、マジかよ。峯坂の過去のトラウマのように俺にも過去のトラウマを背負って生きている。思い出したくないもん見ちまったな……。
ちなみに、白土先輩は大人数の中で喋ることは程ない。けど、二人という状況になれば普通の色気ある女の子に早変わりしてしまう。今のこの状況のように。
「なんか悪い夢見ちゃった?」
「かなりキツイ夢っす」
「まぁ、そういう日もあるわよね」
二度とあってたまるか。
「そういえば、小説買いに行くんじゃなかったスカ」
「買い終えて時間があったからここにきたの」
机を指差し、そちらを見ると何十冊もの本の束が。
「小説ってそんなに面白いっすかね」
「小説は読む人によって世界観が違うと思う」
「それって質問の答えっすかね」
「『いつもの公園』と書かれていたら私は中くらいの大きさの公園を思い浮かべる。いっぱいの花があって自然豊かな公園をね。けど、ほかの人と私の想像が全く一緒になることは決してない。このそれぞれの想像によって作られる世界が私は好きなの」
「今のが答えっすか。ややこしいっすね」
小説に関して俺はよく知らないが、白土先輩には大きなもんだとは理解できた。
会話が途切れ、少しの沈黙。
そういえば、だてみち先輩のことについて聞こうかな……。
「……白土せんぱ……」
「なに?」
「……い、いえ。なんでもないっす」
いやいやいやいやいや。聞けるわけねぇだろ。聞いたあとの空気に俺は絶対耐えれないぜ。
もういいや、もう一回寝よう。
サブストーリーでした。次回も会えたら会いましょう!!




